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村外れ

「これ、お昼にでもどうぞ」

 村の外れで兎のケモノビトの娘のシャシャンカに木の皮をなめしたらしい包みを勧められた。

お裾分けというやつだろう。普通よりいい人なのだ。

調味料は教えてくれなかったが、妙に美味しい

彼女は、村長さんの近くにいた、多分付き人とかだ。

「どうもありがとうございます」

 給水の魔道具から手を離して答えた。

からりからりと、滑車が滑り蓋が下に落ちた。

「あ、壊れてますね。村長さんにお願いしないと」

シャシャンカは給水機を覗き込んで呟いた。

 この村で魔法を使えるのが村長だけという話だが、そもそも普通の集落では魔法そのものを見つける事はないと聞く。

 村の片隅に飲料水を汲み出せる給水所がある。

村長は水の性質の魔法使いのようで、村人の為に水路を作ったりしている。

よく目につくのは水路上だけで活動できる水の塊の様な使い魔だ。

 さっきのお裾分けだって水の塊の様な使い魔の積み荷から引っ張り出されたものである。


 この村は辺境の山奥であり滅多に旅人は来ないらしい。

 真っ直ぐ歩いてふらっと訪れたこの村で私が村長です。と名乗った老いたカタマリビトのグリンブルがにこやかに笑いながら空き家があるからと村外れに置いてくれたのだった。

 よかったよかった。

それから

「先日のお裾分け、ありがとうございました」

「えへへ、美味しかったなら良かったです」

 にこりとシャシャンカは気にせずに微笑む。可愛らしい小さな少女が笑顔になると貰っただけのこちらも微笑ましい気持ちになる。


「おや、シャシャンカ君。とそちらは…おやおや、はじめまして」

 ピクリ、シャシャンカは耳を一度震わせると警戒するように目を眇めた。

 お言葉に甘えていただいた時に見覚えのない男がやってきた。

空の水桶を持っている。

 生活用水を汲みにきたのだろう。

男は派手な赤毛に作業着のような装いだった。あまり似合わない。

「俺はフォティアです。お互いにもうすぐ退去する事になるでしょうけどよろしく」

朗らかな笑いを浮かべると片手を出した。

何をしてほしいのか分からず、応じないと、赤毛は手を引っ込めた。

 フォティア、名前か…

習った覚えがないんだけど、何か名乗ろうか

 思案する。

名乗れそうな名前、思い当たる節がない。


故郷、硝子塔だらけの場所で名付けられたような名前。

……思いつかないな

「ああ、もしかして名乗れない感じですか」

名乗れない感じ?

きょとんとした視線を相槌と捉えたのかフォティアは話を続けた

「たまにいますから気にしないでくださいよ」

「そうですか」

「ええ、そもそも名前を持たない部族とか、親から望まれなかったとか」

 フォティアは肩をすくめると眉を寄せた。

単に面倒なだけのつもりだったのだろう。長話するつもりもないのかもしれない。

僕のは覚えていないだけだけど

 そういえばいいか。僕は学習できる

「フォティア…さんは、どうしてこの辺りまでお越しになったんですか」

 フォティアは顔を顰めた

「俺かい?俺は、そうだね仕事、フィールドワークだよ。実は野良で考古学をやっていてね。この村、というよりこの地域の歴史とかについて調べてたんだ。まあ、披露するような特筆できる事はないんだけど」

この辺り、口の中で復唱した。

 ちらり、と少し二つの顔が過ぎる。あのエルフのと、村長のだ。

あのこの辺りで初めて出会ったあの女性、この村で未だに見ていない。

村長はいい人、なのかもしれないけどなんか気になる事を言っていたし、どことなく信仰的というか、変な人というか。

「あの」

「なんだい?」

「この辺りにエルフの集落とかってありますか」

「エルフの?」

「はい」

 眉を上げると困惑した様な声を上げる。

村の人は知らないと言っていたが、聞くだけならいいだろう。

「この辺りの、というとこの村だけでもヒトビト、ウサギのケモノビト、カタマリビトとか多種族なだけあって、これだけなら辺境にはよくある自治都市の末裔ではないかと思うけどね。あの村長らしいカタマリビトが集めただけって話だから、実は最近にできた物みたいだよ」

少し饒舌になった。

 自治都市、確か…この世界の支配者である“竜”からの脱却として全世界に喧嘩を打った人間の集合体。当然のごとく滅びたと聞いた覚えがある。なぜか、エルフだけは別枠らしいけど

「伝説にある自治都市ならエルフだけは過去から迫害を受けていた事は有名だけどね。さっきも言ったように件の自治都市とは別枠の集まりみたいだから、答えはいてもおかしくはないかな。知られる事もほぼ無いけど」

「そうですか」

見た事ないけど

「ああ、それこそ自治都市由来の人もいるだろうし目に触れられない様にしているとかね。例えば」

いよいよと、楽しそうに語りだす。

「村長さんは何かしらの秘密色の強い宗教がやってるみたいでね。詳細は知らないけど、きっと地方に埋もれた珍しいやつだろうから…」

 ぱん、

ヒートアップする赤毛を尻目に両手を打ち鳴らしたシャシャンカは鬱陶しそうに首を振った。

 冷たい目は、余所者の価値を測っているかのようだった。

「フォティア様はまだやる事があるのでは、ささ“御使様”も」

 シャシャンカは僕の袖を引っ張った。

何度か聞いたけど…その呼び名


「まって御使ってなんだい」

急に出てきた単語にフォティアは呼び止めた。

「御使様は御使様にございます。翌日にでも部屋を引き払うあなたには関係ありません」

 詫びれもせず、にこりと微笑むとシャシャンカは僕を引き摺り始めた。

止まる理由はあまり無いし別にいいか。


「君、随分歓迎されているね。祭りの前に出て行けとも言われてないみたいだし、興味あるなあ」

フォティアの声が最後に聞こえた。


 わりと、冷たい感じの人だよ?

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