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Hell・After・Man  作者: 陸海 空
「この一撃で夜を蹴散らせ」
36/38

異管対第4号-2

「あぁ、これだからこの組織って嫌になるんだ。何で"頭使わない肉体労働ばかり"ってイメージ持たれるのに、上も下もやること成すこと全てに書類仕事がくっついてくるんだ?」


 事務仕事はどのような仕事にも付き物である。製造業から接客業までどのような業態にも書類が存在すれば、当然事務方は必要となるのである。それは、法律や就労規則に文書管理規程、運用要領や協定書によって雁字搦めに縛られる公務員は尚の事であった。

 しかし、軍や警察のような実力組織は当然ながら万年人手不足に募集は定員割れであり、文書管理者を山のように有することや全ての隊員に適格性を付与するなど悪酔いしたあとの妄想以上に非現実的である。

 だからこそ、一歩は1秒を3倍の速さにしたような時計の針に反比例するキーボードの音に肩を落として画面を見つめた。そこにはAPOLLO・15の飛行後報告が記載され、飛行経路から訓練内容が分単位で事細かに記されていたのである。その数十枚分のデータの最後の所見の欄が、一歩を大きく悩ませていたのであった。


「そりゃ、"大いなる力には責任が付く"って言うし、人は例え知識がなくとも"事象に対する説明"を欲しがるもの。なにより、ソウイウ仕事なんだから仕方ないだろ?」


 所見の欄への記入に頭を悩ませる一歩の横で、その元凶であるサブリナが大きく伸びをしながら笑いかけた。その弾ける笑みの理由は訓練とはいえスケジュールや周辺空域の航空交通の多さを忘れて、飛行というものを最大限楽しんだからである。

 サブリナにとって、飛ぶことと戦闘訓練はシラバス(訓練予定)消化を兼ねた体の良い"憂さ晴らし"なのだ。

 そんな彼女の清々しい顔が彼の所見を"希釈"して、サブリナの持論が一歩の心労を"濃縮"してゆくのだった。


「少なくとも、このデジタルな時代に結局紙を刷って持ち回って印鑑印鑑印鑑!全く、アホらしいったら……」

「それが仕事だろ?仕方ない。これで給料貰って生きてるのだから。"働かざる者食うべからず"だ」


 一歩とサブリナの異管対の専従班員としての業務はパトロールや捜査等である。

 しかし、もちろん"過激な"一般市民や"日本語の喋れない"活動家から見えない洋上訓練空域にて行う融合体の戦闘訓練や生身での徒手格闘訓練、その後の報告、捜査報告やパトロール後の警邏報告といった事務仕事の方が量的や負担的には圧倒的に上であり、捜査員達を含めた新宿局は"主力を持って"書類と戦い"余力で"事件解決というチグハグな緊張状態なのであった。

 そのため、パソコンとにらめっこを続ける一歩のストレスはいよいよ限界を迎え、画面上の升目や罫線上で乱れるテニヲハに言葉遣いを修正しつつ悪態をついた。そんな彼へ"空かさず"正論で返し肩を竦めながら"大きな"間隔を空けて打鍵の音を響かせるサブリナは一歩のやる気を失速させたのである。

 そして、一歩はキーボードから手を離すと眼鏡を取りレンズを胸ポケットから取り出したタオルで拭きつつ、軽口しか吐かないサブリナのパソコン画面を覗き込んだのだった。


「隨分と組織や規則に律儀だがサブリナ、仕事終わったのか?」

「いや、全然」

「ほぅ、そりゃまた余裕だな」

「共存ということも大事だと最近学んでな。"この空と命が溢れる大地"は"分け合いたい"訳だし。書類とも、共に生きていけると思うんだ」


 問いかける一歩の眺めるサブリナのノートパソコン画面には、彼のものと同様な書体の訓練後報告が映されている。

 しかし、サブリナの画面は一歩のものと大きく異なり、その大半が空欄なのであった。唯一所見の欄がシートの枠を越えて映らないほどに濃密に記入されていたのである。

 つまり、"書きたいことを書きたいだけ書いた"サブリナとしてはもうこれ以上書くべきことがわからず、筆は完全に止まっていた。そんな彼女に半笑いで瞼を震えさせる一歩は深い溜息と共にぼやいてみせるも、サブリナは笑いながら胸を張り彼へ鼻歌交じりの軽口で返したのであった。


「聞き覚えある"歌"みたいなこと言ってからに……」


 一歩は肩を落としてジト目で睨んでもマウスでカーソルを動かしパソコン画面の報告書を先頭ページから最後へ動かすだけのサブリナに1人呟いた。

 その呟きが一歩のやる気を体の外へ吐き出させると、吸い込んだ気怠が彼の怠惰に火をつけ手に握るマウスのカーソルをログアウトボタンに向かわせたのだった。


「よし、あとは明日作って持ち回ろっと」

「おい、終わったのか!報告書、どうしてそんなに早く書けるんだ!?教えろ、一歩!」


 青く光る画面がログアウトを伝えるのをみることなく、一歩は"二度手間"からの一時的な開放を前に画面を閉じて大きく背伸びした。そんな彼の姿に一転して顔を青くしたサブリナは、席を立とうとする一歩のシャツの袖を掴むと彼の顔を見つめ激しく問いかけたのである。

 サブリナの腕を一歩が払おうとするも、彼女はその腕さえ掴み、遂には逃さんとばかりに肩さえ掴んで彼を椅子へと押し戻そうとしたのだった。


「文才ってやつかな?」

「おいっ、こらぁ!置いてくなぁ!」


 しかし、潤む瞳に赤い顔で至近距離から見つめるサブリナの顔面を前にしても、一歩は頬が引き裂けるかのように笑うと彼女へ掌を伸ばし、その顔面を掴むように払ったのである。

 椅子の上で何度となく回転するサブリナは足を床に擦らせふらつきながらも立ち上がると、一歩の背中に吠えつつパソコンをログアウトしながら身分証を掴み上げ、彼の背中を追いかけたのだった。


「おい、書類は?」

「明日作る!直ぐに間に合わせる!」

「そう言って、いったい何回泣きついてきたか……」


 自身のロッカーから荷物を取り出す一歩の横で、自分同様に荷物を取り出すサブリナに彼は眉を潜めて肩を竦ませた。一方、帰り支度を進めるサブリナは一歩の言葉にも止まることなく鞄を取り出すと扉を締めながらダイヤルキーを荒々しく音を立てながら上下にずらしたのである。


「それじゃあ、お先に失礼します。お疲れ様でした」

「皆、仕事頑張れよ!」

「お前が言うな!」


 乱雑に扱われるダイヤルキーとサブリナの騒音に、一歩は自分達のデスクを眺めつつ明日の朝に繰り広げられる徒手とデータとの格闘を想像しながら赤白札を変えながら、2人は職場を後にしたのだった。

 新宿エルタワーは都庁近くのオフィス街にある高層ビルであり、当然ながら他の階層には別な企業が山のように職場を構えていた。企業もIT系から工業系本社と様々であり、夕方の帰宅ラッシュを迎えるとオフィスは疲れ果てた無数の社員を出入り口から一斉に吐き出したのである。

 流れ出した労働者達は家路に急ごうとエレベーターへ駆け込み、人々を詰め込んだゴンドラは静かに早く地表へ向けて駆け下りた。その"鮨詰め状態の箱の中"で、一歩とサブリナはくの字やへの字に体を曲げつつ人々の濁流を乗り切りなんとか一階の空気を押し潰されかけた肺へと流し込んだ。


「今日は雅美が仕事でいないだろ?飯どうするんだ?」

「どうするも何も、家にあるもので済ませるさ」

「一歩……お前料理できたのか?」


 一階のタイルを踏みしめながら駅へと続く地下道へ向けて足を進める一歩の背中に、捩れた体を伸ばして戻すサブリナが駆け寄って尋ねかけた。その呑気な声に彼はジャケットの財布に視線を落としながら天井を仰ぎ答えたのである。

 僅かに気怠げな一歩の言葉に、サブリナは彼の前へ先回りすると眼鏡の位置を中指で直す彼の顔を見つめて呟いた。その顔は目を細め空いた口からは疑念が滲み出すものであり、サブリナは完全に一歩の虚言と決めつけていた。


「馬鹿にするなよ、イタリアンからフレンチ、メキシカンまで"軽くなら"作れるわ。俺の得意料理は"メカジキのコンフィ·ホテルアドリアーノ風"だぞ?1人分なら楽勝だ」

「言うて"軽く"だし、またハチャメチャな発言だな……んっ?」


 半口空けて見上げるサブリナのオレンジの瞳を睨み返す一歩は、彼女へしたり顔で語って見せると脇をすり抜け先を進んだ。その脇をサブリナが再び歩み寄ると、彼の軽口を反芻しながら鞄を振って一歩の横を着いていった。

 その途中、サブリナは一歩の言った言葉に引っ掛けると、そのフレーズを何どとなく脳裏に流した。


「うちはどうするんだ!」

「好きにすりゃいいだろ?」

「料理なんてできないぞ!」

「料理の1つもできないなんて、女だ何だの前にそもそも"社会人"としてどうだよ?今の世の中、料理スキルは社会人として必須だぞ?」


 そして、自分の夕食のことしか考えない一歩の考えに、サブリナはわざわざ止まって彼の背中に吠えかけた。その声はフロア中に響き渡り、高い天井から反響する声は周りの人々の視線を一点に集めた。

 しかし、直ぐに家路に急ぐ人々は踵を返して2人の横をすり抜けて行く。その中で、一歩のだけは振り返りながら両手を広げ、彼女の赤くなった顔に向けて冷たい言葉をかけたのである。

 一歩の冷水のような突き放す言葉はサブリナの心へガソリンとなって火花を起こし、癇癪という暖機を起こし、彼の"ネジ曲がった"正論はプラグとなって彼女怒りを爆発させたのだった。


「それは偏見だろ!うちに夕飯抜きにしろってのか!コンビニ弁当にしろっていうのか!栄養偏る!金が減る!家賃に雑費も収めてるんだぞ!余裕がないんだ!少しは助けろ!ひどいぞバディだろ!なんで思いやりとかないんだ!普通は助けるもんだろ?違うか、違うのか?違うとは言わせんぞ!助けろ助けろ助けろ助けろ!」


 夕日が西に落ち始めた新宿の街で、サブリナは"大きな子供"となった。地面でのた打ち回らない分だけはまだ正常さを残しているものの、地団駄を踏みながらまるで機関銃の如く己の腹の底の感情を吐き出したのである。その内容は一歩に少なからず同情を抱かせるものであり、一度見つめた懐へもう一度視線を落とさせた。

 一歩は、実現するわけがない"サブリナが諦めて自炊する"という幻想を捨てたいと思いつつ、"幻想を必要と現状を捨てたい"と願ったのだった。


「煩い、煩い!わかったから!そんかわり、そんな高くないところだからな」

「サイゼリヤか?」

「なんだ、嫌か?なら、"かなえ"とか"おかげさま"とかに行くかな?」

「また小道にある居酒屋か。まぁ、近いからいいか」

「名店だらけのいいところだろ、荒木町。"知る人ぞ知る"名店とグルメの町だ。それに、あの店は安いしな。それをまた、贅沢言いやがって」


 だからこそ、一歩は現状を捨てるために自分の懐が厚いままという幻想を捨てた。

 そんな一歩の両手を上げる覚悟の返答を前に、サブリナは地団駄こそ止めるものの口をへの字に曲げながら不貞腐れるように尋ねかけた。その口ぶりに一歩は腕ごと肩を落とすと、回れ右しつつ先へ進み前を向きながら呟いた。

 先を進む一歩の背中と遠ざかる声の速さに、サブリナは赤くなった鼻から怒気を吹き出し切る。その勢いに独り呟くと、彼女は先をゆく彼の背中を再び追いかけ苦言に身を反らしつつ横並びに先へ進んだのである。


「あっ、港君!サブリナさん、ちょっと待って!」


 ようやっと家路への足取りが再び進み始めた2人だったが、その背中に呼びかける声が遠くから響いた。その声は一歩の肩を震わせるると共に、サブリナの足取りを早めさせたのである。

 だが、サブリナの襟首を一歩が掴むと2人はただ力なく肩を落とし振り返った。


「なんですか、貞元さん?」

「今日は日勤で、後は大引き休みだ。急な当直とか無理だぞ!」

「いや、そこまで言わないけどさ」


 短く刈られた襟足を撫でる一歩と頭を抱えるサブリナの目の前に居たのは、貞元の姿だった。彼は2人と同様に帰り支度を完璧にするだけではなく、シワ一つないダンヒルのスーツに輝く革靴というアフターファイブを楽しむ気に溢れるものなのである。

 だからこそ、一歩とサブリナは"飲みに誘う"訳でもない目的語のない呼びかけに身構えた。

 一方で、貞元は2人の棘のある口ぶりに苦笑いを浮かべながら頭を掻いて呟いた。その口が続けて何かを言おうとした瞬間、一歩とサブリナは足に力を込めたのだった。


「ちょっと野暮用引き受けてくれない?人手足りなくて、大久保公園の派出所さんに初動お願いしてるんだ。このままだと面倒になるし、対応済んだらそのまま引いていいからさ」


 "帰り道で仕事を振られる"ということは、社会人として最も避けたい事態である。

 その最悪に職場の最上位者から振られるという事実は一歩とサブリナの足から力を奪った。それでも、踏ん張っていた分、2人はなんとかその場に踏みとどまり、腹に沸き立つ"当直員に回せよ"という他人任せな苛立ちで何とか足の力を取り戻したのであった。


「対応って、なんのです?そもそも、警察が対応するってこと人間が起こした事件ですよね?異管対は干渉出来ないでしょうに。しかもあそこらへんで事件起こすとか、トー横キッズとかってそういうのでしょ?俺、嫌ですよ。あぁいう"イキってる俺かっこいい"って勘違いしてる品性下劣な連中とか、"ホスト狂いの地雷系"とか、不愉快というか」


 貞元が続きを説明する前に、一歩は横を過ぎゆく人々を横目に早口で語った。それは"帰宅妨害"への一時の感情が入り混じりつつも、彼なりの根拠と偏見が混ざりあった持論である。

 一歩から疑念が吹き出すと、貞元は一層苦笑いを強くしたのであった。その笑みに、一歩は彼が押し付けようとする"何か"が法規的に大事だと確信したのであった。


「"トー横"……?ナンジャソリャ?」

「なんていうのかな、"社会から意図的に逸れようとする者達の巣窟"というか、"日本の若者達の闇"というか、"境遇や逆境を前に一度でも自分の力で立ち向かったり葛藤したり努力せず、全て他人のせいにする奴ら"みたいな、なんというか……」

「とりあえず、変なところなのな」


 貞元が口を開いたのに合わせて、首を傾げたサブリナが一歩に尋ねかけた。そのとぼけた表情に彼は僅かながらでも勢いに任せた己の言葉に唇を噛むと、言葉に詰まりつつたどたどしく答えたのである。

 そんな一歩の言葉に、サブリナは頭にハテナを浮かべつつも無理矢理それを飲み込もうとするかの如く頷いて見せた。


「港君、ホント"偏見"強いよね」

「別に、あそこにいる全てのガキンチョを見下す訳じゃないですよ。"何もないのに自分をデカく見せようとする奴"とか"社会を舐めてかかってる奴"が嫌いなだけですよ」

「それ、訓練生時代の君にそのまま言ってあげたら?"訓練嫌だ、勉強嫌だ"で練度試験何回も落とした君が言えるの?」

「すっ、少なくとも!少なくとも職について自分で稼ぎを持っている分、あそこで屯して道を汚して、飲食店の看板倒して通行人に迷惑かけて日本の"負の観光地"を作る奴らよりマシでしたよ」


 2人の会話に吹き出す貞元に、一歩は続けて持論を足踏みしつつ説明した。そこに斜め上を見上げた貞元が呟き彼の瞳を見つめ返すと、一歩は足踏みを止めながら力強く項を掻いて見せたのである。

 その力に反して一歩の口ぶりは力弱く、逃れられない時間外労働を胸の内から吐き出した皮肉の穴に埋め込むと、何度となく頷いて無理矢理に己へ受け入れさせたのである。


「はいはい、わかったから。とりあえず、警察さんが確保したらしい悪魔か亜人の女の子を引き取ったら、足立君達が引き継ぐから、それまで待ってて」

「雑に振るんだな?」

「私は戦ったり自分で動く立場じゃないの。捜査班じゃなく専従班の君達に仕事を振ってる分、雑ではないと思ってるよ」


 一歩の納得を察した貞元はゆっくりと止めていた足を西新宿方向、一歩達と逆に進めながら2人へ肩越しに語りかけた。

 その背中にサブリナは言葉を投げつけた。それに反応した貞元が振り返りつつ、彼なりの持論を語ってみせた。

 サブリナの視線は、不思議と貞元には見下しているように見えたのだった。


「わかりました、わかりましたよ!夕飯のついでに行ってきますよ」

「歌舞伎町で夕飯なのか?」

「焼きそば屋があるんだ。そこでついでに晩酌すれば安上がりさ」

「そんな店があるのか!」


 睨みと穏やかな視線がぶつかり合うサブリナと貞元を前に、急に張り詰めた空気に耐えられなくなった一歩は一番ゴネたにも関わらずサブリナの肩を掴んで引きずりながら新宿駅へ続く地下道へ足を進めた。2人の大きな話し声はしばらく貞元の耳に響き続け、直ぐに人混みへ消え去った。


「良いのかい?あの2人は確実に足立達の"コト"に巻き込まれるよ?新任で紛れない奴はいなかったし」

「だろうね。だからこそ、あの2人はきっと向いてると思うんだ。なにせ、あの2人はノリと勢いだけでここまで来たから」


 日が完全に落ちきらない夕暮れの街は、灯りと人々、車がまだ行き場に迷う騒がしさである。

 その中でも足取り強く歩く貞元に、急に現れたコールマンがまるで元からそこにいたかのように話しかけた。彼女の気配は彼にはまるで感じることができず、貞元はコールマンがどこから現れたのかを探ろうとして瞳を反らした。

 だが、直ぐに無意味だと止めた貞元は足を止めず、ただ僅かに笑ってコールマンに答えたのだった。


「まぁ、私は"あくま"でオブザーバーだからね?」

「責任逃れは出来ないよ。私達は一蓮托生さ」


 貞元に言葉遊びで答えるコールマンに、彼は横目で彼女を見つめながらはにかみ続けた。


「これが、俺のやり口だけど……あぁ睨まれるとな……」


 しかし、貞元の脳裏にサブリナの瞳が過るとその笑みは僅かに歪み、彼女の姿が彼には少しずつ別なものに見え始めた。煤と硝煙に塗れ、青い迷彩のアチコチを溶かし破かせた男に変わる脳裏の姿は彼女同様に猜疑の炎が僅かに揺れていたが、それ以上に虚が黒く己を覗いていたのである。

 そのイメージを払うように頭を振った貞元は、一瞬見えた廃都市に目頭を押さえてマッサージしたのだった。


「ほんと、神にでも祈りたいよ……」

「"神は死んだ"けど、美人が愚地くらい聞いてあげるよ。お布施は酒代ってところで」


 独り頭を抱える貞元をコールマンが引きずり、2人は飲み屋へ消え去った。

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