表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/97

ミッドウェー 3

 重巡「筑摩」の偵察機5号機が、「ヨークタウン」の東方で、新たな空母を2隻発見した。


 山口少将は第2次攻撃隊の出撃を命じる。

 編成は、97式艦上攻撃機10機、零戦6機。


 攻撃隊には、「赤城」、「加賀」所属の攻撃機がそれぞれ1機ずつ、直掩の戦闘機隊にも、「加賀」所属の零戦2機が加わっている。


2次攻撃隊を指揮する「飛龍」飛行隊長友永丈市大尉は、すらりとした長身に甘いマスク、切れ長の目が印象的な、海軍航空隊屈指の美男子だ。


 友永大尉の機体は、ミッドウェー島を爆撃した際、左翼の主燃料タンクに被弾し、親指ほどの大きさの穴が空いていた。


 だが、敵艦隊との距離が接近しているので、残りの燃料タンクで往復可能と判断し、整備員には他の機体の修理を優先するように指示した。


 実のところ雷撃機は、急降下爆撃機に比べ、日米を問わず生還率が低い。


 急降下爆撃機は高速で、有利な条件なら戦闘機を相手に空中戦を挑めるほどの運動性能を持つが、雷撃機は低速で旋回性能も劣る。

 戦闘機に狙われたら、ひとたまりもない。


 しかも今回は、その艦爆ですら、18機中5機しか戻れなかった。

 わずか10機の艦攻では、全滅しても不思議はない。


 そうでなくとも、先頭の指揮官機には敵の攻撃が集中する。

 第1次攻撃隊指揮官の知久大尉も、次席の沢上大尉も帰ってはこなかった。

 友永大尉は、第2次攻撃隊の指揮官機が母艦に帰ってくる確率は、限りなくゼロに近いと考えていた。


 山口少将は、艦橋から飛行甲板に下りると、整列する攻撃隊の搭乗員の前に立ち、搭乗員1人1人の手を握り、言葉を交わした。


「敵の空母は3隻だ。第1次攻撃隊が、まず1隻を叩いた。君たちがもう1隻を潰せば、残りは1隻。1対1に持ち込めば、まだ勝機はある。頼んだぞ」


「飛龍」の整備兵たちが帽子を振る中を、第2次攻撃隊が次々と発進していった。


 攻撃隊は、2つの編隊に分かれて進んだ。

 第1中隊は友永大尉が率い、第2中隊は川端中尉が指揮をとる。


 距離が近いので、1時間も経たないうちに、敵空母を発見した。

 友永大尉は、それを無傷の新たな空母と判断したが、実際には、3発の直撃弾を受けながら、応急処置で発着艦を可能にした「ヨークタウン」だった。


「右80度65キロ、目標空母、突撃準備隊形作れ」

 高度3000メートルで「トツレ」を発信すると、単縦陣で緩降下に入る。


 他方、「ヨークタウン」を直衛していた12機のF4Fのうち、前衛の3機は、友永隊を第1次攻撃隊と同じ急降下爆撃機と誤認し、高度4000メートルへと上昇した。

 友永隊は、その下をすり抜ける。


 中衛の2機のF4Fも、前衛につられて上昇しかけたが、途中で間違いに気がつき、あわてて急降下して3番機を襲った。

 3番機は撃墜されたものの、2機の零戦が駆けつけて、F4Fを返り討ちにする。


 友永大尉は思わずつぶやいた。

「3番機を失ったのは痛いが、1機失っただけで攻撃開始点に到達できたのは奇跡だ。

全軍突撃!ト連送!」


 友永大尉率いる第1中隊と川端中尉率いる第2中隊が、左右から空母を挟撃する作戦だ。


「ヨークタウン」が、回避運動に入った。


 友永隊は、その進路を扼すように、海面すれすれの低空を旋回する。

 対空砲火が、友永大尉率いる第1中隊を襲った。


 対空砲は、目標が今見えている位置を狙って撃つわけではない。

 砲弾が届くまでの間にも、飛行機は高速で移動するから、進むコースを予測して撃つ。


 だから、どの国の海軍も、自国の雷撃機が魚雷を投下する速度に合わせて訓練する。

 ところが友永隊は、米軍の雷撃機の倍の速度で突入したため、ほとんどの砲弾が後方に逸れた。


 友永大尉が命じた。

「投下用意!」


 大杉少尉が応じた。

「用意よし!」


 ここから魚雷投下までは、しばらく直進を保つ必要がある。

 いつのまにか背後に迫ったF4Fが、銃弾を撃ち込んできた。


 それを避けようとすれば、魚雷の針路が目標からそれてしまう。

 右翼から破片が飛び散り、見る間に燃料が噴き出し、霧となって白い糸を引いた。


 その霧に、曳光弾が引火して炎が上がる。

 左翼にも被弾し、補助翼が吹き飛んだ。


 それにかまわず、目標に肉迫を続けた友永大尉が叫んだ。

「てーっ!」


 魚雷を投下した次の瞬間、紅蓮の焔に包まれた友永機は、海面に激突した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ