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少年と執事  作者: マン太


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33/33

その後 ーいつまでもー

 その日、ハイトを伴って街に出た。

 工房で作ったジャムとワインの売り込みの為だ。とは言っても、それは半分口実で。

 作業の多いハイトの気晴らしの為と、もっと二人だけの時間が欲しかったシーンの、ささやかな我が儘によるものだ。

 エルミナには申し訳ないが、実際はデートが主で。アンリのぼやきが聞こえてきそうだった。


「やっぱり、街は賑やかだね? 凄い人だ…」


 ハイトは、その日立ち寄った市場の賑わいに目を丸くする。至る所に果物や野菜、肉に魚、香辛料に生活雑貨などが溢れている。その間を縫うように、人々が忙しなく行き交っていた。

 シーンはその背に手を添えながら。


「そうだな。迷子にならないようにな?」


「…シーン。もう、子どもじゃないよ。迷子になんてならないって。身長だって伸びてるし、そのうち、シーンを越すんだから」


 少し頬を膨らます様にしてそう口にすると、シーンを見上げてくる。それを、微笑ましく見つめながら。


「わかっている…。でも、ハイトの印象は出会った頃から、ちっとも変わらないんだ。──かわいいハイトのままだ」


 最後のセリフはその耳元で囁く。ボッとハイトの顔が赤くなった。

 本当に、かわいくてたまらない。自分でもおかしくなったかと思う程。


 愛おしい──。


 ぴたりとその言葉が当てはまる。


「シーン…。ここ、何処だと思ってる?」


「市場だな。昼過ぎで人でごった返してる…。──だから、皆、自分の買い物に夢中で、私達の事など、誰も気にしていない」


 ハイトは顔を赤くしたまま、恨めし気に──とは言っても、まんざらでもなさ気に──こちらを睨んでくる。


「シーン、変わった」


 プイと顔を背けるとそう口にする。はて? と思い、ハイトを見返す。


「何処だろう? 私は変わっていないつもりだが──」


 するとハイトは。


「…そう言うとこ。今だって、分かってて惚けてる。それに──」


「それに?」


「隠さなくなった…。なんて言うか…、ストレートになったって言うか…」


 言い辛そうに呟く。

 確かに、自分のハイトに対する思いを隠さなくなった。皆が二人を祝福し見守ってくれている。隠す必要がないからだ。


 そこは変わったのかも知れない。


 ハイトの尖った口先がまたかわいくて。抗議も耳に入らない。その行動のひとつひとつ、仕草が全て愛おしい。


 これは──重症だな。


「シーン、聞いてる?」


 頭を振っていると、ハイトが声をかけてくる。


「…勿論」

 

 言ってから、軽く咳払いすると。


「でも、こればかりは仕様がないんだ。ハイトがハイトでいる限り、私の思いは止められないからな」


 にこりと笑んでそう返せば、それを聞いたハイトは、ポカンとして暫く固まっていたが。


「…ズルいや。そんな顔で言われたら、何も言えない…」


 そう言って俯くと、更に頬を赤くした。

 シーンはそんなハイトの肩を抱き寄せると、


「さあ、早くセールスを片付けて、ゆっくりデートを楽しもう。その為に今日は街へ来たのだから」

 

「シーン! それって、アンリの言った通り───」


 すると、シーンはその言いかけた唇に指先で触れて。


「たまには、な?」


「──っ」


 いたずらっぽく笑んで見せると、ハイトはもう何も言わなかった。


「…わかったよ。シーンには降参だ」


 そう言うと、スルリとシーンの手に指を絡め、肩に頬を寄せてくる。


「でも、俺だって、ずっと…、もっとシーンが好きなんだから…。覚えておいてよ?」


 そう言って少し拗ね気味に見上げてくる、その樣にもうやられていた。ブルーグレーの瞳は、相変わらず澄んだ色をしている。

 二人だけだったなら、引き寄せてキスしていた所だろう。


「…肝に命じておくよ」

 

「うん」


 その言葉に満足したのか、ハイトは笑顔になってまた歩き出した。

 手は繋いだまま──。

 シーンもその手をしっかりと握りしめると。


 このままずっと、ハイトと共に歩き続けよう。


 そう誓った。


「シーン、見て! あれ、珍しい…。南国の果物だって」


「買って見るか?」


「いいの?」


「ああ。色々試して見よう」


「やった!」


 キラキラと光る横顔に、ずっと目が釘付けだった。ハイトとの時間が、自分に幸せをもたらす。

 何気ない日々が、こうも大切だと思う日が来るとは。


「…会えて、良かった」

 

「なに? 今、何か言った?」


 ハイトは振り返るが、雑踏の喧騒に、シーンの呟きは聞こえない。それで良かった。

 シーンはふっと柔らかく笑むと。


「…なんでもない」


「そう?」


「ほら、あそこにも珍しい果物がある。見に行こう」


「うん!」


 そうしてまた、行き交う人々の中を歩き出した。

 誰にもある日常の風景。

 いつまでも、この日々は続いていく──。



ーEndー


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