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インパール 5

 インパール攻略部隊の中で最も南のルートを進む第55師団は、カレーワから西へと進み、ミッタ川の渡河点に達した。

 両岸に生い茂る葦をかき分けて川を渡り、チークの原生林に入る。


 アラカン山脈へ向かう道は、幅が1車線程度と狭く、傾斜も急な上り坂だった。

 木陰に泉の湧く涼やかな窪地は、喬木が上空からの視界を遮るためか、物資集積所として使われていたようで、撤退する際に焼き払ったらしい黒焦げの残骸が残されていた。


 山岳地帯に入ると樹木は次第に疎らとなり、赤いラテライトがむき出しの山肌に変わる。

 急坂を深く削り取った、つづら折れの道が続いていた。


 カレミョウで主力を集結し、戦闘態勢を整えた第55師団は、まず第143連隊にフォートホワイトを襲わせた。

 それに続き、第144連隊がファラム、ハカを落とす。

 第55連隊の速攻に、軍司令部は大いに沸いた。


 とはいえ、フォートホワイトとハカは、150キロも離れている。

 インド第17師団は、日本軍が長大な戦線に戦力を分散させたと見て、その隙を突くことにした。

 フォートホワイトを奪還しようと、反撃に出る。


 だがそれが、第55師団の狙いだった。

 東方に迂回し山岳地帯を踏破した第112連隊が、いつのまにかインド第17師団の後背に迫っていたのだ。


 驚いたイギリス第4軍団が、インド第17師団にインパールへの後退を命じると、今度はファラム、ハカからマニプル川西岸を長躯し先回りした第144連隊が、トイトムで退路を断った。


 第143連隊は、敵軍の後退を察知するやいなや、直ちにフォートホワイトを出撃、イギリス軍の宿営地だったテディムを突破してトンザンに追い詰める。


 インド第17師団は、トンザンとトイトムの間で包囲された。

 南に第143連隊、北に第144連隊、東の山側には第112連隊、西はマニプル川の深い渓谷だ。

 周囲は赤土の禿山で、身を隠すすべはない。


 インド第17師団は、インド第50戦車旅団のバレンタイン歩兵戦車を先頭に立て、強行突破を図った。


 この戦車は、ドイツと戦車戦を繰り広げるロシアが、軍事援助に求めたほどの強靭な防御力を備え、砲塔で65ミリ、車体で60ミリの装甲を誇る。

 日本軍に対抗できる戦車はない。


 だがその時、稜線をかすめて双発の戦闘機が現れた。

 陸軍飛行第21戦隊の、2式複座戦闘機「屠龍」だ。


 搭載するホ3 20ミリ機関砲は、ノモンハンでロシア軍戦車を撃破した、98式20ミリ高射機関砲と基本的なメカニズムが共通する航空機関砲で、30ミリの装甲を貫通する。


 重装甲のバレンタイン戦車だが、エンジンの出力は130馬力と、装甲16ミリの98式軽戦車と同じだ。

 総重量を抑えるため車体上面の装甲は薄く、機関室の上面で10ミリ、車体後面傾斜部も17ミリしかない。

「屠龍」は、野兎を狩る狗鷲のように戦車へ襲いかかり、次々と擱座させた。


「屠龍」の襲撃を逃れ、なおも谷間の道を進む戦車には、山襞に隠された94式山砲と91式10センチ榴弾砲が待ち構えていた。


 94式山砲は130メートル、10センチ榴弾砲は200メートルの至近距離から徹甲弾を発射すれば、75ミリの装甲を貫通する。

 ノモンハンで近距離から山砲を放ち、ロシア戦車部隊を撃破した、宮崎戦法の応用だった。


 徹甲弾が戦車を貫き、重機関銃が歩兵部隊を薙ぎ倒す。

 第5飛行師団の爆撃機が爆弾の雨を降らせると、インド第17師団は白旗を掲げて降伏した。


 鹵獲した戦利品は、車両1200台、食糧2か月分に達し、補給が乏しい日本軍にとっては、まさに干天の慈雨となった。


 第55師団は、包囲を逃れた敗残兵をシンゲルで撃破、散り散りになって敗走する敵兵を追って、インパール平野に突入する。


 インパール平野は、山々に囲まれた南北に細長い盆地で、大阪平野ほどの広さだ。

 北側に市街、南側にロクタク湖があり、その西側をインパール街道が走る。


 第55師団は、ロクタク湖の北西の要衝、ビシェンプルを占領した。

 日が落ちて北を望むと、インパールの灯火が煌々と輝いていた。

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