ロシア 3
日本陸軍の第5師団と第48師団が、アバダーン周辺に防御陣地を構築する中、ドイツとイタリアの輸送船団が桟橋に接岸し、装甲部隊が上陸を開始した。
まずドイツ第15装甲師団と第21装甲師団、それにイタリア第132装甲師団「アリエテ」、第133装甲師団「リットリオ」が続く。
上陸したのはドイツ・イタリア装甲軍で、率いるのは北アフリカのイギリス軍を壊滅に追い込んだ「砂漠の狐」エルヴィン・ロンメル元帥だ。
ペルシア湾の奥深いアバダーンに、「砂漠の狐」が上陸したとの急報を受けて、イギリス軍は顔色を失った。
だが、ロシア軍総司令部「スタフカ」は、平然としていた。
天王星作戦が順調に進展し、ドン川と黒海の間でドイツ軍を包囲する輪が閉じようとしており、圧倒的な勝利が目前に迫っていたからだ。
パウルス元帥、マンシュタイン元帥と、ドイツ軍の元帥を次々に撃破し、自信満々の「スタフカ」は、辺境のアフリカ戦線から現れた「狐の元帥」など、歯牙にもかけていなかった。
とはいえ、ドイツ・イタリア装甲軍の矢面に立つのは、イラン駐留の4個狙撃兵師団だ。
彼らの任務は治安維持で、装甲軍に立ち向かうには火力が不足する。
そこで「スタフカ」は、バクーの第165狙撃兵旅団から対戦車砲や重砲を抽出し、第34狙撃兵旅団と第164狙撃兵旅団を増強、ペルシア回廊を通り救援に向かうよう命じた。
ドイツ軍は、それを阻止するため、ヘルマン=ベルンハルト・ラムケ少将率いる降下猟兵旅団をバクー郊外に空挺降下させたが、それを察知し、待ち構えていた第165狙撃兵旅団が反撃し、たちまち海岸へ追い詰めた。
勢いに乗って一気に殲滅しようとする旅団長を、「スタフカ」の参謀が押しとどめた。
「まもなく日が暮れる。窮鼠猫を噛むという故事もあるではないか。暗闇の中で不用意に攻撃すれば、逆襲を受けて思わぬ痛手を被るおそれもある。夜の間は包囲を固め、日の出と同時に総攻撃をかけて、一人残らずカスピ海へ追い落とすんだ」
旅団長は、恐る恐る質問した。
「イランから逃げてきたカスピ小艦隊が、海岸のドイツ兵が邪魔になって、上陸した乗組員を船に戻せないと申しておりますが、いかがいたしましょうか」
「スタフカ」の参謀は嘲笑した。
「ろくに戦いもせず、逃げ足だけ早い連中のことなど、放っておけ。明日には掃討戦も終わる。それから船に戻せば十分だ」




