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少年と執事  作者: マン太


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12.選択

 シーンの背がドアの向こうに消えた後、オスカーは深いため息をついた。


 まさか息子にヴァイス様が好意を寄せていようとは──。

 

 確かに仲がいいとは思っていたが、それは兄のように慕っているからだとばかり思っていた。

 あのキスシーンを見るまでは。

 あの夜。二人が去ってから、身を隠していた物陰から姿を現したオスカーは、ため息をつき眉間に手を当てた。戸締まりの確認をと向かった先で、その場面に出くわしたのだ。

 あの様子だと、以前からシーンに迫っていたようだった。


 どうしたものか──。


 このまま見過ごす事は出来ない。従者と主が関係するなどあってはならない事だ。放って置けば、以前雇った家庭教師達の二の舞いになってしまう。

 増してシーンは自身の息子だ。有望な後継ぎとして育ててきた息子が、その渦中に巻き込まれるとは。止めるべきだろうが、勝手な判断は出来ない。

 眠れない夜を過ごしたのち、次の日の朝、主人クライヴへ相談に向かった。

 その報告にクライヴは驚きはしたものの、暫し考えにふけった。

 ヴァイスに婚約の話しを用意していたクライヴは、何としても結婚まで漕ぎ着けたかった。

 結婚して跡継ぎの子どもさえ産んでしまえば、後はどうとでもなる。素行が落ち着くならそれでよし、継続するならば、妻とは離縁すればいいと考えた。

 それにはまず、あの素行をどうにかしなければならない。

 次にオスカーを見た時、僅かでもあの素行が収まる可能性があるならと、シーンとの関係を許可したのだ。

 シーンは真面目で忠実、分別のある青年に育った。彼ならば関係を持ったとしても、身持ちを崩さず従者として接することができるだろうと判断したのだ。

 クライヴの判断にオスカーも同意した。シーンも幼い頃より面倒を見ていたヴァイスなら、まんざらでもないだろうと思ったが。

 しかし、先ほどのシーンの様子を見れば、そんな考えは更々ないように見えた。こちらの提案にショックさえ受けている様で。


 断るということはないと思うが──。


 自分を目標とし、父親と同じ職に就くことを幼い頃より切望していた。漸く夢がかなう所まで来ているのだ。それをむざむざうち捨てるなど、シーンにはありえない。


 可哀そうではあるが…。


 シーンにも言ったが、何も恋人の様に愛さずともいいのだ。せめて弟の様に思えるなら、その情で付き合っていけばいい。

 ヴァイスは求めるだろうが、無理に身体の関係を持つこともないのだ。それに気持ちさえ繋がっていると分かれば、そういった行為も求めることは少なくなるだろう。

 今はシーンの気持ちを引きたいがために、荒れた行為を行っているに過ぎないのだから。


 なんにしても、このお屋敷の、レヴォルト家の未来の為にも──。


 シーンには犠牲になってもらうしかなかった。


 +++


 まさか、父に請われるとは。


 オスカーの部屋を退出したのち、廊下を歩きながら、今告げられた事へのショックで、流石のシーンも動揺を隠せずにいた。

 しかも、主人であるクライブの許可も得ていると言う。自分の犠牲で収まるなら、易いことだと思っているのだろう。

 確かにはたから見ればそうだ。たった一人の従者が仕える主人の慰みものになったところで、痛いことなどなにもない。

 それでヴァイスの乱れた生活が収まり、屋敷の未来が安泰になるのなら、そんな簡単なことはないだろう。


 でも、私は──。私の気持ちはどうなる?


 確かに好いた相手はいない。将来を誓った相手も。それでも、生涯を添い遂げるなら、心安らげる相手と、そう思っていた。

 母は既に亡くなったが、父オスカーとは恋愛で結ばれ自分を設けた。二人はとても仲睦まじく、そんな家庭を持ちたいといつも思って見ていたのだ。

 執事の生業もそうだ。晴れやかな場で、全てを取り仕切りいきいきと働く父の姿に憧れ。そうなりたいと思った。夢は叶いつつある。

 しかし、それは初めの頃とは違った形で──だ。

 (あるじ)クライヴや父の言う通り、ヴァイスの言う事を聞けばそれで万事が上手く行く。

 執事の道は開かれお屋敷も、レヴォルト家も安泰。ヴァイスは素晴らしい領主となり──。


 いや。そんなに上手く行くはずがない。


 そんな事で皆に慕われる人物になりえるはずがないのだ。

 たとえ自分を手に入れ満足したとしても、元来持つ性質を変えることは容易ではない。

 初めの内こそ言う通りに動くかもしれないが、きっと時が経てば生来の性質が首をもたげてくるだろう。

 幼い頃からヴァイスを見てきたシーンだからこそ分かる。

 ヴァイスは自分以外のものを思いやると言う心が欠けているのだ。中心はいつも自分。だから、起こす行動は自分の気持ちを押し付ける事ばかり。

 相手を思いやり、慈悲の目をむけ、いたわると言う事ができないのだ。自分を犠牲にしても、ヴァイスが変わらないのなら意味がない。


 なにより、私自身がもたないだろうな。


 それは予期している。

 意図せずヴァイスと関係を持ち続ければ、きっとどこかで自分が壊れる、そんな予感だ。

 自分の心を殺して生きることは耐えがたい。ヴァイスに対して愛情が持てればいいのだろうが、芽生えることはないと断言できる。


 屋敷の屋上から身を投げかねないな…。


 我ながら暗い思考に苦笑するが。

 きっとその状況から逃れたいと思うようになるだろう事は明白で。

 未来を思い、暗たんたる思いにとりつかれた。


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