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誓い

オランダを離れ、日本へ帰国した。春島さんによる同伴で成田空港を降りた俺は、促されるまま出口付近に止めてあった白いアルファードに乗り込んだ。当然、迎えを頼んだ記憶もなく、警察か何かが用意した車両であることは察しが付いた。


車内には、運転手と若い男女が二名。SPのような黒いスーツに身を包んでおり、耳には連絡用の通信機器が取り付けられていた。


「笹壁さん、こちら左から(つつみ)、中川です。運転手は柳原...運転手は毎回変わるので、長く顔を合わせることになるのは堤と中川です」


女性が堤さん、男性が中川さんと言うらしい。


「東京にいる間はこの2人が警護をしますのでよろしくお願いします。」


「もう警護つくんですか」


「えぇ、オランダでドードーと接触した事は公にはなっていませんが、もしかしたら情報の漏洩があるかもしれません。その情報をもとに笹壁さんに接触してくる人間もいるかもしれないので、念の為。」


「なるほど」


二人とも見るからに年下だろう。

なんか、こんなよく分からないアラサーのおっさんを警護することになった二人には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

なるべく負担がかからないよう、不要な外出は避けるとしよう。


「宿泊先はこちらで用意してます、有識者会議終了後、1日経過するまでそのホテルに宿泊してもらう予定です。ある程度状況が収まり次第、護衛をつけての帰宅になります。帰宅後、海外に行かれる予定がありましたら私のところまで連絡してください。これ電話番号です」


渡された名刺にはきっちりと電話番号が記されていた。


「海外で何かありましたら、日本大使館及び私にすぐさま連絡してください。すぐに駆けつけます」


「あ、ありがとうございます...なにからなにまで」


あらかた説明が終わったところで車は走り始めた。


「一応、今から宿泊先のホテルで荷物を預けたあと、ニホンオオカミとニホンカワウソが保護されている上野動物園に向かいます。専用のガラスに覆われた部屋の中で保護していますので、直接の接触と言うよりもガラス越しでの対面になります」


「分かりました...」


厳重に保護されている二匹、もう撫でることは出来ないのだろうか。


車は田畑を抜け、京葉道路を進み、江戸川、荒川、隅田川と三つの川を横断し、半蔵門のホテルに到着した。チェックインを済ませ、荷物を預けるとそのまま再び車に乗って上野に出発した。


「上野動物園は緊急用の出入口から入ることになります、動物園通りから続く園内の動物医療センターに直結する入口です。非公開ですが、そこにニホンオオカミとニホンカワウソがいます。」


「なるほど...」


「今現在、医療センター付近はあらかた進入禁止となっています。」


上野公園からひとつ外れた細い道。その名も動物園通りを左折し直進後、ぽっかりと開かれている大きな門に車両を乗り入れる。車をおり『関係者専用入口』と書かれた扉を開けると、長い廊下が続いていた。


階段を上り、忙しなく動く職員の間を縫いながら、事務室と記されている部屋に入った。


「おぉ、笹壁さんおかえりなさい」


「あ、花神教授」


事務室の真ん中には大きな机に大量の資料が載せられ、壁際のホワイトボードは訳の分からん専門用語で埋め尽くされていた。机を取り囲む難しい顔をした研究者の一人に、花神教授はいた。


「いやいや、オランダでの出来事はびっくりしましたよ...日本じゃまだ限られた人しか知らないけど、関係者の間では笹壁さんの話題がもう尽きませんよ」


「知らないところで話題になってる...」


「で、ドードーはどんな感じでした?」


「従順な大きい鳥...って感じでしたよ。羽毛もふさふさで、けっこう重かったです。」


「なるほど...実質、人類で初めて絶滅後のドードーに触れた人間ですからな。貴重な意見です...ささ、長旅つかれたでしょう、椅子でもどうぞ」


「あ、すいません」


事務椅子に腰をかける。

一方、先程まで机を取り囲んでいた研究員が軒並み、俺をガン見していた。


「あ、あの...」


「みんな笹壁さんに会えて嬉しいんですよ、我々にとってここ数日、笹壁さんは話題の人物でしたから」


「そうなんですか...」


「えぇ、ニホンオオカミ、ニホンカワウソ、それに加えドードーに接触した功績は計り知れませんよ。しかもいずれも保護確率100%、表彰もんですよこれは...いやはや、世間に知れてないのが実に惜しい。まぁ、数日後の有識者会議で知れ渡るわけですが...そうすれば、教科書に載ること待ったナシですな」


「はは、大袈裟な...」


「...そうだ、今度うちの大学に講義に来ませんか。日程が合えばですけど」


「...話すことないですよ。調査して見つけたってよりも、単なるラッキーで遭遇しただけですから」


「それでもいいんです、生徒に夢を与えるには十分ですよ」


その後、研究チームとの挨拶を済ませた俺は、ようやくあの二匹と再会することが出来た。


「久しぶりだな」


「バフッ...バウッ」


尻尾を振りながら嬉しそうにジャンプするオオカミ、ガラスをカリカリとかきながら元気に駆けずり回るカワウソ。俺の顔を覚えていたのだろうか。


「悪いな...今は撫でてあげられないんだ」


嬉しそうにする二匹を目の前にしながら、ガラス一枚に隔たれていることが残念でならない。しばらくガラス越しに触れ合っていたが、完全に消毒された餌を、さながら無菌室のように防護服を着た職員が与えている様は、動物の保護と言うより未確認生物を拘束、管理しているようだった。


エリア51で行われてそうな扱いをこの子達にしている事に、少しだけ心が痛む。希少な存在であることはわかっているが、もう少し自由を与えて欲しいと思った。ただこういう生物が、本来の居場所である森の中に生息していることが知れると、密猟者に狙われるリスクも高まる。


私利私欲のために法を破って、動物を狩る人々の思考がわからない、否、その思考を理解するなんてたまったもんじゃない。


今後もしかしたら、オランダのドードーみたいに絶滅種が現れる可能性もある。そんな時に、無法者の集団に攫われ、剥製として売られることは絶対に避けなければならない。


俺は、数日後行われる有識者会議の場において、絶滅種及び絶滅危惧種の強固な保護を、日本のみならず世界に訴えかけることを誓った。






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