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ロシア 6

 ロシア第165狙撃兵旅団長があわてて駆けつけた頃には、濃霧の狭間から陽光も降り注ぎ、眼前に驚愕の光景が広がっていた。


 数えきれない輸送船が、カスピ海を埋め尽くしている。

 手前の岸壁には、陸揚げされた戦車や装甲車が並ぶ。


 だが、旅団長からの急報を受けた、ロシア軍総司令部「スタフカ」の参謀の反応は鈍かった。

「ドイツ軍が現れた?氷上を渡ってきた特殊部隊なら、空挺部隊もろとも一網打尽にしろ」


「違います。装甲師団です」

「装甲師団?戦車や装甲車が、氷の上を走ってきたとでも?」

「船で渡ってきたんです。カスピ海北部は水深が浅く、冬は氷に閉ざされますが、水深の深い南部は真冬でも凍りません」


 現れたのは、アティラウで遊兵となっていたドイツ第14装甲師団だった。


 カスピ海東岸を南下し、親ドイツ派のイラン前皇帝レザー・シャーが密かに手配した輸送船団で、トルクメンバシからカスピ海を渡ってきたのだ。


 遊兵として忘れ去られていた部隊が、亡霊のように現れた。


「スタフカ」の参謀は、旅団長に問いただした。

「カスピ小艦隊はどうした?輸送船団を襲いもせず、ただ指をくわえて見ていたのか?」


「上陸した乗組員が、海岸のドイツ軍に邪魔されて艦艇に戻ることができず、出撃できなかったと言っています」


 しばらく無言だった参謀は、冷たく言い放った。

「夜の間にドイツ軍空挺部隊を掃討せず、カスピ小艦隊の出撃を阻害した貴官の致命的な誤判断は、国家を危機に陥れるものだ。反逆罪にも相当する処分が、追って下ることになるだろう」


 旅団長は、即座に理解した。

 不始末の経緯を知っている以上、口を封じるため処刑されるか、運よく助かったとしても、シベリアの収容所へ送られるのが関の山だ。


 といって、このままドイツ軍に捕まっても、過酷な運命しか待っていないだろう。

 先日、アバダーンの日本軍から亡命の誘いがあった時には、冗談にもならないと笑い飛ばしたが、今や、生き延びる唯一の道になったかもしれない。


 アバダーンに上陸したロンメル元帥率いるドイツ・イタリア装甲軍は、イランに駐留するロシア狙撃兵4個師団を瞬く間に撃破し、ペルシア回廊を南下中の、ロシア第34狙撃兵旅団と第164狙撃兵旅団に襲いかかった。

 バクーに上陸したドイツ第14装甲師団が、回廊の北の出口を押さえて逃げ道を塞ぐ。

 2個狙撃兵旅団は、進むも退くもままならず、ペルシア回廊で立ち往生した。


 さらに、トルコが突如として枢軸国への参加を表明、連合国に宣戦を布告した。


 国境に集結していたトルコ軍26個師団がロシア軍のザカフカス方面軍の背後を襲い、ティビリシの方面軍司令部を蹂躙したのだ。

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