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ミッドウェー 7

 弾薬庫の引火という「飛龍」爆沈の危機は、急遽注水することで何とかことなきを得た。


 「赤城」、「加賀」、「蒼龍」は、燃料タンクにガソリンを満載し、爆弾や魚雷を抱いた攻撃隊が格納庫にすし詰めになった状態で爆撃されたのだから、猛火に曝されたことも故なしとしない。

 

 だが「飛龍」は、戦闘で稼働機が激減した上、爆弾や魚雷は弾薬庫に格納済だ。

 加来艦長は、火災を食い止められると考えていた。


 しかし実際には、1時間半後、艦橋にまで火が回った。

 床の鉄板が熱で歪み、リベットが抜け落ちた穴から焔が噴き出して、壁の塗料を伝わり燃え広がる。


 加来艦長が山口少将に言った。

「ここにいるのは危険です。予備艦橋に移りましょう」


 その頃、川内少尉は機関科指揮所で被害箇所を点検していた。

 第1および第7ボイラーの蒸気圧が下がっている。


 それに続いて、第2ボイラーも蒸気が漏出し、やがて圧力を失った。

 幸い、残りのボイラーは無事のようだ。


 川内少尉は、機関長の田島中佐に報告した。

「3つのボイラーが、被弾した模様です。第3、第4、第5、第6、第8ボイラー室は異常なし。

これなら、まだ30ノットの速力を出せます」


「よし、艦橋に報告しろ」


 川内少尉は、圧縮空気でパイプの中のカプセルを動かすエアシューターを使い、報告メモを艦橋に送った。


 突然、通風筒から炎とともに、爆煙が吹き込んできた。


 機関科指揮所は艦底に近い最下甲板にあり、常に新鮮な空気を取り入れる必要がある。

 そのため、舷側の換気口から空気を送り込む通風筒が設けられているのだが、開口部の傍の高射砲台に山積みされた砲弾が火に焙られて誘爆し、そのたびに炎と煙が吹き込んでくるのだ。


 煙を吸い込んだ機関科員が、呼吸困難になって倒れた。

 慌てて通風筒の扉を閉め、酸素ボンベのバルブを開く。


 伝声管から、機関参謀の永山少佐の声が響いた。

「艦が旋回している。どうしたのか?」


 舵角指示器を見ると、「面舵一杯」の位置で止まっていた。

 操舵は電動式だから、発電機が損傷したら動かない。


「電源をバッテリーに切り替えます」


 そうこうするうちに、機械室の天井の鋼板が真っ赤に灼け、塗料が燃えながら溶け落ちてきた。

 蒸気式のポンプを使い、消防ホースで天井に海水をかけるが、たちまち熱湯に変わる。


 永山少佐の声が、また伝声管から響いた。

「艦橋に火が回った。これより、後部操舵室に移動する」


 後部操舵室に伝声管はないから、これからは艦内電話が唯一の連絡手段になる。


「飛龍」の左舷から、駆逐艦「風雲」が海水をかけ始めた。

 その30分後には、右舷から駆逐艦「谷風」が放水を始める。


 艦橋を出た永山少佐は、それを眺めながら後部操舵室に入った。

 艦内電話で、機関科指揮所に報告を求める。

「機械室の様子はどうだ?」


 機関長付の川内少尉が出た。

「機関…は…持ち場…死守…倒れる者…続出…」


 その声も弱々しく、とぎれとぎれにしか聞こえない。

 永山少佐は驚いた。


 機関室が全滅すれば、もはや艦を動かすことはできない。

 総員退去に追い込まれてしまうのだ。


「何か言い残すことはないか!」

 永山少佐が何度も声を張り上げると、やがてかすれたようなかすかな声がささやいた。

「何も・・ない・・」


 それを最後として、機関科指揮所からの応答は途絶えた。


 永山機関参謀の報告を聞いた加来艦長は、副長の牛島中佐に機関科員の救出を命じる。

 中佐を隊長とする決死隊は、前部居住区からボイラー室上部通路を目指し、消防ホースで放水しながら進んだ。


 だが、どの通路も防水扉が爆発で歪み、焼き付いて開かず、また、延焼防止のために放出された二酸化炭素ガスが充満して、酸欠状態となっていた。


 考えられる手をすべて尽くしても、どうしても先へ進むことができない。

 ついに、救出を断念せざるを得なくなった。


 加来艦長は、沈痛な面持ちで山口少将に報告した。

「断腸の思いですが、本艦の命運もここまでです。これより、総員退去を命じます。

司令官はご退艦ください。私は艦長として、本艦に残ります」


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