アフリカ 2
インド洋を飛ぶ鹿屋航空隊の1式陸上攻撃機の眼下には、広漠たる海原がいつ果てるともなく続いていた。
だが、ついに黒々とした陸地が目に入ってきた。
アフリカ大陸だ。
操縦席の伊集院中佐は、地形を地図と照らし合わせた。
目印になるもののない海や砂漠では機位を失いがちなので、海岸や山、川などが見えている間に修正しておかなければならない。
1式陸攻は、ケニアとエチオピアの国境、大地溝帯のトゥルカナ湖を飛び越え、スーダンのナイル川屈曲部を目指した。
森林地帯からサバンナ、そして半乾燥地帯のサヘルへと、景色は趣を大きく変える。
雨季に入ったからか、想像していたより緑が多いが、それもいつのまにかナイルの河岸を縁取るだけとなった。
その彼方には、砂の海がどこまでも続いている。
サハラ砂漠だ。
そろそろ、リビアに入るころか。
ふと気が付くと、地平線に異変が起きていた。
砂嵐だ。
最後の最後に、とんでもない邪魔が入った。
見渡す限り、砂の怒涛がうねり、のたうっている。
空は血の色に染まり、その奥では暗い闇が蠢く。
伊集院中佐が言った。
「砂嵐が止むまで待ちたいところだが、燃料がもたない。突っ込むぞ」
砂嵐の中では、乱気流が渦巻いていた。
機体が激しく揺れる。
見えるのは、砂の吹雪だけだ。
燃え盛る溶鉱炉の中に飛び込んだように暑い。
エンジンの油温が、見る見るうちに上がっていく。
どこからか、ゴムの焦げる匂いがした。
バルブが焼き付いて、燃料が自然発火しかねない。
エンジンの回転数が、ゆっくりと下がっていく。
砂漠で遭難した、フランス軍機の話が頭をよぎった。
こんな熱風の中で不時着したら、生きては帰れないだろう。
荒らぶる風に揉みしだかれ、機体がきしむ。
風防ガラスが、これまで耳にしたことのない、異様な音を立てる。
突然、機体が急降下した。
エアポケットだ。
伊集院中佐が、慌てて姿勢を立て直す。
「なんとか、持ちこたえてくれ!」
高度が下がったためか、風向きが変わったようだ。
突然、砂嵐を抜けた。
そこは薄暮の砂漠だった。
これまでの荒天が嘘のように、静かな世界が広がっている。
砂漠の平地に、粗末な飛行場らしきものが見えてきた。
リビアの南端にある、イタリア軍の秘密基地、カンポ・ウノだ。
「やれやれ、なんとか着けたようだ」
やっとの思いで降りてみると、それは人の手が全く加わらない、巨大な岩場だった。
驚くほど平らな岩盤で、それをそのまま飛行場として使っているらしい。
日本では考えられないが、いかにもアフリカ大陸らしいスケールだ。
カンポ・ウノで燃料を補給し、地中海に向かった伊集院中佐の1式陸攻は、北アフリカ戦線でドイツ軍を支援する作戦に従事することになった。




