ソロモン 4
第2航空隊の高田大尉めがけて、アメリカ軍の艦艇からいく筋もの光が伸びてきた。
高射砲弾が炸裂し、機体が揺れる。
輸送船団の彼方に、空母が見えた。
「突撃準備隊形作れ」
高田大尉が命じ、小隊3機ごとの単縦陣となった。
「突撃せよ」
艦爆隊は小隊も解散し、全機が単縦陣となって緩降下に入った。
高度6000メートル。
左からF4Fが現れた。
曳光弾が危うく頭上をかすめ、必死に機首を下げて回避する。
すぐに次の敵機が覆いかぶさってきた。
銃口から流れる硝煙が見えるほど近い。
なんとか逃れて体勢を立て直し、高度4000メートルから急降下に入る。
高度計の針が最初はゆっくりと回り、やがて速度を増す。
「高度3500」
「2000」
「1000」
南洋の湿気を含んだ熱気が流れ込んでくる。
弾幕を突っ切るたびに、硝煙の匂いが鼻をつく。
護衛艦艇の放つ曳光弾が、無数の光の帯となって機体を包み込む。
「700、用意」
「500」
「400、テーッ!起こせ!」
最初の爆弾は、空母「エンタープライズ」の中央エレベーターを直撃、エレベーター底部を突き抜けて、ボイラー室を破壊した。
2弾目は、後部エレベーターに命中、喫水線下で炸裂して破孔を作り、3弾目は右舷後部の対空砲台の兵員を吹き飛ばし、付近を火の海にする。
高田機に、敵艦からの砲火が集中した。
高度を一気に5メートルの超低空まで下げる。
プロペラの風圧で海面が波立つ。
高田大尉が振り向くと、空母から黒煙は上がっているが、こちらの後続機の姿は、どこにも見えない。
編隊は、バラバラになってしまったようだ。
艦砲射撃の閃光が走り、30メートルを超す水柱が行く手を阻む。
砲弾が炸裂し、周囲に撒き散らされた破片が滝のように降り注ぐ。
黒い煙雲が空を覆い、火箭が無数の十文字を描く。
ようやく艦砲の射程距離を抜けたと思うと、今度はF4Fが待ち構えていた。
「敵戦、右、距離2000!」
「1000!」
F4Fは主翼をわずかに揺らしている。
まだ照準は合っていない。
後席の92式7.7ミリ旋回機銃が、射撃を開始する。
「800」
「600」
F4Fの揺らぎが止まった。
「右!」
フットバーを一気に踏み込み、操縦桿を倒して機体を滑らせた。
F4Fの曳光弾が、翼のすぐ脇を抜けて海面を叩く。
敵機が切り返すのに合わせて、後方席から空の弾倉を交換する音がした。
今度は左から迫り、距離を詰めてくる。
ガンガンと音を立てて、機体に銃弾が命中する。
左翼燃料タンクから、炎がほとばしる。
「70」
「50」
突然、F4Fのエンジンが煙を吹いたかと思うと、急激に機首を上げて失速し、横倒しになって海面に激突した。
7.7ミリの豆鉄砲が奇跡的に急所を射抜いたのか、偶然のエンジントラブルなのか、撃っていた本人にもわからなかったが、とりあえず絶体絶命の危機は脱したらしい。




