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シンガポール 4

 マレーシアの戦線で続出する、インド人将兵の投降に衝撃を受けた英軍は、最前線に配置していたインド兵主体の部隊を後方に下げ、オーストラリアやイギリス本国編成の部隊と交代させようとした。


 だが、マレー半島は山岳地帯が多く、細い山道が入り組んでいる。

 それを無視して移動を強行したことから、いたるところで渋滞が発生し、防衛線が混乱した。


 日本軍は、十分な戦闘態勢をとれないまま右往左往するイギリス軍を次々と撃破、当初の作戦日程を大幅に上回る、驚くべきスピードでシンガポールに達する。


 シンガポールは、ジブラルタルと並び、大英帝国が誇る難攻不落の要塞だ。

 しかし、日本軍の進撃があまりにも早く、長期の籠城に耐えるだけの水や食料の備蓄が間に合わなかった。


 そのため、日本軍に水源を絶たれると、たちまち窮地に陥り、降伏を余儀なくされる。


 意気揚々と入城した日本軍は、降伏したイギリス軍が、包囲した側の日本軍の2倍に達する10万もの兵力を擁していたことを知り、愕然となった。


 知らぬが仏とはこのことだ。

 要塞は、攻撃側が3倍の兵力を投入しなければ落とせないというのが世界の常識だから、イギリス軍が2万で守りを固め、残りの8万で日本軍の包囲網を突破し、逆包囲する作戦に出たなら、壊滅したのは日本軍の方だった。


 だが、10万のうち5万は、後方に下げられたインド兵だ。

 イギリス軍は、インド兵が裏切り、寝返るのではないかと疑心暗鬼に陥り、決断を下せなくなっていたのだ。


 捕虜になったインド人将兵は、ファーラーパークの競馬場跡地に集められた。

 南国の空に、「インド独立運動の旗」、「Fの旗」、そして日章旗が翻る。


 スタンドの2階に用意された演壇に、福沢少佐が登った。

 その傍らには、インド人将校で最先任のギル中佐が、通訳として立つ。


 福沢少佐が最初にしたことは、5万の兵士への敬礼だった。

 一斉に答礼が返される。


 福沢少佐は、熱意を込めて語りかけた。


「親愛なるインド兵諸君!

諸君の知る通り、イギリスの植民地支配の牙城、シンガポールは陥落した。

これは、大英帝国の軛に喘ぐ東アジア諸民族の桎梏の鉄鎖を断ち、解放へと導く歴史的第一歩だ。


日本軍は、インド独立連盟とインド国民軍を全面的に支持する。

我々は、諸君を捕虜とは見做していない。


そもそも、諸君と戦う理由など、最初から何も無かった。

だからこれまで、武器をとらねばならない不条理を、何度も嘆いてきた。


しかし、今日、我々はその悩みと苦しみから解放される。

友愛を結ぶ日が来たのだ。


民族の自由と独立は、その民族自らが決起し、自らの力をもって闘い、勝ち取ったものであってこそ尊い。


日本軍は、諸君が祖国の解放のため、インド国民軍への参加を希望するならば、捕虜として扱うつもりはない。


自由を認め、支援する。


このFの旗、フリーダム、フレンドシップ、自由と友愛の旗のもと、ともに戦うことを誓う。


諸君!祖国の解放と自由を、自らの手で勝ち取れ!

今こそ戦いの先頭に立つ時が来たのだ!」


 ファーラーパークがどよめき、将兵は総立ちとなって、無数の帽子が宙を舞った。

 両手が打ち振られ、鳴り止まない拍手が響き渡る。


 モハン・シン中尉は、ギル中佐ら先任将校から推挙されて少将に昇進し、インド国民軍初代司令官に就任した。


 イギリスは、大英帝国を揺るがす謀略の策源となった、宮崎少将の特務機関に対抗し、新たな諜報機関をインドのデリーに設置、傘下の工作員に向けて極秘指令を発した。


「宮崎少将、福沢少佐、そしてモハン・シン少将を暗殺せよ」

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