表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放浪の果て  作者: パテンリ
11/11

第11話 希望は未来へ

 モノゴリウスの率いる部隊は猿帝国首都を占領し、他の部隊は各地に散る亜人たちを攻撃し、壊滅的な被害をもたらした。夜になると各地に散った部隊は補給を行う為、軌道エレベーターへと引き返し、部隊長たちはモノゴリウスの元へ報告する為、猿帝国首都を訪れた。

 部隊長たちは亜人たちに壊滅的な被害を与えた事を報告し、明日の総攻撃を提案した。モノゴリウスは彼らの意見に賛同し、明日全軍による総攻撃を開始することに決定した。作戦会議が終了すると彼らは個人的な話を始めた。

「この都市は随分と発展しているが、他の亜人たちの国の都市はみすぼらしいものだったな」

「壊すのが簡単で助かったが、勿体無いよな。あいつらはこの星を有効活用できていない。やはりこの星は俺たちが持つべきだな」

「それにしてもこの都市どこか見覚えがある」

 そう言ったのは部隊長の中で唯一の神族であった。彼は宇宙船で旅を始めた時から生きていた者であり、彼が記憶にあると言っても他の大多数の者たちには見当もつかない内容である事が多かった。その為、他の部隊長たちは彼が記憶を探り当てるのを待っていた。しかし、彼が思い出す前にモノゴリウスが発言した。

「この都市の構造は我らがこの星に居た時に建造した都市と全く同じものだ。亜人たちの中に記憶力が良い者がいるか、もしくは設計図か何かを保存しておいたか、定かではないがいずれにせよ、彼らは中々の力を持っているようだ」

 モノゴリウスの発言を聞いて神族の部隊長はすっかりと思い出したようで、そうでしたそうでした1人でうなっていた。他の部隊長たちはなるほどという顔をしていたが、笑いながら次のような言葉を発した。

「奴らがわざわざこの都市を建造してくれたおかげで、我らは労せずして拠点を入手できましたな」

「奴らは都市を建造したものの、その正しい使用方法まではわからなかったようですね。この都市には防衛機構が備わっているはずですが、それが機能した痕跡はありませんでした。これでは我らの為に用意してくれたようなものですよ」

「俺たちの真似をしたが、その真似すら上手くできなかったというわけか。亜人たちという者はとんでもない愚か者たちだな」

 部隊長たちは一緒になって亜人たちの愚かさを嘲っていたが、モノゴリウスの表情には変化が無かった。その後、彼らは明日の作戦に備える為、軌道エレベーターへと引き返して自分たちの部隊と合流し、戦いの用意を始めた。

 一方、モノゴリウスは1人で猿帝国首都の軍事基地を飛び出し、そこから少し離れた場所へ行き、何者かの墓と見られる所まで移動してきた。彼はその墓の前にひざまずきながら、独り言を始めた。

「もし、あの時君と一緒になって皆を説得して、竜たちと共存する道を選んでいたのなら、今頃どうなっていたのだろうな。少なくとも今みたいに多くの者たちが死ぬ羽目にはなっていなかったはずだ。あの時の俺はあの瞬間の狭い世界だけしか見えていなかった。だが、君はもっと先を見通していながら、さらに広い視野を持っていた。とは言え、正直俺は君がやった事を今でも許せていない。けれど、命を奪うというのは過剰な行いであった。俺は君を殺してまでも理想とする指導者の形を守ろうとしたのに、結局それすら守ることができなかった。そもそもこんなこだわり自体必要無かったな。この通り俺はどうしようもない愚か者だ。君が俺に用意してくれたこの指輪、残念だが俺には相応しくない。今までは未練があって、ずっと持ち歩いていたのだが、ようやく君に返す事が叶ったよ。……もしもこの先俺にやり直す機会があるのなら、その時は必ず君と共に同じ道を歩みたい。これで最後になるだろう。さらばだ、最愛なる指導者コミュルドよ」

 モノゴリウスは独り言を止めると指輪を取り出し、それを墓前へと置いた。彼はそれを名残惜しそうに眺めていたが、しばらくすると軍事基地の方へと引き返していった。

 その後、彼は部隊の者たちと明日の作戦の準備をし、それを終えると短い眠りに就いた。

 翌日、彼は部隊を整列させ、作戦開始の合図を行った。それにより軌道エレベーター周辺にて待機していた部隊は各地へと散り、亜人たちへ総攻撃を開始することになった。モノゴリウスは指令を終えた後、猿帝国首都の中央に立つ会議場のような建造物の前まで来て、その建造物をじっと見つめていた。その時、辺りで激しい爆発が連鎖するように発生した。モノゴリウスは驚く暇も無く、爆発に巻き込まれ、激しく吹き飛び、周囲の崩壊した建造物の破片によって埋もれることになった。この爆発とほぼ同時に各地で竜が出現し、彼らは亜人たちと一緒になって人間たちの軍を殲滅していき、人間たちは全滅することになった。

 しばらくしてモノゴリウスは自力でがれきの山から這い出て来た。彼の目の前には崩壊した猿帝国首都の姿が広がっていた。彼は何が起きたのか確かめたかったが、動けなかった。そこへサル族の亜人エプリフィアが来た。エプリフィアはモノゴリウスがまだ息をしているのを確認するとすぐにとどめを刺そうとした。しかし、モノゴリウスは待ってくれと言って、彼との問答を望み、エプリフィアはそれを受け入れた。

「これはどういうことだ……我らは負けたのか?」

「そうだ。各地の人間たちは突如出現した竜たちによって壊滅し、竜と亜人が協力した事で人間たちは全滅した。我はこの都市をお前たちが使いやすいように設計し、お前たちがここに指揮所を置くように仕向けた。そしてお前たちがここに留まった時、都市全体を自爆させ、全てを焼き払ったのだ」

「なるほど。我らは君たちを甘く見過ぎたという事か。それよりもあの爆発は地下も破壊したのか?」

「いや、地下までは破壊していない。それよりも見た所、お前はもう助からない。せめてもの慈悲だ。苦しまずに逝かせてやろう」

「ありがとう。だが最後にこれだけは言わせてくれ。もし君の仲間に先進的過ぎる考えの者がいた時、その者を否定したり、抑え込んだりするのではなく、その者と共に同じ道を歩んでやってくれないか」

「何だそれは?」

「これは俺の一生の後悔だ。これでもう心残りは無い。さあ、とどめを刺してくれ」

「いいだろう。お前の言葉我が胸に刻み付けておこう」

 モノゴリウスは微笑を浮かべながら、エプリフィアによってとどめを刺され、絶命した。

 エプリフィアはその後、竜祖と出会い、他の解放者たちの魂を継承する亜人たちを会議場に集め、話し合った。そして彼らはラミマルブのいる人工星へと向かうことになった。

 さて、パミクステラにて人間たちが全滅した時、ダリヌメアは彼らから定時連絡がなされなかった事で、彼らの敗北を知った。そこで彼女は人工星からの脱出を神族マイブナーダに依頼すると同時にラミマルブの殺害を依頼した。マイブナーダはその依頼を承諾し、ダリヌメアは安心した顔を見せていたが、彼女の顔はすぐに変貌することになった。なぜならマイブナーダが背中から彼女の体を刃物で刺し貫いたからであった。ダリヌメアは怯えた表情をしながら震える声でマイブナーダに問いかけた。

「なぜ、こんなことを……」

「簡単な事。神祖にとってお前も無価値であったというだけだ。安心しろ、ラミマルブという者は俺が殺す。そしてこの人工星にいる全ての者たちにも死んでもらうつもりだ」

「何で、私は……」

 そこまで言うとダリヌメアは絶命し、床に倒れた。マイブナーダは表情を崩さず、その場から移動し、ラミマルブ元へと向かった。そうしてラミマルブはマイブナーダの凶刃に倒れることになり、事切れる前にエプリフィアと再会した。エプリフィアは血を流して倒れているラミマルブへ近付き、マイブナーダへの憎しみを口にしながら泣いた。

「ラミマルブ、折角再会できたというのに。こんな事になるなんて……」

「エプリフィア。最後に君の姿を見ることができて嬉しいよ。これまで私は君たちの為に色々と情報を集めておいた。私はもう駄目だが、私が集めた情報はそこの記憶媒体に入っている。どうか役立ててくれ」

「ありがとう。我らは必ず祖となり、亜人という種をこの世界に存続させてみせる」

「私自身に大した望みなどは無いが、君たちが生きている姿を見ただけでも満足さ。わがままを言えば、君たちが幸福に暮らしている未来が見たかったよ。今までありがとう」

 そう言い終えるとラミマルブは息絶えてしまった。エプリフィアは彼を抱きながら静かに泣き続け、そこへヒョウ族の亜人パンドルスが追い付くことになった。その後、彼らは崩壊する人工星から逃れ、自分たちの存在をかけた戦いを始めることになった。

 人工星が崩壊した事で僅かに生存していたパラピアステラの生き残りも全て死に絶え、こうして彼らの道は途絶える事になったが、彼らが残した精神や知識などは幾らか亜人たちに継承され、彼らの中で形を変えて道は続いていくことになったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ