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南太平洋 4

 ドーリットル空襲は軍事作戦としては失敗だったものの、日本本土防空を担う陸軍防衛総司令部を混乱に陥れることには成功した。


 米空母の本土接近を知らされた総司令部は、艦載機の大編隊による、高高度からの空襲を想定し待ち構えたが、陸軍の大型爆撃機が、単機で低空から侵入するという予想外の戦法に戸惑い、対応が後手後手に回り、遅ればせながら出撃した陸軍97式戦闘機や1式戦闘機「隼」は、迎撃どころか追いつくことすらできず、まんまと逃走を許してしまった。


 さらにあろうことか、東條英機首相その人を乗せた輸送機が、水戸上空で2機のB-25と鉢合わせし、あわや撃墜の危険に曝されるという、前代未聞の椿事まで起きる。


 あまりのお粗末ぶりに、防衛総司令官の任にある東久邇宮が、天皇から直々に詰問を受ける事態となり、面目丸潰れとなった陸軍は、迎撃機としての性能なら欧州の戦闘機にも引けを取らない「鍾馗」を日本本土に呼び戻した。


 その結果、最前線の陸軍航空隊にとって「鍾馗」は、ごく限られた者しか見たことのない「幻の戦闘機」となったのだ。


 ガダルカナル島上空を哨戒中だった陸軍飛行第85戦隊第2中隊長、岩城大尉は、初めて見る「鍾馗」の戦法に唖然としていた。

 自身が乗る97式戦闘機は、主脚が固定式のため空気抵抗が大きく、とてもあんな速度を出すことはできない。


 陸軍飛行第59戦隊第2中隊長、北里大尉も驚きを隠せなかった。

 彼の愛機の1式戦闘機「隼」は、97式戦闘機とは違い主脚が引込式で、空気抵抗こそ小さいものの、零戦よりもさらに機体の強度が低く、降下速度は時速550キロが限度だ。

「鍾馗」と同じことをすれば、確実に空中分解してしまう。


 他方、SBDドーントレス艦上爆撃機は、「鍾馗」とF4Fの激しい空中戦を尻目に、無傷のまま進撃を続けていた。

 それに気がついた北里大尉は、「隼」戦闘機隊を率いて前上方から攻撃をかけた。


 まず1番機を狙った。

 主翼の付け根に、吸い込まれるように銃弾が集まり、炎を吹き出したドーントレスは、急角度で降下し、そのまま海面へ突っ込んだ。


 続けて攻撃した2番機は、しばらく燃料の白い筋を引いていたが、やがて炎に包まれて視界から消え、翼が吹き飛んだ3番機は、木の葉のように揺れながら落ちて、海面で飛沫を上げた。


 北里大尉は、敵を追うのに夢中になり、高度が下がりすぎたことに気が付き、慌てて上昇する。


 次の目標には、TBFアベンジャー艦上雷撃機を選ぶことにした。

 回避運動が拙く、容易に撃墜できそうに思えたからだ。


 しかし、動きが鈍いのは、機種更改の直後のため、まだ操縦に慣れていないだけで、先代のTBDデバステーターに比べ、格段に強靭な防弾装甲と防火装置を備えた最新鋭機だった。


 97式戦闘機の口径7.7ミリの89式機関銃はもちろん、「隼」のホ103 1式12.7ミリ機関砲でも容易にとどめを刺せない。


 ツラギの水上機基地からおっとり刀で飛来した、海軍2式水上戦闘機の99式1号20ミリ機銃が、ようやくTBFアベンジャーを捉えた。


 空にはいく筋もの黒煙が交錯し、海には無数の波紋が幾何学模様を描いていた。

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