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アフリカ 5

 Bf109の接近に気がついたホーカー・ハリケーンは、弾を撃ち尽くしたのか、機首を転じた。

 鹿屋航空隊の伊集院中佐は、ほっとして、1式陸上攻撃機の操縦席から、地上の戦況に目をやった。


 ドイツ第15機甲師団と第21機甲師団が、イギリス軍の正面を守るインド第18旅団の防衛線を突破しようとしている。

 鹿屋空が提供した敵情に基づき、裏の裏を衝いて手薄な正面に攻撃を集中したのだ。


 その北側では、爆撃により損害を受けたイギリス第1機甲師団が後退し、その結果生まれた防衛線の空隙に、ドイツ第90軽機械化師団が侵入しようとしている。

 そこを抜けば海岸線は目前、野戦陣地のイギリス軍は退路を断たれる。


 ドイツ軍の砲兵が、砲撃を加えはじめた。

 補給に四苦八苦するドイツ軍には珍しく、豪雨のように猛烈な射撃だ。

 大量に鹵獲した砲弾を、イギリス軍の25ポンド砲で撃っているので、全弾撃ち尽くす勢いだ。


 西からは、先日到着したばかりの、血気に逸るドイツ第164歩兵師団が迫っている。

 野戦陣地の陥落は、時間の問題だろう。

 ここから、エジプトのカイロまで200キロ余り、アレクサンドリアなら100キロ足らずだ。


 伊集院中佐が尋ねた。

「あの鉄道の駅は、なんていう名前だ?野戦陣地のある漁港の駅だ」

 副操縦員が、地図を調べながら答えた。

「ええと・・・、エル・・・、アラ・・・、エル・アラメインです」


 エル・アラメインの防衛線を突破したドイツ・アフリカ装甲軍は、直ちにカイロを衝くと見せかけて、一転、主力をアレクサンドリアに向けた。


 アフリカ装甲軍の最大の課題が兵站で、荷揚能力の高い港の確保が焦眉の急だったからだ。


 ドイツ軍は、ベンガジとトブルクの港を奪取したものの、荷揚能力が低く荷を捌ききれず、荷揚げの順番を待つ輸送船が港外に列をなして停泊し、イギリス空軍の爆撃の格好の標的になってしまった。


 損害の大きさに音を上げたイタリア軍は、輸送船の行先をトリポリに戻したが、そこから最前線までは2000キロもあり、その距離を陸路で運ぶとなると、トラックも燃料もいくらあっても足りない。


 とうとう、軍需物資がトリポリの港に山積みのまま放置されるという、窮状に陥っていた。


 アレクサンドリアを手中にしたドイツ軍は、ロジスティクスの懸案を一挙に解決し、カイロを、続いてスエズ運河を制圧する。


 1ヵ月後、そのスエズ運河を経由して、日本海軍の91式航空魚雷が運び込まれた。

 1式陸上攻撃機にとって、待望の魚雷だ。


 爆弾は懸架装置を改造すれば独軍のものを流用できたが、航空魚雷はそうはいかない。

 早速、陸攻に魚雷を搭載すると、マルタ島沖の輸送船団に向けて出撃し、タンカーの「オハイオ」、輸送船の「ポート・チャーマーズ」、「ロチェスター・キャッスル」、「メルボルン・スター」を撃沈した。


 さらにその翌日には、Ju87の急降下爆撃で大破した、イギリス海軍の装甲空母「ビクトリアス」にとどめを刺し、海軍軍令部を喜ばせる。


 しかし、戦争の帰趨を決するという点では、タンカーの撃沈の方が大きな意味を持っていた。

 マルタ島の海水淡水化装置の燃料が絶たれて飲料水が枯渇し、英軍守備隊が降伏したからだ。


 使命を終えてマダガスカル島に戻った陸攻隊は、2度と地中海にその姿を現すことはなかった。

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