表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/37

インドからのお客様。

自分の中でプレシオサウルスの発見は決して褒められたことでなかったが、帰国後はその歓迎ムードに拍子抜けしていた。今までネス湖の怪物と言われてきたネッシーの発見は相当な衝撃だったらしく、東洋の島国にもそれは伝わっていたらしい。


空港での取材という熱烈なお出迎えを受けながら、政府が用意した車に乗り込んでその足で事務局へと向かった。報告書の提出をして、早々に山形に帰ろうと思っていた矢先、衝撃的なことを伝えられ思わず愛想笑いを浮かべてしまった。


「ギガントピテクスが来日します」


巨大猿、日本上陸。








大統領専用機から降りてきた人の良さそうなおじさんと、大きなターバンを巻いた仙人の正体は、日本が丁重に国賓としてもてなすべき相手である。

来日の記念式典に列席して欲しいと大統領閣下及び、ターバン姿のマハーラージャに指名されれば、おちおちと山形に帰ることも出来なかった。


久しぶりですねと笑顔で手を差し出すのは大統領閣下、初めましてお会いしたかったですと手を差し伸べるのはインドの大貴族マハーラージャ。国のトップと超絶お金持ちから握手されるなんて、総理大臣ですらそうそう経験できるものではなかろう。


緊張しながら会釈しつつ2人を案内する。

言っておくが俺は外交官じゃない。山形生まれの一般男性だ。


ギガントピテクス来日に先立って日本へやってきた御二方は、公式訪問や首脳会談も兼ねた日本観光をするために、成田空港に降り立った。

空港職員やSPに厳重に警護されながらレッドカーペットを歩く。隣にはわざわざ御出迎えにきた総理大臣が英語を交えながら会話をしていた。


この四人の中で完全に俺だけ浮いている。なぜにこんな超VIPの中を歩かなくてはいけないのかと心の中で悪態をつきながら、分からないヒンディー語や英語に愛想よく振る舞う。


通訳の人もそばに居るが、ヒンディー語で発した言葉と通訳が話す日本語が重なってて聞き取りにくすぎる。何言ってるかわからん。


「「आप あなたहमारे दकेた लिए बहुत わला हैं। おおआपकाり बहुत बが धन्यवाद।とう」」


「え、えぇ…こちらこそ〜」


最後にありがとう的なことを言っていたのは確かなので、こちらこそと会釈を返す。レッドカーペットの先にある車に到着すると国賓2人が乗り込んだのを見て、総理大臣専用の車両へと乗り込んだ。

今回の来日では、俺と総理が2人に付きっきりのため特別に専用車両に乗ることを許可されていた。


洗練された車内で緊張していると、天下の総理大臣が優しい口調で話しかけてきた。


「大丈夫ですよ。緊張しないで、外交は我々に任せてください。笹壁さんは傍に居てくれるだけで心強いですから」


「はは…どうも」


傍にいてくれるだけって…俺は何かバフでもかけているのだろうか。

周りを白バイに囲まれながらゆっくりゆっくりと移動していく。規制のかけられた高速道路は渋滞知らずで、要人専用の道路に車列が入った際は思わず感動を漏らしてしまった。一般人にはなかなか体験することの出来ない超絶VIP体験に口元が緩む。


やがて一行は首相官邸に入った。


来日後の短い首脳会談は俺を除いた3名で行われた。その間、何をしていたかと言うとギガントピテクスの来日に際した段取りの確認と、今後の予定の把握である。首相官邸の別室で柔らかいソファに腰をかけながら落ち着くことが出来たのは、なかなかラッキーだった。このまま会談に混じってこいと言われたら緊張で息が出来なかったと思う。


しばしの休憩の後すぐさま車両に乗り込んで会食に向かう。

会食場所は都内の有名和食料理店で、旬の魚と野菜を味わうことの出来る、言わば高級店だった。インドの方に日本食が合うかと言われれば首を傾げてしまうが、日本なりのおもてなしでいきなりカレー屋に連れていくのもおかしな話だろう。


首相およびマハーラージャ来日から2日後、東京から一気に移動して関西国際空港の滑走路へと降り立った俺は、巨大なジェット機から姿を現したギガントピテクスの姿を見て思わず笑みがこぼれた。久しぶりの再会はやはり人間だろうが動物だろうが感動する。


今回日本にやってきたのはオスのギガントピテクス一頭で、群れの中でも極めて温厚でかつ人間になつきやすい性格だという。ギガントピテクス発見後からインド国内での研究は加速しており、彼ら彼女らも人間と同様にそれぞれ性格や価値観が存在していることがわかった他。極めて知能が高く、モールス信号を教えたところ1ヶ月でマスターしてしまったという。


またギガントピテクスを題材にしたボリウッド映画は記録的な大ヒットを収めており、既に国民的なアイドルになりつつあった。今回の来日は、単に日印の友好性を示すだけでなく、日本人の俺が発見したことで感謝の意味を込めた凱旋を行いたいという大統領の意向が大きく反映されたが故だ。


そのため、ギガントピテクスの研究や保護に資金を提供しているマハーラージャも同様に来日したというわけである。


透明なアクリルケースの中で大人しそうに座るその様は、普段の迫力とは程遠い可愛さがあった。その図体からさぞ凶暴な生物かと思いきや、意外と臆病で心優しき性格というギャップに萌える日本人もかなり居るほどだ。


ギガントピテクスはそのまま大阪の天王寺動物園へと移送され、十分な健康状態の検査を受けた後、満を持して1週間限定の展示がされるという。来日した個体数がわずか一体のみということもあり、孤独感と緊張感を与えてはならぬとその間、俺は彼に付きっきりだ。


観覧客の抽選はもう済んでおり、来場者用のゲートとは別に入口が設置されるという。日本国内は完全にギガントピテクスフィーバーと化していた。インドであれほど話題になった生物が日本にやってきたという事実に羨望の眼差しを向ける国は多く、次は我が国にと声を上げる首相もいた。


トラックに乗せられた彼の後を車で追い、検査を受けている間も静かに見守る。ようやく広い部屋へと移された彼との交流はバナナの受け渡しから始まった。手に取ったバナナを皮ごとむちゃむちゃと食べるその姿は、まるで巨大な赤子のようだ。


発見後から彼らは様々なフルーツを食して来たせいで今ではかなりのグルメ思考になったらしい。その中でも特にスイカやバナナなど、日本人にもお馴染みの果物や、幻のフルーツと名高いポーポーも好んで食べるという。


俺よりいい食事をしてやがる。



複数の個体が発見されたギガントピテクスだが、それぞれの個体に名前をつけることになり、公募が行われたのだとか。ただ上記にも述べた通り彼や彼女らはインドのアイドル、応募された総数がとんでもなく膨大だったせいで未だ結果が出ていないという。



というわけで目の前でバナナを頬張っているコイツの名前もまだ付いていないということだ。じゃあなんと呼べばいいのかと疑問に思うかもしれないが、頭がいいので手招きをすれば自ずと近寄ってくるらしい。


これなら動物園の職員も楽にコミュニケーションをとることが出来るだろう。





ギガントピテクスが環境になれ始めた3日目、ついに展示が行われた。

動物園前には朝から各局の報道陣がカメラを回し、並ぶ観覧客に取材を行っていた。


一応観覧のルールとして、フラッシュや大声等、驚かせてしまう行為は一通り禁止となっており、観覧できる時間も決まっている。なかなかにシビアだが上野動物園のパンダもこれぐらいの措置を取っているため、なんら不思議なことではないという。むしろ、観覧するために数時間も並んで一瞬しか見れなかったという事態を防ぐために、一度に観覧できる人数をこと細かく調整している。なかなかの親切設計だ。


ちなみに、展示時には俺も展示スペースに入って世話をしていたため、SNS上にギガントピテクスの横で箒をはく俺の姿が話題となった。





恥ずかしい。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ