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こぶし

作者: 神名代洸

以前ちょっとした事で腹を立て習いたてのボクシングの稽古のようにサウンドバックをしてた。当然父にはいいかおをされず、出来の悪い息子とは別れてくださいと何度も話したんですが、彼女はただ単に別れさせたがってるだけと考えていた。実際はそうではなかったのだが、親との衝突も1度や2度ではなかった。


だから親との仲は険悪な状態。

彼女だけが俺のそばにいてくれた。

彼女の前では強がってはいたが、もともと気が小さいところがある俺は拳で解決することが多かった。当然トラブルも多く抱えていた。


ある日、いつものように短気がでて手を出してしまった俺は、今回ばかりはヤバいと感じていた。何故なら相手が怪我をしたと訴えたあと、行方をくらませてしまっていたからだ。警察は訴えた本人が行方不明になった為、俺の所にやって来ると【何かやったのか?】と聞かれ、【何も】と答えると疑いながらもその場から立ち去った。


俺は混乱していた。

何故いなくなったのか?

どこに行ったのか?

何かあったのか?まさか…死んだりしてないだろうな?

などと負の事ばかりを考えるようになった。彼女も不安そうにしながら俺のそばにいた。



暫くしてまた警察が来た。

訴えていた男性が亡くなった状態で発見されたと…。

頭が真っ白になった。

だって本当に大した怪我をしてなかったはず。

大怪我してたのか?って。

トラブル当時ふらつきながらもその場を後にしていた男性が?

両手が震えた。

俺、捕まる?


ヤダ!

まだ俺18だぞ?

刑務所なんか行きたくはない。

そう考えると後先考えず自宅を飛び出した。彼女にも知らせず…。


警察はいなくなった俺を探し始めた。重要参考人てやつだろう…。そう思った。

だから顔をなるべく見せないように帽子を深く被り街中から田舎へと向かっていった。

まだ情報がきてないのか警官とすれ違うことはあっても職質はかけられることはなかった。

俺は運が良かったと思ったが、今この場にいない彼女の事が気になった。多分必死で俺のこと探してるんだろうなぁ〜。大丈夫か?あいつ。


逃亡生活を始めて1週間たった頃、俺はいつものように公園で野宿をしていた。人から見つからない茂みの奥で寝ていた。

寝ていたのに耳元で何かが近づいてくる足音が聞こえてきた。枯れ草を踏んでいるような音だった。

気になった俺は携帯の画面を明るくするも、時間は朝の1時半。早いというか、こんな時間に公園に来る奴がいるとは思わなかった。

聞き耳を立てているが、足音しか聞こえない。

ジッとしていたが、なぜか冷や汗をかいていた。なんでだ?

あまり気にすることではないと思うようにして、俺はゆっくりと寝返りをした。そしたら目の前に見知った顔が。

そう、亡くなったはずの人の顔が…顔だけが俺の目の前に現れたのだ。それはもうビックリして叫んだよ。でもこんな所に人が来る時間でもないので慌てて飛び起きて逃げ出した。

「なんで?なんで?なんで?」

俺は焦った。

ここは自宅からも死体発見現場よりもめちゃくちゃ遠くの場所なのだ。何でここに?

まさか俺に憑いてきた?

マジか?

ヤバいよ!

どうしたらいい?

わからん。

逃げるったって、どこに逃げたらいい?

憑いてるなら逃げるなんて出来るのか?

マジ勘弁。

俺のせい?

亡くなったのって…。

怨みとかあったのか。

悪かったよ。

頼むから許してくれ。

こんなことになるなんてマジで思わなかったんだ。

むしゃくしゃしてて八つ当たりしちまった。

助けて。

どうしたらいい?

逃げても憑いてくるよな。ならいっその事交番に行くか?事情を話してみて助けてもらえるなら頼もう。手荷物は最小限しかないので逃げる時持ち出せたのはよかった。ただこの後どうすればいいのかが全くわからないので、急いで交番に駆け込んだ。

警官は年配の人で、俺が興奮して早口でしゃべっていた為落ち着かせてくれてから話を聞いてくれた。

まさか幽霊に取り憑かれて逃げてきたなんて言ったって信じちゃもらえないのはわかっていた。けど気持ちの問題でホッとしている自分がいた。


「で?何回殴ったんだい?」

「え〜っと、…すんません。はっきりとは覚えてなかって。頭に血が昇ってたから。」

俺は項垂れた。

詰んだ。

俺はこれから刑務所ってとこに入るんだ。

その時も両親のことよりも彼女のことの方が気になった。きっと探してるに違いない。俺に惚れてるからな。呆れて別れたいと言われたら素直に別れる腹づもりではいる。当然の事だからだ。

犯罪者なんてやに決まっている。

俺は涙を流しながら一言「すまん。」とだけ呟いた。


警察署では俺が自首してきたことで捜査に進展が見つかると考えているようだった。

まさか幽霊が出て怖くなって自首しにきたとは思うまい。

頭が硬い連中だからさ。



捜査の結果、殴られたのが原因で亡くなったわけではないことがわかった。

どうやら他にも事件に関わっている人間がいるということらしい。

俺はわからなかった。

ただ拳を振るっただけ。

凶器とかは使ってない。

それだけは真実だ。

警官に何度問われてもわからないものはわからない。

だから指紋の採取にも協力した。

ブツが出てきたら照合するらしい。



暫くするともう1人重要参考人が現れたらしい。らしいというのは聞いただけだから。どこの誰かは教えてくれなかった。

それがまさか……。

俺は第一取調室にいる。もう1人は第二取調室だ。

でも何も聞こえてはこない。防音でもしてるのか?この部屋は?

そうこうしているうちに「今日はこのくらいで終わりにしよう。」と言われ、捕まらないのかとホッとしている自分がいた。

もう1人が犯人か?

一体誰なんだろう?まぁ、俺には関係ないか。

釈放され署から出た俺は夕方の日の光を見て眩しさに手で遮った。

「もうこんな時間か?てっきり捕まると思ったのに、警察は何してんだ?本当の犯人が出たのか?まぁいいけど。」

でも気になるのは死んだ人間がなんで俺に憑いていたのかって事。

関係ないとは言わないけれど、普通こういう場合は犯人に取り憑くんじゃないのか?

首を傾げながら自宅に向かった。

両親はいなかった。

どこにほっつき歩いてるんだ?俺がこんな目にあったって言うのに。


…にしても物が少ない気がした。

いつもより。

何でだ?

俺は気になったのであちこちのタンスを調べ始めた。なんかやましい事があるみたいでやだったが、両親が俺を探しもせずにいなくなった事が腑に落ちなかったのだ。

両親に何かあった?何が?

携帯を鳴らしてみたが繋がらなかった。と言うより留守録に切り替わった。

気にはなったが、ここでメッセージを入れても聞くかどうかわからないから無言できった。

俺がいる部屋以外は真っ暗で、なんか不気味に感じた。

まだ何かが俺に憑いてる気がして不安しかない。

あれこれ考えていたら、夜の12時になっていた。もう遅いから寝ようと思い、自室に戻ると部屋の電気を暗くした。


どれくらい経ったのだろうか…。遠くで電話のなる音が聞こえてきた。

慌てて電話が置いてある部屋に行き受話器を取ると相手はなんと警察からだった。

俺は頭が真っ白になった。なんでって?だって俺の代わりに捕まったのが両親だったから。

じゃあ、第二取調室にいたのは両親のうちのどちらかと言う事になる。でも2人とも帰ってきてはいない。じゃあ2人が犯人なのか?

状況が全く理解できない。

なんで両親がそいつを殺したんだ?

理由がわからない。


詳しいことは明日署の方で説明しますとのことだったので混乱した頭で自室に戻るも頭が冴えてしまってとても寝られそうもない。

そして、疑問なのは霊の存在。

殺した相手に取り憑くならまだしも俺は犯人じゃないんだ。

となるとなんで?となる。

明日というか、朝になるのが怖かった。

両親のどちらかが犯罪者?まさか。

でも2人いない。片っぽはついて行っただけなのか?

分からない。

それもあるのだが、暗い部屋が不気味に見えた。

霊がいるかもと震えている自分がいて、でも怖いと思ってたら霊がもっと近づいてくるようで、部屋中の明かりをつけて回った。

外が明るくなり始め、時計を見ると朝の6時。

俺はパンをかじりながらとってきた新聞を広げた。

地方版に事件がのってるかもと思ったのだ。でも、小さな事件は載ってなかった。

朝ごはんを食べ終わると俺は昨日の警察署に向かった。

警察署に着くと直ぐに別室に案内された。

両親のどちらかがいる?本当に?

俺は半信半疑で部屋の隅についていたガラスをのぞいた。そしたら母さんが座っているじゃないか。

「え?母さんが?犯人?」

「まだ取り調べの途中だから本星とは決まってないぞ?」

「あの〜、父さんは?」

「親父さんは別の部屋に待機してもらってる。だがな、肝心な凶器がまだ見つかってないんだ。お前さん、両親が大事なものを隠すとしたらどこだかわかるか?」

「う〜ん、そうだなぁ。自宅だと家宅捜索をされたら簡単に見つかっちまうから自宅以外か…。モゴモゴ。」


「あ!あそこか?」

「あそこって…どこだ?」

「家の近くに小さな神社があるんだよ。もしかしたらそこのどこかに埋めてるとか?母さんよく通ってたからさ。」

「そうか…なら調べてみるか。」

俺は本当のことを話したが、これでよかったのかと思うと不安で仕方がなかった。


「なぁ、俺も捜査に協力出来ないか?無理なら仕方ないけど…。」

「そうだな、これは警察の仕事だ。おまえさんは自宅で待ってなさい。何か進展があれば連絡する。」

「そう…ですか。そうですよね。すみません。口出ししちゃって。」

「まぁ、親が関わってるってなったら気になるさ。仕方ない。でも遊びじゃないからな。じっとしてな。」



言われて自宅に帰ってきたが、自分の自宅なのに落ち着かない。

見られてる気配を感じるのだ。

携帯を持っていたから携帯のカメラでそこら辺一体をカメラ機能で撮りまくった。はっきりしないがやはり霊だ。


霊の顔は怒っていた。なんで?

俺じゃない。俺じゃ…。

でも親だったら関係あるのかな。

わからない。

頼むから成仏してくれ。俺は必死に願ったが、霊は消えることはなかった。

程なくして警察から自宅に電話が入る。

犯人がわかったと。

それは悲しい知らせだった。

始めは1人だけの犯行だと思われていたのだが、なんと夫婦での犯行だと分かったのだ。お互いがお互いを庇い合うと言う結果に合わせて凶器が見つかったのだ。やはり俺が言っていた場所にあったそうで、電話口ではあるが俺は泣いていた。

聞いていた警官は慰めの言葉をくれたが、俺にはもう何が何だか…。そもそも何で見ず知らずの人間を殺めたのか。

それがわからない。

俺は誰にもそんな話聞かしてない。

彼女は言うわけないし。


そう、それが間違いだったのだ。彼女は両親に話していたのだ。これは後になって聞いた話だが、彼女はおおごとになったら俺と一緒にいられなくなると思い誰かに話したかったのだろう。それが俺の両親だった。

両親は直ぐに現場に駆けつけ男の後をこっそりついて行って様子を見ていたそうだ。

ふらつく男を見てもしかして頭の中の血管の一部でも切れてしまったのかもしれないと不安になりそれならいっそと近くにあった大きな石を持ち2人で交代に頭を殴ったと自供した。

なんでそんなことになってしまったのかはもうどうでもいい。

もう彼女とは一緒にいられないし、両親が今後どうなるのかも不安でしかなかった。

だが俺はまだ知らなかった。その後の両親の覚悟を。

取り調べしたから独房へ連行されて行った両親はお互いを見ることができないまま収監された。

翌朝、示し合わせたかのように2人はシーツを紐がわりにして首をくくって亡くなっていた。署内は大慌てだったようだ。

これから取り調べが本格的にと言うところだったのに2人ともが自殺をしてしまったからだ。

その知らせを聞いて俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。

頭の中が真っ白になってしまっていた。

両親がこの世から消えてしまったなんて今でも信じられない。ふと玄関を開け『ただいま。』って帰ってきそうに思えて仕方がなかった。俺はひとりぼっちになってしまった。


その日の夜、俺はなかなか寝つくことができず、月明かりの中外を見ていた。満月で明るかった。

何か夢でも見ていたような感じがして落ち着かない。

とにかく寝るしかないと布団を被りようやく寝付けることができた頃俺は夢を見ていたようだ。

だって目の前に両親が立っている。

その隣には亡くなった人も立っていた。

両親はその人に引っ張られるようにどんどん俺から離れていく。

「いくなよ!父さん、母さん!」

それでも両親はスーッと遠ざかっていく。

「わぁー!」って叫んだ時に目が醒めた。

箪笥に立て掛けてあった家族写真が箪笥の下に落ちてガラスは粉々に砕けていた。

俺は黙ってそれを手に取ると写真を取り出し両親の顔を見ていた。

夢で見ていた両親は悲しそうな顔をしていた。

殺された人はニヤッと笑っていた。

そう、そいつが両親を連れて行ってしまったのだ。

俺のせいで。俺の為に…。



それからの俺はかっとなりやすい性格を治そうとお寺に坐禅をしに行った。住職は特に何かを知っている様子はなく、ただやってきた僕を黙って寺の中に入れてくれたのだった。


座ってじっとして頭を空っぽにしようとしたがなかなか思うようにはならず、しまいには涙が頬を伝ったがそれでも住職は何も言わなかった。

たぶん明日の新聞記事には載るかもしれない。刑務所内での自殺だからさ。しかも夫婦なんて滅多にないだろう。


とにかく今は何も考えたくはなかった為、無心になることだけに集中した。どれくらい経っただろう…。

住職がようやく口を開いた。

「何があったか知らないが、そろそろ自宅に帰りなさい。ご家族が待ってるんじゃないかな?」

その時になって僕は涙を流して泣き出した。

「もう両親はいないんです。2人とも死んでしまって。だから帰っても僕1人で。」

「そうか、そうだったのか。それは知らずに申し訳ないことを言った。すみません。」

「いえ、それはたいした事じゃないんで大丈夫です。僕、帰ります。」

「まぁ、待ちなさい。どうだ?これから一緒にご飯を食べてかないかい?」

「いえ、大丈夫です。色々とすることがあるのでこれで帰ります。ありがとうございました。」

そう言って僕は寺を後にした。


自宅に帰ると玄関に人影が…。それは彼女だった。

いつまで経っても誰も帰ってこないのを心配したらしく、ずっと待っていたようだ。

「ねえ、何かあったの?ご両親の姿が見えないんだけど…。」



僕は黙ったままただそっと彼女を抱きしめた。そしてゆっくり離れた。

彼女は何故?と言う顔をしている。

だから今まであった事をゆっくりと話し始めた。それは彼女にとっても残酷な話だった。

「そ、そんな。じゃあ私が話したことが原因?ウソ!そんな…ウソよ。」そう言いながら泣き出した彼女をただその場で見ていることしかできなかった僕は彼女と別れようと言葉を発した。彼女ははじめ何を言われているのかを理解できず顔を横に振った。でも僕の意思は変わらない。自宅も売ってどこか別の場所に住もうと考えている。

仕事はなんとかなるだろう。

働かなくては。

僕は彼女をその場にのこし自宅に入っていった。鍵をかけ外からは入れないようにした。

月明かりは部屋の中を明るくしてくれる。

でもここにいるべき人は僕以外いない。

ポッカリと胸の奥が開いてしまっていて何も考えられなかった。

辺りを見回すと懐かしい記憶が思い出され、辛くなる。

僕は何も考えずにキッチンにいき、からの鍋をコンロにおいて空焚きを始めた。

それをすればどうなるかはわかってる。

火事になって僕は燃え尽きるのだ。熱いだろうなぁ。苦しいかなぁ。まるで他人事のようにその場に突っ立っていた。

どれくらい経っただろうか…、鍋が黒焦げになり、火がついた。

臭いなぁと思ったくらいで特に感情はわかなかった。これで両親のもとに行ける。

それだけが頭にあった。


あちこちに火花が燃え広がり、どこかでガラスが割れる音がした。

そして火をつける前に飲んでいた眠くなる薬を飲んでいたせいか僕はさほど苦しむことなく両親の元に旅立った。





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