東京 6
連合艦隊の宇垣参謀長が質問した。
「輸送船が82隻もいれば、1個師団以上の兵力を運べるだろう。ツラギ島に陸戦隊はいるのか?」
竹内首席参謀が答えた。
「近隣を合わせ250名です。特別陸戦隊から600名を増派します」
「それでも1000名に満たないのか。1個師団を相手にするのは無理だな」
「残念ですが、これ以上の兵力を運ぼうにも、輸送船が手配できません」
米内大将が応じた。
「陸上兵力の輸送は、陸軍に任せてきたからな。わかった。梅津参謀総長に協力を要請しよう」
宇垣参謀長が質問した。
「米軍はミッドウェー島に陸上機の基地を持っていたが、ツラギ島には無いのか?」
「ツラギ島には適地が無く、対岸の島に建設中です。完成次第、台南空の零戦を進出させます。ラバウルへ輸送中の第2航空隊にも、新飛行場に急行するよう命じました。今後は、ラバウルとツラギ島の間の、ブカ、ブイン、ムンダ、バラレにも、防衛拠点と飛行場を建設する予定です」
「ツラギの対岸と言ったが、どんな島だ?」
「オーストラリア人の鄙びた農園が1つありますが、あとは先住民の畑が散在するだけで、ほとんどがジャングルに覆われた未開の島です。8月6日には、滑走路の一部が使用可能になる見込みです」
「なんて名前の島だ?」
「ガダルカナルです」
「ガダル・・カナル・・?」
誰も聞き覚えがなかった。
無理もない。
最寄りのラバウルでも、その名を知る者がほとんどいない、無名の島だったのだから。
米内軍令部総長から協力要請を受けた梅津参謀総長は、ラバウルの第17軍に、ポートモレスビーの陸路攻略を検討するリ号研究を中止し、南海支隊をツラギ島とガダルカナル島の防衛に向かわせるよう命じた。
また、日本本土の第1航空軍の独立飛行第47中隊、満州にある第2航空軍の第2飛行師団に、準備が整い次第ラバウルへ進出するよう指示する。
その見返りとして海軍は、徴傭船の復路を陸軍に合わせて変更することを受け入れた。
これまでトラック島やラバウルへ軍需物資を運んだ輸送船は、折り返し日本へ直行していたが、シンガポールを経由する三角ルートに変更し、空いた貨物スペースに民需物資を積み込んで、日本へ運ぶことにしたのだ。
総理大臣を経験し、経済界にも人脈が広い米内大将は、最新鋭の高速輸送船を、軍需民需を問わず最大限に活用しようという、梅津大将の構想に異存は無かった。




