第6話 陰謀
コミュルドを中心としたパペルステラの者たちは竜族と微笑ましい日常を送っていた。竜族は全体的に体が大きかったが、パミクステラの植物も彼らと同じくらい大きく、パペルステラの者たちでは中々、手が届かない事があった。その場合、竜たちは半ば自発的に彼らの為に行動し、彼らの不足を補うのであった。パミクステラは元々豊かな星であったが、パペルステラの者たちがもたらした科学技術によってより一層豊かな生活を送ることが出来るようになった。竜たちはその恵まれた肉体を駆使することで、また神族や人間たちは豊かな知恵と道具を用いることで、生活を発展させていったのである。
彼らが共同生活を開始してからいくらかの日数が経過した日の事、コミュルド主催の元、彼らは大勢で集まり、皆で大騒ぎする計画を立てた。これは神族や人間たちが竜たちと良好な関係を築いたことを証明すると同時に、さらなる関係の向上を目指したものであった。またコミュルドはダリヌメアたちの作業がそろそろ終了するだろうと考え、最後に彼らを祝福するつもりでもあった。また彼女は何か個人的な事を計画しているようでもあった。
そんな中、密かにダリヌメアたちが何かを企み行動していた。彼女らは竜たちと共にパミクステラに住めないと考え、別の新天地を求めていた。その為、宇宙船を修理し、軌道エレベーターを作成し、その先に軌道ステーションを建造していた。しかし、彼女らが作成しているのはそれだけではないようであり、何か別の目的があるようにも思われた。ダリヌメアは配下の者たちを集め、密談を開始した。
「この星の噴出口のエネルギーは言葉では言い表せない程素晴らしいものです。しかし、それを主に扱うのはあの愚かな竜という生物であり、次にはコミュルドとなっていますが、どちらも全く相応しくありません。彼らはあの素晴らしいエネルギーを微塵も理解できず、ただ気楽に日々を過ごしているのみ。勿体無いことこの上ない!」
ダリヌメアは徐々に感情が激しくなっていったが、そこで少し落ち着く為の間を取ると再び言葉を続けた。
「あのエネルギーを我らが独占すれば、素晴らしい世界が実現するでしょう。そうすれば他者の恐怖に怯える必要は無くなり、この世の全てを手にした支配者となります。そうして我らが超越者となり、完全なる世界に君臨するのです。しかし、その為には竜もコミュルドたちも必要ありません。彼らは世界を停滞させ、我らの未来を閉ざし、自分たちだけが幸福を味わおうとしています。これが許されてよいのですか?」
ダリヌメアの問いかけに配下の者たちは応え、竜やコミュルドたちの排除を宣言した。その様子を見たダリヌメアはしたり顔をしていたが、すぐに次の言葉を発した。
「コミュルドは以前から指導者に相応しくない挙動が目立っていたが、対してモノゴリウスは指導者に相応しい行動の数々を我らに示して見せました。彼は現在、コミュルドの陰謀により危機的な状況にありますが、彼は必ずやコミュルドを打倒し、我らの前に新たなる指導者として君臨することとなるでしょう」
ダリヌメアの配下の者たちは彼女の言葉を全肯定し、モノゴリウスこそが自分たちの指導者に相応しいのだと復唱していた。ダリヌメアは彼らの反応に満足し、その集まりを解散させた。解散後、彼女の右腕とも言えるエテモニアという者がすり寄って来た。
「さすがはダリヌメア様、見事な話でした」
「私は出来る限り目立たず、モノゴリウスを利用して思うがままに物事を進める。彼は実直ですから、皆に担がれてしまえば、後は容易いものです。ふっふふ、痛快ですね」
「先ほどの者たちもあなたが立てた計画に喜んで命を投じるはずです」
「この星の噴出口と真に繋がることが可能なのは神祖だけです。私の本当の目的はこの星と噴出口を神祖に献上し、神祖の作る新たな世界に導いてもらうこと。そこに至るまでの道に転がっている命など興味ありません」
「全てがあなた様の手の中というわけですな」
「まぁ、そういうことになりますね」
二人は一緒になって高笑いをしていたが、その様子を見ることが出来た者は1人もいなかった。彼らの悪事を阻む者はおらず、彼らによって確実に実行されていくのであった。
そのような事があった後、ダリヌメアはモノゴリウスに接触した。
「目的の物は全て作り終えましたので、そろそろ私たちは旅立つつもりです」
「そうか。こんな事になって残念だが、君たちの無事を祈っているよ」
「最後にあなたに言わなければならないことがあります」
急にダリヌメアは改まり、モノゴリウスは不審に思ったものの彼女の言葉に耳を傾けることにした。そして、すぐに彼は驚くことになった。
「実はコミュルドは宇宙船を故意に落とそうとしていたのです。彼女はあなたと仲良くしたいが為に燃料を無駄にし、制御装置を破壊しました。偶々この星に落ちたから良いものを、彼女は我らを滅ぼすつもりであったのです」
モノゴリウスはその内容を信じられなかったが、ダリヌメアはコミュルドが実際にそれを行った姿を目撃した者を連れており、その者はダリヌメアの言葉を裏打ちした。その者はコミュルドと親しく、嘘をつくような者では無かった為、その内容が真実である可能性は高かった。
「今の話だけでも彼女が指導者として相応しくない事が理解できると思います。しかしこれだけではないのです。彼女は私たちを妨害する為、残存していた噴出口のエネルギーを宇宙に放出させました。これにより多くの船員たちは苦しみながら死ぬことになりました。彼女はこの星に着いてからも私たちに嫌がらせをし、結束力を失わせました。彼女はさらに竜たちと交わり、密かに私たちのような不満分子を消そうとしています」
ダリヌメアの言葉を聞いているモノゴリウスの頭の中には普段のコミュルドの様子が映し出されていた。確かに彼女はモノゴリウスが以前共に科学技術を兵器に転用し、暴力行為を進んで行おうとしていた者たちと再び接触しようとするのを妨害していた。しかし、それは自分が道を逸れてしまわないように彼女が心配りをしてくれた事であったと思い込んでいた。コミュルドは確かに不満分子の者たちに冷たく当たっていたが、それは仕方のないことだと思われた。けれど、ダリヌメアが最初の方に言ったコミュルドが自分たちを敢えて危険な目に遭わせていたという事実は覆らず、彼の頭を酷く悩ました。さらに彼は最近、コミュルドに意識的に避けられている様子であり、態度もどこかよそよそしいものがあった。そこから彼はコミュルドが自分に内緒で恐ろしい計画を立てているのではないかと考えてしまった。
頭を抱え込みながら悩むモノゴリウスを見たダリヌメアはさらに言葉を続けた。
「竜たちは既に私たちを滅ぼす用意を整えています。ここで私たちが行動しなければ全滅して、デウマシナ様の意志が今度こそ本当に失われることになるでしょう。コミュルドは私たちを裏切り、自分だけが恩恵を受けようとしているのです。彼女は私たちがこの星に来てから放棄した兵器を処分することなく、保管しており、それを使用して私たちに危害を加えようとしています。また彼女は竜たちとの暮らしを望み、デウマシナ様の意志を捨て去りました。そして彼女にとってあなたは最早何の価値も無い者となり、ただの邪魔な障害となり果ててしまった。そこでコミュルドはあなたや私たちを殺す計画を立てたのです。最近あなたの周りで死人が出ましたか?」
その質問を受けたモノゴリウスには何か思い当たるものがあった。彼は一応コミュルドに次ぐ地位の者であったので、直接の配下に当たる者を複数持っていた。しかし、最近それらの者たちが相次いで不審死していたのである。彼はまさかという顔をしていたが、ダリヌメアは彼らの死にはコミュルドが関わっていたとし、証拠と見られるものをいくつか出した。そして、ダリヌメアはまだ何か言おうとしていたが、それをモノゴリウスが止めた。
「もうたくさんだ。俺は彼女が我らの指導者に相応しくないことをようやく理解できた。だが、彼女の汚れた姿はもう見たくない。だから……俺が彼女を捕まえる」
「良くぞ、決断なさいました。これも我らの未来の為なのです。彼女は我らに明るい未来を見せるどころか、暗く汚れた未来を突きつけようとしてきました。今彼女を葬らなければ待っているのは絶望だけです」
決意を固めたモノゴリウスの姿を見たダリヌメアは喜びを示し、コミュルドの居場所を教えた。ダリヌメアはコミュルドを捕らえた後、彼女の裁判を行い、そこでコミュルドを断罪するつもりだとした。モノゴリウスはそれらの話を聞くと武器を携え、血走った目でどこかを見据えながら、不安定な足取りでコミュルドの居場所へと向かった。ただ彼はやはり、ダリヌメアの話が信じ切れていないようで、独り言のように呟きながら移動していた。
「あり得ない。なぜ彼女がそんなことを……だが、確かに怪しい行動を見せていた。やはり彼女は俺たちに危害を加えよとしていたのか……いや、まだだ。彼女に直接聞いてみよう。そうすれば、全てが覆るかもしれない。きっとそうだ、そうに違いない」
モノゴリウスは自身に何か言い聞かせるようにぶつぶつとしゃべり、フラフラとした足取りであった。しかし、彼の目や表情は鬼気迫るものがあり、返答次第ではコミュルドの命を奪ってしまうかもしれない程であった。そうして彼は頭を抱えながら進み、遂にコミュルドの居場所へと辿り着いた。彼は彼女のいる扉の向こう側へ入ることに若干のためらいがあるようであったが、頭を横に何度か振って平静を装うとしたが、あまり上手くいかなかった。それでも彼は覚悟を決めてその扉を開け、コミュルドの前へと姿を現したのだった。