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南太平洋 5

 荒木田中佐率いる、第2航空隊の16機の99式艦上爆撃機と13機の零戦が、ガダルカナル島のルンガ飛行場を飛び立った。

 高度5000メートルに達したところで、水平飛行に入る。


 すぐに敵艦隊を発見した。

「左前方に敵機動部隊!」


 戦艦2隻、巡洋艦2隻、駆逐艦6隻が空母を囲む、輪形陣だ。

 直掩の零戦がF4Fの群れに向かう。


「突撃準備隊形作れ」

 編隊を解き、横1列の単横陣となって緩降下に入った。

 高度3500メートルで両端が前方に出て、半円を描く。


「全軍突撃せよ」

 空母を包囲するように、四方八方から一斉に急降下した。


 それと同時に、敵艦隊から無数の閃光が放たれる。

 砲弾が炸裂し、爆煙が視界を覆う。


 航跡が紺碧の海にうねり、白く幼い蛇と見えたものが、たちまち巨大な龍と化す。


「ヨーイ、テー!」

 高度450メートルで、爆弾を投下した。


 一気に操縦桿を引くと、強烈なGに身体が押さえつけられ、血の気が引いていく。


「命中!」

 空母「ホーネット」の飛行甲板を貫通した徹甲爆弾が、前部兵員室で炸裂した。


 海面すれすれから後方を振り返ると、後続機が次々と弾幕に飛び込んでいくのが見える。


 瞬発信管の爆弾が、飛行甲板の兵士を薙ぎ倒し、徹甲爆弾が船体を貫く。

 4発目が前部エレベーターを直撃し、最後の命中弾は右舷後部の主タービン軸受を破壊した。


 同じ頃、高度3000メートルを第4航空隊の1式陸上攻撃機27機が進撃していた。


 迎撃機の姿は見当たらない。

 艦爆隊との高度差が大きいので、敵がまだ気が付かないのか、それとも、直掩の台南航空隊の零戦が引きつけてくれているのか。


 攻撃開始位置に達して、緩降下に移った。

 那須飛行兵曹の耳に、電信員の菅原飛曹が叫ぶ声が聞こえた。

「ト連送!全軍突撃せよ!」


 重い魚雷を抱いているので、緩降下でも瞬く間に速度が上がる。


 巡洋艦からの火線が放物線を描く。

 突然、爆発音とともに機体が激しく揺れた。


「被弾した!」


 那須飛曹は、慌てて機体の状況を確認した。

 幸い、エンジンも主翼も無事のようだ。


 ほっとして座席の周囲を見渡すと、側壁に穴が空き、爆撃照準器が粉々になっていた。

 砲弾が至近距離で炸裂して、破片が貫通したらしい。

 左足のふくらはぎ辺りにかぎ裂きがあるが、痛みは感じない。


 50メートル下の海面は、降り注ぐ銃弾で白く泡立っていた。

 ついさっきまで隣を飛んでいた僚機が、次の瞬間に姿を消す。


 空を覆う爆煙の狭間に、敵の空母が見えた。

 大きく回頭している。


 さらに高度を20メートルに下げた。


「距離1200」

「魚雷投下用意!」


 空母の船腹を狙う絶好の射点だ。


「距離1000」

「まだまだ」

「900」

「まだまだ」

「800」

「750」

「てえーっ!」


 機体がすっと浮き上がった。


 空母の舷側がのしかかり、断崖絶壁のように立ち塞がる。

 左翼が接触しそうになり、機首を海面へ向けて突っ込んだ。


「高度5メートル!」


 ガンガンと音をたてて銃弾が機体を叩き、対空砲の閃光が機内を染める。


 巡洋艦を過ぎたかと思うと、駆逐艦の対空機関銃が待ち構え、そこを抜けても主砲の砲弾が炸裂する弾幕に行く手を阻まれる。


 やっと射程を抜け、ほっとして時計を見ると、攻撃開始から6分しか経っていなかった。


 あらためて機体を点検する。

 主翼に直径80センチの穴が2つも空いていた。

 フラップは左右とも跡形もなく吹き飛び、補助翼も半分千切れている。


 那須飛曹は、搭乗員たちに声をかけた。

「みんな大丈夫か?」


 搭乗員が口々に答える。

「負傷なし」

「問題なし」


「そういえば、俺が負傷しているんだった」

 那須飛曹は指揮官席に座り直して、飛行服のかぎ裂きを広げた。


 血で真赤に染まっている。


 足を動かせるか、試してみた。

 動くことは動くが、まるでプールに足を突っ込んだような感触だ。

 飛行靴に血が溜まっているようだ。


 破れ目から飛行服を引き裂く。

 左のふくらはぎがえぐり取られ、直径5センチほどもある、大きな傷口が開いていた。


 それを目にしたとたん、激痛が襲ってきた。


 ありったけのガーゼと脱脂綿を傷口に詰め、その上から包帯を巻く。

 白い包帯がたちまち真紅に染まり、血が滴り落ちる。


 首のマフラーで膝の上を縛ってみたが、出血は止まらない。

 このままでは失血死してしまう。


 必死になって太腿の付け根を縛り上げ、ようやく出血が止まった。

 だが、今度は足の色が紫に変わりはじめる。


 止血を続ければ、左足全体が壊死しかねない。

 やむをえず、5分毎に締めたり緩めたりを繰り返すことにした。


 とはいえ、那須機は飛んでいるだけまだ幸運だった。

 第4航空隊は、出撃機数27に対し、残ったのはわずか5機。

 壊滅と言っても、過言ではない。


 刺し違える形で3本の魚雷が「ホーネット」に命中、電源を破壊して航行不能に陥らせたことが、せめてもの慰めだった。


 動力を失い、14度に傾いて総員退去となった「ホーネット」は、駆逐艦の雷撃で海底へと没し、太平洋からアメリカ海軍の空母が消えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 太平洋の米空母をスイープしたの大きいですね
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