第8話 亜人の誕生と利用
パミクステラに住む神族や人間たちが豊かな暮らしを楽しむ中、ラミマルブは苦しんでいた。彼は以前から多くの多様な生物たちを管理しながら、彼らとの意思疎通を絶えず目指していた。その研究は中々実を結ばなかったが、彼はそれらの生物たちとの間に強い仲間意識を感じていた。彼は生物たちに対して愛情を持ち、とても大切にしていたが、ある時、多くの生物たちが原因不明の死を遂げた。ラミマルブは慟哭し、さらに研究の挫折を味わったことで深く落ち込んだ。しかし、生き残った動物たちの中でそれなりに年を取っていた者たちが真っ直ぐ彼を見ながら何度も鳴き声を上げていた。明確な言葉では無かったが、ラミマルブにはそれが彼らの励ましだと感じられたようで、彼は気持ちを改め、研究を再開した。
とは言え、ラミマルブの研究は他の者たちにとって殆ど意味の無いものであった為、噴出口のエネルギーをあまり確保することが出来ず、中々進展がなかった。彼はモノゴリウスに何度か噴出口のエネルギーをもっと使用させてくれるよう要請していたが、毎度却下されていた。それどころか偶に嫌がらせや妨害を受けることもあった。けれど、ラミマルブは自らの信念を曲げることは無く、研究を続けた。
そんなある時、彼はいつものように生物たちの体調確認を行っていたが、ある異変を察知した。その異変とは動物たちの肉体の一部の壊死であった。その症状は以前生物たちが大量に死んでしまった時の前兆のように感じられた。ラミマルブはどうにかして彼らを救いたいと考えていたが、その手段を知らなかった。彼は焦燥感、そして無力感を感じ、絶望寸前まで追い込まれていた。彼は動物たちを前に涙を流しながら独り言を呟いていた。
「生物は皆同じ命を授かっていながら、なぜ彼らだけがこんな不条理な生を受けなければならない。彼らが何をしたというのだ。彼らは私よりも後に生まれたが、誰にも害を加えず、私に喜びを与えてくれた。そんな彼らがなぜこんなにも早く、私よりも先に死ぬのだ。しかも互いに意思疎通が叶わず、彼らの苦しみを十分に理解できず、彼らがただ弱って行く様を見ているだけ……こんなのはあんまりだ」
このようにラミマルブは弱り果てていた。ただこの時、彼には生物たちを助けられるかもしれない1つの方法があった。それは生物たちに人間の要素を掛け合わせ、新たな生物種を作り出そうとするものであった。これには人間もしくは神族の生体情報と噴出口のエネルギーが必要であることが判明していた。けれど、彼は何度か実験していたが成功せず、生物たちの負担を考えて以前から中止していた。このまま何もしなければ生物たちは死んでしまうが、その方法を試してみれば命が助かる可能性があったので、彼はその方法を試してみることに決めた。彼は準備を整える前に被検体となる生物たちに声かけを行った。
「皆、すまない。私がもっと研究を進められていれば、こんな不確かな方法を取らずに君たちを救えたのかもしれない。残念ながら今君たちが助かるかもしれない方法はこれしかない。しかし、この方法は危険だから、君たちが嫌だと言うのなら首を横に振って私から目をそらしてくれ。それでもしも、この方法を試してくれるのなら君たちの声を聞かしてくれ」
動物たちは静かにラミマルブの話を聞いていたが、彼の話が終わると皆で一斉に鳴き声を上げた。それらの動物たちは鳴き声を上げながら動き回ったり、跳ねたりして、ラミマルブの提案に賛成の意を示しているようだった。それを見たラミマルブはうれし泣きをしていた。
「ありがとう。パルレミス、ベロリアム、ピゲレド、ルフレリア、フィポタリアン、タバルカン、フェドゲアス、ペリスネス、シルセヌク、ヴァノヴィント、テレドゼア、リミベノ、エプリフィア」
ラミマルブは彼らの名を呼び、再度1体ごとに反応を確かめると、盗んできた噴出口のエネルギーを用いて彼らと人間の要素を掛け合わせた生物を生み出す為の実験を開始した。彼が用いたのは昔行った実験と同じ装置であり、使用した素材なども同一のものであったが、違うものがあった。それは被検体が彼らである事と彼らとラミマルブの間に強い何らかの繋がりがあったことである。その結果なのかは不明であるが、実験は成功し、動物たちには肉体的な変化が訪れ、彼らは別の生命体となった。こうして初期亜人が誕生したのである。
彼らが装置の中から出て来た時、ラミマルブはその光景が信じられなかったようで、茫然としていた。初期亜人の姿は人間に近くなっており、彼らはしっかりとした足取りで歩行を行えるようになっていた。彼らはラミマルブに近付き、彼の名前を呼んだ。言葉を発した事にラミマルブは驚いていたが、当の本人たちも自分たちが言葉を発した事に驚いていた。その後彼らは感謝の言葉を述べながらラミマルブに抱き着き、ラミマルブも彼らに感謝を述べて抱き着き返した。その後彼らは大はしゃぎをすることになった。
「私たちやっと、しゃべられるようになった。うれしい」
「私も君たちと同じ言葉を交えながら会話することができるようになって最高の気分だ」
「私たち、他にも色々良くなった。例えば耳と目」
「なるほど。君たちは会話能力以外も強化されたという事か」
彼らが言うように初期亜人たちは元々動物であった時、様々な能力が人間に比べて大きく劣っていた。しかし、初期亜人となった事で殆どの能力が向上し、下級神族に匹敵する程となった。彼らはまだ少し言葉が不自由であったが、ラミマルブと共に皆で学習し、すぐさま十分な段階へと達した。初期亜人たちはラミマルブと話し合い、他の生物たちを枷から解放する為の方法を探りだした。
程なくして、ラミマルブが初期亜人を生み出した事はダリヌメアに知られた。ラミマルブはダリヌメアたちが自分の研究に興味を示さず、むしろ妨害をしてきた過去から、彼らに初期亜人誕生の件について報告していなかった。けれど、ラミマルブの顔つきが以前とは明らかに違っていた為、ダリヌメアは何かがあったと感づいた。そこで密かに調査を行い、初期亜人誕生の真実を突き止めたのである。そして、報告を受けたダリヌメアはモノゴリウスに報告した。
「ラミマルブはどうやら亜人なる者たちを誕生させたようです。私はその者たちに利用価値を見出しました。そこで、研究の支援をして彼を喜ばせ、我らの介入を承諾させるのです。そして、我らの理想の為、亜人たちには奴隷となってもらうのです」
「そうか。ならば、そうしよう」
モノゴリウスは何の反論も無く、ダリヌメアの意見に賛同したので、彼女によってラミマルブの研究に手厚い支援が送られることになった。ラミマルブは少し怪しんだが、その支援を有難く受け入れて、研究を進めた。彼はより安全で確実な方法を模索する為、初期亜人たちと一緒になって、装置の改良を行いながら、他の新しい方法なども試した。彼の研究は全面的に受け入れられ、大きな敷地や助手、物資などが与えられた為、彼の研究所は大規模なものとなった。
「ラミマルブ先生。この部品はどうしますか?」
「それは後で使うから、そこに置いておいてくれ」
「わかりました。それにしても先生はいつも忙しそうですね。少しは休まれた方が良いのでは?」
「そういう訳にはいかない。今も彼らははめられた枷によって苦しんでいる。私は少しでも早く確実に、彼らの枷を解いてあげたい」
「先生はさすがですね。僕たちも微力ながらお手伝いさせていただきます」
「ありがとう。前までは誰も周りに居なくてちょっと寂しかったのだが、今は君たちがいてくれるだけで嬉しいよ」
このような感じでいつもラミマルブと助手たちは研究の傍らで談笑していた。しかし、彼の助手となった者たちはダリヌメアの息がかかっていたので、表面的にはラミマルブの研究や考え方を肯定していたが、裏では忌み嫌っていた。ラミマルブはこれまで殆ど他人と関わってこなかった為、彼らの本性について気付かず、彼らの偽りの面に満足して楽しい日々を過ごしていた。けれど、どうやらラミマルブを騙すという事に嫌気がさした者がいた。
「ラミマルブ先生。少しよろしいでしょうか」
「構わない。険しい表情をしているが何かあったのか?」
「ごめんなさい。僕は先生を騙しているんです」
「えっ!何を、どういう風に?」
「今は内容を明かすことができませんが、先生を騙しているんです。僕って最低ですよね」
「いや、君は他者を騙すことが悪い行いであると自覚している。君はそれに気付けない者たちよりも優れている。後は悪い行いを正せば、君はさらに良い者となれる。でもこうして私と会話してくれる君は、私にとって最高の友人さ」
「先生……ありがとうございます」
その者はラミマルブの言葉に励まされ、覚悟を決めてダリヌメアに直接相談しに行った。ダリヌメアはその場ではラミマルブを騙す事は中止しようと言っていたが、実際には今まで通りラミマルブを騙し続けようとした。その為、その者はもう一度相談しに行こうとしたが、ダリヌメアの配下の者たちに暗殺されてしまった。その者の死は事故によるものだとされたが、ラミマルブは何か異変を感じ取った。彼はその者の死が偶然ではないと考え、何者かの陰謀が隠されているとし、警戒を強めた。
しかし、ダリヌメアたちはラミマルブが自分たちの存在に注意を向ける前に行動しようとした。そこで彼の研究がある程度進んだ所でダリヌメアたちが介入を開始したのである。彼女らはある日突然、ラミマルブの研究所を訪れ、亜人研究を自分たちの主導の下、行うように勧告した。当然ラミマルブと初期亜人たちは反対したが、兵士たちや助手たちが一斉に彼らを拘束した。
「何をする。私たちは同じ研究仲間じゃないか」
「愚かな奴だ。俺たちはただダリヌメアの命令で、お前に付いていただけだ。仲間でも何でも無い。1人だけ違う奴がいたようだが」
「まさか、彼を殺したのは……」
「私たちですよ。彼は与えられた任務を放棄し、命令違反を犯しました。そうなってしまえば、もう彼に価値は無いので、退場してもらいました」
「何という奴だ。同種の者をそんな理由で殺すとは……」
「おや、あなたたちが亜人ですか。本当に会話が可能とは驚きました。ふぅん、中々いい体をしていますね。これなら我らの計画を十分実行可能でしょう。彼らは別々に連れて行きなさい」
ダリヌメアの命令を受けた兵士たちはラミマルブと初期亜人たちをそれぞれ別々の場所へと無理やり移動させた。その後、ラミマルブの所にダリヌメアが来て、彼に言葉を投げかけた。
「もし、私たちの研究に協力してもらえないのなら、あの亜人たちや他の動物たちは処分させてもらいます」
「止めてくれ。彼らの命だけは」
「なら、協力してもらえるという事ですか?」
ダリヌメアの問いかけにラミマルブは首を縦に振るしかなかった。彼の協力を得ることに成功したダリヌメアは醜悪な笑みを浮かべた。
一方、初期亜人たちにも協力しなければラミマルブの命を奪うという言葉が浴びせられ、彼らもラミマルブの命の為、無理やり協力させられることになってしまった。
そうしてダリヌメアはラミマルブの研究と初期亜人たちを利用して多くの亜人たちを生み出した。彼らは神族や人間たちに逆らえないような状態になるように改造を施され、死からは逃れることが出来たが、束縛された生活から脱却することは叶わなかった。初期亜人たちも後から無理やり改造させられ、神族や人間に逆らうことが不可能な体となってしまった。そして、彼らは神族や人間たちの奴隷となり、皆が拒絶するような汚れた仕事ばかりを受けさせられるようになったのであった。




