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東京 3

 関東軍総司令官の梅津美治郎大将に天皇のお召しがあり、急ぎ帰国して宮中に参内した。

 御下問は、6月28日のドイツ軍によるロシア南方コーカサスへの侵攻につき、関東軍の存念を質すものだった。


 天皇からご下問があった。

「ドイツがこの作戦に勝利すれば、年内にロシアが講和に応じる可能性はあるか」


 梅津大将が答えた。

「ドイツがカスピ海沿岸の油田を占領すれば、ロシアの被る経済的打撃は甚大です。ただ、もしそうなったとしても、首都モスクワが陥落するわけではなく、ウラルの工業地帯も健在ですから、アメリカの軍事援助が続く限り、戦争の継続は可能と思われます。むしろ、ドイツの方が短期決戦を諦め、長期戦に備えるべく資源の確保に走ったものではないかと考えます」


「この戦争が長引くようなら、ドイツはともかく、日本に勝ち目はあるまい。

戦争の短期終息は、もはや望めぬのか」

「策が無いわけではありません」


「関東軍がロシアの沿海州に攻め込み、2正面作戦を強いるという話か」

「ドイツ軍がモスクワを占領したのならともかく、今、日本がロシアに攻め込んだところで、講和に持ち込むのは無理でしょう。


それにロシアは、満州との国境を要塞化しております。

こちらも、強力な防衛線を築いておりますので、たとえロシアが攻めてきたとしても、撃退してご覧にいれますが、今、こちらから攻め込むことは考えておりません。策は別にあります」


 献策を受けた天皇は言った。

「杉山は、『ドイツが勝利すれば』と言うばかりで、策らしい策を聞いたことがない。

海軍は米内に任せたから、陸軍は梅津が参謀総長となって策を進めよ」


 もっとも、その人事はすんなりとは進まなかった。


 職を解かれることになった杉山参謀総長がへそを曲げ、強硬に辞任を拒んだからだ。

 東條首相が、兼務する陸軍大臣のポストを譲ることで、ようやく宥めた。


 陸軍から内閣改造の動きが出ると、これ幸いと海軍もそれに便乗する。

 山本五十六大将を更迭してはみたものの、真珠湾の名将として国民的人気が高いだけに処遇に困り、渡りに船と海軍大臣に押し込んだのだ。


 司令長官が軍令部総長との兼務になったことで、連合艦隊司令部は陸に上がり、海軍省3階の軍令部の隣の部屋に入った。


 首席参謀には、極秘調査報告を作成した竹内大佐が就任する。

 竹内大佐は、アメリカ海軍の戦術にも造詣が深く、海軍大学校で図上演習を行った際には、米太平洋艦隊を担当し、米軍式戦術を駆使して連合艦隊を壊滅させたこともある。


 第1航空艦隊は解散し、新たな空母機動部隊として第3艦隊が編成された。

 司令長官には、マレー半島上陸戦や、インド洋通商破壊戦で名を揚げた、小沢治三郎中将が抜擢される。

 参謀長は、加来止男「飛龍」艦長が少将に昇進して務めることになった。


 旗艦は、艦橋にレーダーを搭載した戦艦「霧島」だ。

 レーダーを日本で初めて実用化した戦艦は「武蔵」だが、まだ訓練中で就役していないため、実戦に投入される戦艦としては「霧島」が最初となる。


 空母「翔鶴」、「瑞鶴」、「瑞鳳」を擁する第1航空戦隊は山口多聞少将が、「飛鷹」、「隼鷹」、「龍驤」を率いる第2航空戦隊は角田覚治少将が率いる。

 もっとも「飛鷹」は、7月末竣工、9月末就役の予定で、実働はまだ先の話になるが。


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