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放浪の果て  作者: パテンリ
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第9話 解放者

 亜人たちが神族や人間たちの奴隷となった事で、人間たちの負担する労働の割合が低下し、彼らのy余裕が生じた。その余裕により人間たちは緩んだ生活を送るようになったが、ダリヌメアが以前から進めていた調査結果によって、彼らに緊張が走った。それは全滅したと考えられていた竜たちが遠く離れた孤島に僅かながら生存しているというものであった。

 竜といえば、彼らが今住んでいる星パミクステラに元々住んでいた種族であり、自分たちが彼らを追い込んだ事は誰でも知っていた。その竜たちが生存しているのなら、自分たちにいつか復讐しに来るのではないかという恐怖があった。とは言え、竜の生存者は少数らしかったので、今の内に全滅させてしまおうと人間たちは言っていた。そこでモノゴリウスは軍を孤島に派遣したが、数日経っても彼らは戻らず、増援を送り込もうとした。しかし、増援を送り込んでから数日後、海岸に無数の死体が打ち上げられ、彼らは軍の完全な敗北を悟ったのだった。軍の敗北によりモノゴリウスは緊急会議を開き、そこにはダリヌメアもいた。

「孤島に派遣した兵士たちは全て骸となり、海を漂って海岸に流れ着いた。このことから竜たちは少数ながらも以前の彼ら以上の力を保持していることが判明した。我らは彼らの脅威に対してどのように対処すれば良いのか、皆の意見を聞かせてくれ」

 モノゴリウスの言葉を受けてその場に集まっていた者たちは意見を言い出したが、どれも解決策になる可能性が少しも感じられなかった。そこでダリヌメアが発言した。

「今回敗北したのは軍の一部ではありましたが、竜たちの力を侮るわけにはいきません。そこで兵士たちの鍛錬や強力な兵器を開発することにします。さらに亜人たちを戦闘用に改造し、奴らを最前線に立たせることとします。これにより我らの犠牲は少なくなるはずです」

 ダリヌメアの他に誰も何も言わず、彼女の意見に反対する者もいなかったので、モノゴリウスは彼女の意見を採用することになった。

 こうして亜人たちはさらなる改造を施され、戦闘用の兵士として運用されることになった。亜人たちは神族や人間に逆らえないように改造を施されていた為、少々強くなっても不都合は無かったのである。亜人たちに施された改造というのは例を挙げれば、自分たちだけでは生殖活動が不可能である体であること、彼らは特別な食料でなければ生存できず、その食料は神族や人間しか作成できなかったこと、彼らの生存には噴出口のエネルギーが必要であったが、それを補給するには神族や人間の助けがなければならなかったこと、などである。

 このような制約の中、亜人たちは神族や人間たちにこき使われることになっていた。初期亜人たちは他の亜人たちよりも学習能力が高かったので、神族や人間たちの命令を亜人たちに伝えるような役割も担っていた。彼らは皆耐えがたい苦しみを持っていたが、誰も現状を打破する術を持たず、ただ皆で支え合いながら辛く厳しい毎日を送っていた。

 亜人たちの苦しみを理解しようとする者はラミマルブしかいなかったが、彼は亜人たちとの接触を禁じられ、軟禁状態となっていた。彼は亜人たちが今どのような状況にあるのか詳細に知ることは出来なかったが、何とかしようとしていた。ただ彼は監視状態にあったので何か実行することは不可能であった。彼は夜になると毎日悔しそうにしていたが、亜人たちを救うことを諦めることは無く、常に考えを巡らしていた。

 一方、神族や人間たちは竜の襲来に怯え、科学技術を用いた兵器を開発し、兵士たちの鍛錬もしっかりと行っていたが、竜たちは一向に攻めて来る気配が無かった。そこで彼らは気が緩み、もしもの時は亜人たちや機械兵器などに任せておけばよいと考え、怠慢な守備を行うようになった。それでも竜たちには目立った行動は無く、ダリヌメアでさえも気が緩むような状況となった。

 この時、彼らは軌道エレベーターなどを守る為、巨大植物を改良した種である世界樹なるものを作成し、その植物を軌道エレベーターに巻き付けることで、それを守ろうとした。植物はどの星にも生息しており、噴出口の奪い合いに参加しない特別な種族であって、基本的に中立的立場にある者であった。植物は生物たちの栄養源となっていたこともあり、どんな生物たちも植物を攻撃しようとする者はいなかった。植物はその星の噴出口のエネルギー量によって大きさが変動し、ここではパミクステラの植物が一番大きく強かった。そこで神族や人間たちは植物を改良し、軌道エレベーターを守らせることにしたのである。しかし、これは彼らが勝手に勘違いした事であり、植物は彼らの改良を受けていなかった。神族や人間たちは植物を支配下に置くことは出来ておらず、植物はただ自分の意志で軌道エレベーターに巻き付いたのである。

 さて、神族や人間たちが軌道エレベーターを守ろうとしたのはそれが彼らの最後の脱出手段であった為であり、さらにそのエレベーターの周りには重要な設備が付随していた為でもあった。その設備の1つに牢があり、そこにはラミマルブがいた。彼の1日はやる気を見せる時とそうでない時の差が激しかった。彼は使命感のようなものに闘志を燃やしていたが、それが実を結ぶことが無かったので、暗く沈んでしまう時もあったのである。

 ある時、彼はだらんとした姿で、狭い窓の外を見ていた。窓の外の大半は世界樹によって覆われていたが、彼はその隙間から亜人たちの姿を見た。そして独り言を呟いた。

「彼らは今も苦しんでいる。いっそ私が彼らを亜人としなければこんなことにはならなかった。私は彼らを自由にしてやりたいだけなのに、なぜか他の者たちは邪魔をしてくる。誰か彼らを助けてくれ」

 その時、世界樹の幹なのか枝なのか判別出来なかったが、そこから1つの光り輝く果実が現れた。その果実はなぜか窓の隙間から牢の中に進入し、ラミマルブの目の前まで移動してきた。ラミマルブは驚いて動けなくなっていたが、その果実を自らの手でつかみ、何か祈るような仕草を見せた。すると果実の光が消えて再び動き出し、牢の外へ出ると世界樹の幹か枝に吸収されて見えなくなった。ラミマルブは不思議そうな顔をしていたが、何事も無かったかのように再び亜人たちの事を考え始めた。

 それからしばらく、亜人たちは竜の襲撃に対する警備を一歩的に押し付けられて自由を失い、対して人間たちは殆ど仕事をせずに自由な生活を送っていた。相変わらず竜たちは動きを見せず、神族や人間たちは緊張感を失っていた。しかし、ある時何の前触れも無く、大きな地震が発生した。揺れはすぐに収まったが、突如人間たちの目の前に巨大な竜が出現し、何の躊躇も無く、彼らへの攻撃を開始した。それに呼応するかのようにあちこちから竜たちが出現し、神族や人間たちへ襲撃を始めた。不意打ちを受けた神族や人間たちであったが、亜人たちの働きによりそれ程大きな被害はでなかった。しかし、彼らにとってそれは当然の事であったので、感謝や労いの言葉が発せられることは無かった。

 さて竜たちの襲撃の報告を受けたモノゴリウスはすぐさま皆に命令し、反攻を開始した。彼らの軍の殆どは亜人兵、もしくは機械兵器であり、それらは十分に強い戦力であったが、竜たちは以前の何倍も強くなっており、互いの勢力は互角の戦いを繰り広げることになった。最初に人間たちを襲撃した巨大な竜は山脈が動いているような存在感があり、移動しているだけで甚大な被害をもたらしていた。そこでモノゴリウスたちは彼らの最大火力とされる宇宙兵器から放たれる光線を用いて巨大竜を攻撃した。作戦は成功し、巨大竜は倒れることになったが、巨大竜は倒れる寸前に自らの体を爆散させ、近くにいた者や兵器、宇宙兵器などを壊滅させた。これにより神族や人間たちは多くの戦力を失ったが、彼らにはまだ亜人兵が残存していた。亜人兵は強力であり、竜たちも手を焼いていた。しかし、彼らの戦いは熾烈を極め、竜、神族や人間、亜人、他の生物の多くが犠牲となり、徐々に神族や人間たちは追い詰められていき、彼らは軌道エレベーターの直下辺りにまで後退していた。ここまで竜たちが優勢だと見られていたが、竜たちにも何か問題があったようで、侵攻の苛烈さが幾分弱まった。その為、神族や人間たちは亜人や機械兵器を用いて劣勢を打開しようとした。

 ある夜、いつものように初期亜人たちは残存する亜人兵たちと共に神族や人間たちの下へ戻ろうとしていた。彼らはほぼ休みなく働き、心身ともに疲れ果てていたので、皆が肩をすぼめて地面を見つめていた。そんな時彼らに何者かの声が聞こえ、彼らはその声をよく聞く為、声のする方向へと移動した。するとそこに光り輝くいくつかの果実が見え、どこからともなくその果実を食べなさいという声が聞こえた。初期亜人たちはその声に聞き覚えがあるようで何の迷いも無く、果実を口にした。果実を口にした瞬間、初期亜人たちは光に包まれ、光が収まった時、彼らの肉体に変化は見られなかったが、顔つきには大きな変化が現れていた。彼らの顔は輝かしい未来への希望を持った者のように明るく、しっかりとしたものとなっていた。初期亜人は亜人兵たちに向かって言葉を投げかけた。

「我らは今、世界樹の加護により人間たちの支配から脱却する術を身に着けた。これまで我らは彼らの支配を受け入れるしか無かったが、これからは違う。我らはある者によって亜人となり、自由を手にするはずであったが、人間たちの思惑によって新たな枷にはめられてしまった。しかし、今私たちは再び、彼によって支配者に反抗し得る力を手に入れた。この力をもって我らは全ての亜人たちを自由へと導く解放者となろう」

 初期亜人の1人がそう宣言すると他の初期亜人たちも彼の意見に賛同し、彼らは神族や人間たちに反旗を翻した。初期亜人たち以外の亜人たちは未だ不自由なままであり、彼らの戦力はたった13人しかいなかったが、恐るべき力を発揮して神族や人間たちを追い込み、ついでに竜たちも倒していった。

 モノゴリウスはこのままでは全滅すると考え、予め建造していた人工の星を宇宙に打ち上げ、残存した全ての神族や人間たちと共に軌道エレベーターを昇って軌道ステーションへ行き、そこから人口星へと逃げて行った。この時、ラミマルブやダリヌメアも人口星へと移動したが、ダリヌメアの右腕であったエテモニアは死亡した。竜たちも全滅寸前まで追い込まれたが、再び孤島へと逃走して、行方をくらました。これによりパミクステラを巡った竜と神族や人間の戦いは新たに現れた亜人たちの勝利に終わることになったのであった。

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