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裏山調査

「目の前にある山...とその隣の山、奥にうっすら見えるアレもうちの所有してるものです」


「随分と広いんですね...」


「えぇ、親父がしょっちゅう山に入ってましたけど、その全容は分かっていないと...聞くに曽祖父が子供の頃から所有していたそうです。戦時中も、この村が山奥すぎて疎開に来る人はほとんど居ませんでしたし、広いだけであまり利用価値もないらしく...ゴルフ場にしてしまおうって計画もあったらしいですけど、ヘリコプターで通わせる気かって言われて頓挫しました」


「まぁ、それだけ...人の手がついていないということですから。我々生物学者にとってはこの上ない環境ですよ」


「それは良かったです」


全身を真っ白な防護服で覆った謎の集団。

そのうちの一人こと俺は、裏山調査隊のメンバーと素顔の見えない顔合わせを済ませると、早速山に足を踏み入れた。


傍から見れば、組織的に蜂の巣の駆除をしに行く怪しい団体にしか見えないが、こんな怪しい格好をしているのには深い訳がある。

希少生物が生息している可能性が高いこと、かつほとんど人の手が入ってない裏山を調査するにあたって、病原菌を持ち込むことはタブーであり、当然、毛髪や汗等を森の中に落とすことも禁じられている。それを防ぐために、安物のストームトルーパーのような格好をしているのである。


今回調査するにあたって編成された部隊は二つ、一つは裏山を調査する調査チーム、そしてもう一つは無線やドローンなどで裏山を解析し、常時通信を続ける管制チーム。俺は調査チームに配属された。


夏が過ぎ去り、紅葉を見せつつある涼しい秋ということもあり、防護服はなかなか快適だ。山の奥に進むにつれて気温も低下していくため、体感温度はちょうどいい感じになる。

救助に長けた山岳救助隊と自衛隊員数名、動植物に詳しい生物学者数名、念の為猟銃を携えた猟師数名で結成された調査チームの中に、一人紛れながら山を進んでいく。


斜面は比較的緩やかで、かなり歩きやすい。土も固く、今のところ足場の悪い場所には当たっていない。しばし歩くと、水溜まり程度の浅い小川がチョロチョロと流れているのを発見した。チームのうちの一人である水生生物学者が、専用のケースから小さな遠沈管を取り出し、その中に水を少量入れる。


進む度にこうして採取しては周りを観察する。

探索とは言っても案外地味だ。小川に沿って登り続け山の中腹部まで来たところでしばし休憩となった。

トランシーバーで下と連絡を取りながら周りを観察する。


ふと、肩に何か留まった。


「あ、あの...」


「シーっ、動かないで」


「...はい」


何が留まっているのだろうか。


「...ゴキ、ですか」


「いや鳥...」


「...鳥?」


カメラで写真を撮ると、鳥類学者のいる管制チームにそのデータを送った。しばし連絡が来るのを待つ。


一方、肩に乗っていた鳥はそのまま俺の頭に留まった後、そのまま飛び去っていった。後ろ姿が美しい鳥だった。


「返信は来ましたか?」


「えぇ、来ました...」


「なんて?」


「『よく分からない、見たことない』だそうです。ただカワセミの仲間であることは確かかと」


鳥類学者が分からないのなら我々も分からないので、仕方なく先に進むことにした。数分後、再び返信が来た。


「返信です『恐らくズアカショウビンじゃないか』」


「ズアカショウビン...」


答えを聞いてもよく分からない、かなりニッチな鳥ということだろう。暫し登ると、大きな岩肌が姿を現した。


「迂回しますか」


「そうですね」


防護服を着ているということもあり、機動性に難がある影響で、岩肌を登ることは困難だった。幸い、岩が突き出ているのは山の中でもごく一部で20mも横に歩けば、先程と同じような土の地面が続いていた。


そこから登ること10分、山頂までもう少しという地点に到着したところで綺麗な沢を発見した。緩やかかつ浅い谷間を流れる沢は底が見えるほど透き通っており、水深もかなり深かった。


「汲んだら飲めますかね」


「飲めそうなほど綺麗ですけど...まぁ、検査しない限り断言はできません...」


すぐそばに居る水生生物学者に問うたものの、確証にいたる答えは返って来なかった。


「ん?」


しばし沢の近くで休憩していると、チームの一人であるベテラン猟師白柳(しらやなぎ)さんが何かを見つけた。


「いま...なんか動いたような」


「...」


水の透明度が高いものの、木々が陽の光を遮断してよく見えない。

刹那、川底の岩場の隙間で大きな影がゆっくりと動いた。


「あっ...」


「動きましたね...それもかなりの大物が」


影でも判断できるほど、かなりの大きさを有する謎の生物。


「どうしますか...おびき出します?」


「いえ...写真だけ撮りましょう」


だいぶ暗くて見えづらいものの、しっかりとカメラでその姿を撮影する。偏光フィルターを取り付けてもあまり明確には見えなかった。分かるのは岩場からエラと思われる大きなひらひらが出ていたことと、しっぽが焦げ茶色だったことのみ。


まるでオオサンショウウオの首にウーパールーパーのエラを取ってつけたような謎の生物。姿形は分からずとも、そこら辺に当たり前のように生息している生物でないことは、その場にいる誰もが察していた。


後々分かった事だが、スキャナーでその生物の形を確認してみたところ、かつて中国に生息していたチュネルペトン、又はその近縁種ではないかという見解が上がった。根拠はかなり薄いが、カラウルスの可能性もあるという。


ちなみに、山の中腹で出会った鳥は、ズアカショウビンよりもミヤコショウビンではないかという説が浮上した。真偽の程は定かでないが、本当ならば遥か遠い宮古島からここ山形県に渡ってきた経緯は謎に包まれるばかりである。


二種とも既に絶滅している。







2日ぶりに訪れた上野動物園 動物医療センター。今回は特別にオオカミとカワウソの餌付けをさせてもらえることになった。

当然、触れることは出来なかったが、ガラス越しで無い分、かなりマシと言えるだろう。二匹とも餌をバクバクと食べる姿が可愛らしい。


「出会った頃よりもだいぶ肉付きが良くなりましたね」


「まぁ、ここに来てからもかなり食欲旺盛で。餌は自然に近いよう、採れたてのボタン肉やモミジ肉を使ってるんですよ。もちろん殺菌済みの」


「だいぶお金もかかりますよね」


「まぁ、ライオンに比べれば多少はマシですけどね」


花神教授がここ最近の彼らの様子について語ってくれる。話を聞く限り、村での保護から上野に来るまでの間、なんらトラブルは無かったようで安心した。


「実は興味深い事実が発覚しましてな」


「というと?」


「このニホンオオカミ、亜種に近い可能性が出てきたんですよ」


「亜種...?モンハンとかのあれですか」


「それです」


ニホンオオカミの生態調査の中で課題に上がっていた疑問点が二つあったという。一つは、今まで確認されてきたニホンオオカミの個体(標本や剥製)に比べ、今回保護したこの個体は体が大きく、体長は大型犬に匹敵するという点。

そしてもう一つは、通常のニホンオオカミに比べ毛の色が黒色に近いという点。


様々な憶測が飛び交う中、最も有力となった説が花神教授が唱えた『亜種説』である。


「ガラパゴス諸島に生息しているガラパゴスゾウガメっていうリクガメがいるんですよ。その子がピンタ島で繁殖したのがピンタゾウガメです。元々は同じ種類だったのに、環境などの様々な要因が重なって姿形、色までが完全に変化した状態...それが亜種です。」


「じゃあ、我が家の裏山は他と違う環境だったということですか」


「恐らくは...ただ考えられるのは、高度経済成長期後の環境汚染によって、気候変動が活発化した影響で、昔よりも冬季の気温が寒くなったのが起因してるのかと...ベルクマンの法則というものがありまして...寒い地域にいる生物は温暖な地域の生物に比べ体長が大きくなる傾向がある...という摩訶不思議な法則です。」


「気候変動の影響で気温が下がったから...それに合わせて大きさが変化したんですか」


「可能性としては十分に有り得ると思います。体毛が黒いのも、寒さが影響してると思います。黒い方が熱吸収がいいですからね、パンダの耳や手が黒いのもそのためです」


「なるほど...」


あくまで憶測ですが、と付け加えた花神教授は急遽かかってきた電話に応対するためその場を立ち去った。


「...お前、亜種だったのか...なんか強そうだな」


腹を満たし眠くなったのか、床に伏せながらウトウトと半目を開けているオオカミを見やる。ここ最近の忙しさも相まって、動物を眺めるつかの間の休息に浸っていると、教授が慌てて戻ってきた。


「さ、笹壁さん...!」


「はい...」


「今、外務省から連絡が来まして...インドから、なんか要請が来てるそうです。私と、笹壁さんに!」


「インド?」


「謎の生物の目撃情報があったと!人型の、それも超巨大な」


どうやらインドにキングコングが出たらしい。




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