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最強の生物

しばし船に揺られ到着した地点はビーチからかなり離れた沖合だった。

ここでタンカーが何者かに襲われるという事件が起きたらしい。分厚い鉄に大きな穴を開ける生物なんてこの世に存在するのか大変疑わしいが、実際報告も多数挙がっているため嘘とは断定できない。


巨大なソナーを海面に垂らし、しばし様子を見る。周辺の海域の地形や魚影がすぐさま分かるので大変便利だ。釣りのお供にいかがだろう、今なら120万円ほどで購入出来る。


待つこと数十分、特に目立った魚影は見られなかった。並行して海中に沈めていたラジコン型の潜水カメラも、怪しそうな岩陰を捜索してみたが手がかりは掴めなかった。海底には襲われた際の船の破片が散乱しており、当時の惨状がいかなるものだったか、想像は容易い。


捜索を続けても一向に影は見えず、今度はポイントを移動して可能性の高そうな場所を同様の調査方法で探索してみる。


しかし結果はおなじ。


これはネス湖の時よりもだいぶ厄介だ。湖という限られた区域を探すならまだしも、広大な海ともなれば干し草の中の針を探すようなもの。

被害にあったタンカーの船員が言うに、襲われた時はまだ太陽が昇っていたというし、夜行性ということも考えにくい。


どこかに身を潜めているか、はたまた遥か遠くへ移動してしまったか。可能性としては後者の方が確率は高いと思われる。常にその場に停滞して獲物を狙うよりも、餌のありそうな場所に移動するのは生物として当たり前の行動だ。ただそうなってくると、捜索はさらに困難を極める。


我々だけでは完全にキャパオーバーだ。




とりあえず念には念を入れて夜の調査も行ってみたものの、姿は見られなかった。いくつかの痕跡を残し、ここ近辺の海域からは遠く離れてしまったに違いない。そう断定し調査は翌日に持ち越しとなった。




翌日。念には念を、さらに念を入れて海中に設置できる暗視機能の付いた監視カメラをいくつかばらまいた。

今日はそれの回収及び、もっと広域の調査を行うために数隻の捜索用小型船を四方八方に向かわせた。


小型船の分隊とイージス艦の本隊の間では常に連絡が飛び交っており、怪しいことがあれば逐一報告が来る。ただ特にこれといった変化はないようで、分隊の帰還を指示しようとした時だった。


『α-4 α-4、こちらβ-9、緊急の連絡…どうぞ』


『β-9、こちらα-4。緊急の連絡を許可する、どうぞ』


『α-4、こちらβ-9、11:42タンカーが襲われた地点に設置したNo.7のカメラが粉砕されていることを確認…どうぞ』


『…粉砕された?』


至急、ビーチに設営された拠点のコンピューターチームに連絡を取る。


『こちらα-4、コンピューターチーム、応答願えるか』


『こちらコンピューターチーム、どうした』


『今しがた調査に向かった分隊β-9からタンカーの被害を受けたポイントに設置したNo.7のカメラが粉砕したと受けた、そちらにデータはあるか』


『あぁ、あるとも』


今回、海中に設置した監視カメラはもしも紛失及び故障した時のため、映像データは遠隔で逐一陸上のコンピューターチームの所へと転送される仕組みになっている。したがって、たとえ粉々に粉砕したとしてもそれまでの映像は綺麗に残っているということだ。


何者かが粉砕したのか、はたまた噂の怪物か。


映像の解析を行っている間に、カメラの粉砕に対しての考察が交わされた。陸上にいる後衛隊の研究チームと船上にいる前衛隊の研究チームが、リモートで話し合いを進めている間、我々は更なる探索をすすめていた。


20分後、データの確認が取れたという連絡が来たので映像を船内に送ってもらい、巨大なモニターにそれを移した。



記録は深夜2時30分を過ぎた断片的なものだった。暗視のためモノクロに映る暗闇の海水の中から徐々にうっすらと姿を現す巨大な影、全体像は見えなかったが、その直後、巨大な牙と共にカメラが噛み砕かれ映像は終わっている。わずか15秒程度の短い動画ではあるものの、ここから推察されることは無限大だった。


研究者たちがあれやこれやと話し合いを進め、ついに至った結論を発表してから、今日の調査は今すぐ切り上げるべきだと指摘を受けるまでさほど時間はかからなかった。


『この生物は恐らくですが、今から3億8200万年前から3億5800万年前、古代デボン紀に北アメリカ大陸の海を欲しいままにしていた海洋生物界頂点の捕食者…ダンクルオステウスだと推察します…牙の形状から今まで襲われてきた船に切り取られたような傷があることは想定できますし…小型船がもしも遭遇したら一溜りもないでしょう。』


映像越しのカレン博士の顔が引き攣るレベルにやばいことはこちら側にもヒシヒシと伝わってきた。



『映像から見るに大きさは化石から考察された記録と同様に8.5~9mの間、頭部は板皮類と呼ばれる所以とも言える、非常に硬い装甲で纏われています。牙は爪切りのように薄く鋭い天然の刃が上下にふたつ付いており、噛まれれば人間の肉なんて簡単に切断できます。分厚い船に穴を開けるほど強固とは考えられませんが…これまで見つかってきた絶滅動物も進化を遂げています。恐らくこの個体も同様と思われます。』


すぐに戻ってくるように、という言葉を受けた我々は冷や汗を流しながら船を旋回させた。




岸壁に停泊し、しばらく移動した後拠点の後衛チームと合流する。

後衛では既にダンクルオステウスの研究が行われており、活動範囲、進化の有無、対処策等々、協議は白熱していた。


その中でも特に熱を帯びていたのが、どうやって捕獲するか…という点である。絶滅動物と分かってしまった今、無闇矢鱈に弱らせてから運ぶことはその生物の生命の根幹に関わる重大な事態だ。捕獲したとしても、留めておけるほどの檻もないし、どこで引き取るのか、どうやって研究するのかまだ決まっていない点が多い。


長い時間協議したとて、その間に人的被害が出てしまったら大変なことになってしまうし、ならば退治するか…ということも出来ない。

プレスリー大尉は更なる応援要請は急務とし、既に上層部と連絡を取りあっている。いつも通り大事になったが、予定よりも早く見つけられたことは結果オーライと言えよう。


そんな中、協議していた中でひとつの疑問が投げかけられた。




簡単に説明するために、まずダンクルオステウスがどう言った生物かを噛み砕いて説明する必要がある。


ダンクルオステウスは体長が8mを超える化け物で、頭が分厚い装甲に覆われており、爪切りのような鋭い牙を持ち合わせている。しかしその発見されている化石は未だその装甲の付いていた頭骨のみで、体は軟骨であったと推察されておりそれが定説である。


しかし今回発見された個体を映像で見てみると、軟骨を有する片帯から尾にかけて光沢を有する大きな鱗に覆われているということと、頭骨部分の装甲も同様の光沢に覆われていることが判明した。


更に研究ではダンクルオステウスの噛む力は約540キロ程度とされていたが、タンカーの分厚い鉄板を食いちぎるほどの力を持っているとすれば、540キロを優に超える可能性が高いという。


本来なら絶滅動物が生きていたと喜ぶべきではあるものの、今回の相手はあまりにも色々な意味で厄介すぎる。こんな生物が現実世界にいて良いのかと神に問いたいほとだ。


さらに追い打ちをかけるように語り始めたカレン博士の推察に、研究者たちは冷や汗を流した。


『ウロコフネタマガイという生物をご存知ですか?みなさん』


『もちろん…て、まさか』


『もしもこのダンクルオステウスくんが同様の力を有していたら…それこそ分厚い金属を噛みちぎることなんて容易いと私は思います。』


何が何だか分からなかったので、隣にいる桃谷さんに問うた。


「ウロコふね?」


「ウロコフネタマガイです。2001年にインド洋で発見された貝のことで熱水鉱床に生息している生物です。その特徴は…」


「特徴は?」


「骨格、そして体表の鱗に硫化鉄を持っているんです。つまるところ、金属を身にまとった生物ってことです。」


「金属を身につけた生物なんて世の中にいるんですか」


「いますよ、例はものすごく少ないでしょうけど…でカレン博士はその希少な仲間の中にダンクルオステウスが入るんじゃないかって…」


「てことはデカくて、凶暴で、噛む力も強くて、さらに金属製の強固な鎧を身にまとっていると。」


「そういうことです。」


「最強じゃないですか…」


「それに分厚い鉄を噛みちぎるほど、牙が鋭利ですからね…天然の刃物を搭載した生物…悪夢ですね。」


そんな生物が浅瀬にやってきたら、被害は甚大なものになるだろう。人間程度、切り刻むことも簡単だ。強力な咬合力に加え鋭利な刃、イージス艦の船体に穴を容易に空けられる姿を想像すると寒気が止まらない。





前衛隊の戦意は完全に消失していた。




その日の夜、サンディエゴのレストランに訪れた俺は、目の前を覆うフラッシュを見て、昼間から引きずっていた戦々恐々とした気持ちが完全に拍子抜けしてしまった。


というのも、プレスリー大尉とに夕飯を一緒に食べないかと誘われたため、桃谷さんと日本から付いてきた護衛官数名を引き連れて、待ち合わせ場所のレストランへと入店した時、店内が騒ぎに包まれた。


皆、俺の姿を見るなり、まるで著名人でも見たかのような様相で片手に持っていたスマホで写真を撮り始め、ついには噂を聞き付けたパパラッチまで登場してしまい、とんでもないことになってしまった。


どういうことですかと桃谷さんに聞いてみれば、大統領とお会いした有名人なので当然の反応ですと半笑いで返されてしまった。

いつからこんなに有名になったのか…一切自覚がない。


ちなみにたらふくご飯を食べたあとは無事にホテルに戻ることが出来たので、護衛官を連れてきて本当によかった。










「はい、今サンディエゴにいます」


一人の男が物陰から様子を見つつ何者かに電話をかける。


「えぇ、明日きっかり明朝に…はい、はい分かりました。ロスディネフェネスで落ち合いましょう…失礼します。」



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― 新着の感想 ―
[一言] バーバリライオンとか出ないかなぁ
[良い点] 地球上にかつて生息した生物がフィクションでも現れるのはどきどきするなぁ [気になる点] 人間の手で保護するのはちょっとエゴなのかもしれないなぁ [一言] UMAとか絶滅種にスポットをあてた…
[一言] 今までにない新鮮な内容で話も面白くてすごく好き
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