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ギガントピテクス捜索作戦

「はい、インディアでもササカベさんの名前は有名です。その知名度は既にニッポンだけじゃないです」


「そんな名前知れてるんですか」


「ササカベさん絶滅動物たくさん見つけた、だからインディアでもササカベさん呼べば見つけてくれるって思いました」


インドで目撃された謎の人型生物、その捜索を名指しで依頼された原因は数日前の有識者会議での出来事だった。

『ニホンオオカミ及びニホンカワウソの保護並びにレッドリスト動物の管理に関する会議』は日本のみならず世界各国の報道機関が取り上げた注目の会議で、俺が絶滅動物三種を発見した功績は世界中に広まるほどの一大ニュースとなった。


インドはアジアでも有数の広大な自然保護区が複数存在することから、他国と比べて今回のニュースがかなり注目されたらしく、インド国内の大学では絶滅動物の研究が活発になりつつあるらしい。


そんな矢先、北東部に位置するカジランガ国立公園にて、およそ3.5mから4mの超巨大な人型生物が目撃された。以前から、この国立公園では謎の草食動物によって森林の草木が食い荒らされる現象が多発しており、その現象と人型生物に何らかの因果関係があるのではないかと調査を進めてみたものの、手がかりを掴むことは出来なかったという。


ならば、今まで誰も成し得なかった絶滅動物三種の発見を成功させた、期待の生物学者、笹壁 亮吾に人型生物の捜索を協力してもらおうと、インド政府直々にオファーしたというわけだ。



いろいろツッコミたい部分はある。有識者会議で、俺は生物学者と紹介されたことは無いし、自ら名乗ったことも無い。絶滅動物三種を見つけたのも単なる偶然で、学術的知見からその人型生物を捕獲することも出来ない。


つまるところ、インド政府が今回、俺に捜索協力願を出したのは壮大な勘違いというわけである。国や言語が変わると、事実とは違う脚色されたニュースが流れるなんてことは世界的に見ればザラである。

一つのニュースに対して、その国の国民ごとにどのような意識を持っているのかは必然的に変わってくる。


ただ例えそうであったとしても、もう少しちゃんと調べてから依頼するべきだ。俺は何とか弁明するために、正真正銘、事実を大使に伝えた。


「自分は生物学者でもないですし、絶滅動物を見つけたのも単なる偶然です。今回、インド政府が依頼してくださったのは大変に光栄なことですが、私では力不足だと思います。」


「ダイジョウブです。例え生物学者じゃなかったとしても、誰も責めません。」


「いや...でも」


「ハナガミさんは正真正銘の生物学者、アナタがそうじゃなかったとしても、一緒に来て貰えるだけでけっこう。我々インディアはあなたのパワーを信じたい」


どんなに事実を伝えようと、大使が折れることはなかった。これで、見つけられませんでした、となってガッカリされたらたまったもんじゃない。

予想外にも今回の依頼に関しては花神教授も賛同しているようで...


「笹壁さん。広大な土地から一つの生物を見つけることは、例えどんなに深い知識を持っていても、そう簡単にできる事じゃありません。運も必要なんですよ。相手は動物、こちらの予想とは違った動きをすることもある。科学的根拠だけで発見できるなんてそう甘いもんじゃないんです。」


「...」


「だからですね、私は...笹壁さんが今回の調査に協力するのは深い意味があると思います。たとえ偶然でも、笹壁さんが絶滅種を発見してきたことは紛れもない事実でしょう。専門家云々は置いといて、私としても是非調査に参加してくれるとありがたいですし心強いです。」


「...そこまで言われたら...」


俺は、魅惑のカレー大国に飛んだ。







飛行機を乗り継ぎ、カジランガ国立公園に到着した。公園の入口付近には、軍関係者や専門家が待機していた。公園は封鎖され、通常行われている観光客向けのツアーも中止となっていた。

ガイド兼通訳のラーヒズヤさんが現状を説明してくれる。


「今、公園は封鎖されてカンケイシャ以外立ち入れない。ハナガミさんは知ってると思うけど、カジランガはインドサイが多く生息してるから密猟者に狙われやすい、大きな怪物も狙われてる可能性がある」


「サイがいるんですね...てっきりインドだから象が多いと思ってました」


「ラーヒズヤさんの言う通り、この国立公園はインドサイがかなりの数生息してて、近年ではその『中実角』つまるところツノを狙った密猟が横行してるんです。サイのツノは漢方として高く売れますから、かなりの数が標的にされてるんですよ。しかも殺して奪うからタチが悪い」


「...許し難いですね」


「安心して、ササカベさん。この国立公園、密猟者ぶっ殺してもOK。ショクインみんなShot Gun持ってるヨ」


「えッ!?ぶっ...!?」


「密猟の横行が影響して、密猟者に対する銃殺が最近合法化したんですよ。今回の調査にあたって、密猟者と鉢合わせる可能性も往々にしてありうるので、警備員の他、軍も国から派遣されてます。」



どうりで軍関係者が多いはずだと納得する。ヘリコプターや重機関銃を積んだ装甲車も用意されているあたり、今回の人型生物調査にインドはかなり本気のようだ。



「ニッポン、オランダ。ふたつの国でゼツメツ動物みつかった、次はインディアの番だってみんな気合い入ってる」


「まぁ、この光景を見れば気合いの入りようは頷けますね」


オランダでドードーを見つけた時よりも、自宅の裏山を調査した時よりも、倍以上の人間が国立公園に集まってる。招集された研究者の中にはインドのみならず世界中の生物学者が顔ぶれを揃えていた。


その中には顔なじみもいて。


「あぁ!ささかべさん!」


「カローラっ!?」


妙にスタイルのいい美人がいるなと思ったら、オランダで知り合った生物学者、カローラ・デ・ビュールだった。


「はながみさんも、ひさしぶりです」


「えぇ、お久しぶりです。昨今のご活躍、日本でも聞き及んでいますよ」


「はながみさんのはなしも、オランダでゆうめいです」


知り合い同士が挨拶するのを見るのは妙に感慨深い、世間は...いや、生物学界は広いようで狭いなと実感する。霊長類の調査に鳥類と昆虫学を得意とするカローラが招集されているあたり、今回の調査で集められた生物学者は分野問わず様々なようだ。

その中の一人に、かなり個性的な人がいた。


目測身長2m、筋骨隆々の格闘家のような見た目をした男性。白衣の袖を捲りあげ、腕から覗かせるイカついタトゥーと筋肉のスジが印象的だ。カタギだろうか?と一瞬疑ってしまうほど、インテリ感のある白衣を霞ませる益荒男。


「彼の名はゴルジェイ・アスタプチェンコ。ロシアの哺乳類学者で、最近はシロイルカとバイカルアザラシの研究で名を轟かせている天才だよ」


「へぇ...なんか、大きいですね」


「元軍人だからね」


花神教授の説明で、彼の素性は把握したものの、それでも威圧感は半端ない。一歩間違えて癪に障るような事をしたら、(なます)にされそうだ。


その後、続々と人や荷物が集合し、特設のテントや通信機器の設置が完了した。調査する前に軍関係者、専門家問わずミーティングが行われた際、今回の保護目標となる生物の写真(・・)が公開された。


『これは数日前、ここの職員が撮影した写真です。画像は荒いですが、周辺の木々に比べかなりの大きさを誇るオランウータンの近縁種である可能性が高いと思われます。』


「でっか...」


『信じ難い話だとは思いますが、この生物に類似した霊長類がここインドで生息していたことは記録にも残っています。ベトナム、中国、そしてインドに生息していたギガントピテクス、それの生き残りか、または酷似したオランウータン属の新種か、写真だけでは確証に至りませんが、確実にここカジランガ国立公園に生息していることは確かです。くれぐれも調査の際には細心の注意を払って挑んでください。以上になります。』



俺は、巨大オランウータンの写真を見て完全に怖気付いていた。

でかいモノは怖い、動物であろうが人であろうが。

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