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Hell・After・Man  作者: 陸海 空
「輝け!異管対新宿局」
34/38

異管対報告第3号-14」

 明かりの疎らに消えたビルを赤色灯が鮮やかに照らし、無数のサイレンが暗い夜空で唸りを上げるヘリコプター達に吠える中で新宿局員は事件の終結を前に交戦跡やオノプリエンコ確保の現場検証を行っていた。

 ただ、眉をひそめ青い顔を浮かべる2人を除いて。


「これだから異管対ってのは、やり方がめちゃくちゃなんだよ!こっちの市民の避難誘導とか考えたことないの!えぇ、新宿局の局長さんよ!」


 新宿三丁目から東新宿までに渡る新宿局専従班とオノプリエンコの激闘は、当然ながら警察へ市民からの通報を殺到させた。そこに所轄の警察署から人員が派出されるも、銃撃や派手な剣戟はSNSで即座に拡散されたことで報道ヘリや記者達が怒涛のように現場へ押し掛けたのである。

 現場から避難する市民とその前を遮るどころか車両さえ引き連れ逆走しようとする報道陣は警察の制止も虚しく激しく激突した。

 その結果、現場の人的被害はないながら"遥か外"の公道では強引に押し退けられて将棋倒しとなった市民の負傷者と規制を振り切ろうとするマスコミを止めようとした警官たちの救護所ができる始末であった。

 だからこそ、貞元とコールマンの前に立つトレンチコートをまとった老練を思わせるシワとシミを蓄えた刑事は、その茶コケた肌を血行と額の流血で真っ赤にしながら怒鳴りつけたのである。咳混じにパトカーの窓さえ揺らすと思えるその声は怒号よりも悲痛な叫びにさえ聞こえ、彼の額に押し付けられた右手の白いハンカチが血に濡れゆくのを見ると貞元は襟足を撫でつつ苦々しく笑った。


「そういったのもは異管対本部と異管合……地球連合異界管理統合局へお願いします」

「そういうことだよ、警察諸君」


 "どうにもならないことさえどうにかできる"上位組織の名前を出すという手段を眉を下げ気弱く笑いながら口にする貞元がスーツに付けていた異管対のバッジを軽く撫でながら見せつけると、刑事の男は歩み寄ってきた部下の女刑事にハンカチを投げ渡した。そのまま彼は貞元の隣に立つコールマンを睨みつけたが、むしろ彼女は胸を張り刑事の男を見下すように言い放ったのである。

 そんなコールマンの一言は刑事の男の額の傷から血を吹き出させ、彼は彼女の胸ぐらへ古い血が付いて固まった左手を伸ばした。

 だが、刑事の腕は続々と側にやってくる他の刑事たちに抑え込まれ、コールマンとの間に貞元が立つと彼の手は宙を掴むだけだった。ただ、刑事の手から弾けた血の破片はコールマンのシャツの胸元に付き、彼女は口端を下げると慌ててその欠片を汚物のように払った。

 

「あんたら、ことの重大さが判ってるのか!数ヶ月前にあれだけ暴れておいて、街も人の被害も考えず直ぐにこんなことを!」


 刑事の男は激怒した。

 眼の前に立つ自身の組織と自分のことしか考えず無関係ながら被害を被る者達を意に介さない"傲慢"さは警察組織の1人として正さなければならないと決意したからである。


「それは抵抗する犯人に言ってくれ。何より、君たち警察官がもっとしっかり街の治安を守っていれば、本来の"警察からの依頼出動"で活動が出来るんだ。"人だけ"なら圧倒的にそちらが多いだろ?」


 しかし、そんな刑事の男の覚悟の熱はコールマンの冷めた視線に凍りつき、冷やかすような彼女の正論は彼の思いを吹雪のように吹き飛ばしたのである。

 そして、刑事の男はコールマンの冷たい笑みの前に足を震わせた身をよろけさせると、彼は同僚や部下に肩を抱かれながら下がっていった。


「このことはしっかり上に報告しますからね!」


 それでも、部下の女刑事は上司の震える背中に手を乗せると、振り向きざまに貞元とコールマンへ吐き捨てながら制服の警官達の元へと去っていった。

 その女刑事の刃物のようにさえ思える視線に胸を擦る貞元は、威圧するような態度を見せるコールマンを手招きすると現場へと足を向けたのである。


「しかし、とんだ歓迎会になったものだ」

「だが、この程度の損失で異管合のレッドリスト国際指名手配犯が確保出来るんだ。良いほうだろ。それに……」

「それに?」


 新宿局だけではなく周辺支局からも派遣された異管対の鑑識や捜査員の間をくぐり抜けつつビルの瓦礫や砕けたアスファルトを大股で越える貞元とコールマンは辺を見回した。そこには数時間前までは新大久保に至る道路やホテル、道路に至るまでが巨大な亀裂に窪みや引っ掻き傷だらけとなっいた。おおよそ無事なビル上の看板も少なく、辛うじてパセラのハニトーが描かれた看板が残っている程度である。

 肩を落としつつ首を回して呟く貞元は現場追跡で走り続け汗と脂の付いた青い顔をハンカチで拭った。その疲れ顔にコールマンは肩を鳴らして上気する顔を輝かせて彼の耳元で囁くと、頭にハテナを浮かべる貞元の横を指さした。


「Дерьмо! Дерьмо! Не трогай его грязными руками, низшая раса! Я избранный советский народ!《糞がぁ!糞がぁ!汚い手で触るな、劣等人種が!私は選ばれたるソビエトの民だぞぉ!!》」

「鎮静剤、もっと打ちます?」

「バカ、怪人とはいえど人間だ。許容量以上打てば危険だ」

「でも煩いですよ」


 そこには全身血塗れで半身を赤黒く焦がすオノプリエンコが担架に拘束された状態でのた打ち回っていた。その釣り上げられたマグロのような彼を救急隊員の男2人が持ち上げたが、オノプリエンコが暴れる度にまき散らす体液にマスクやゴーグル越しでも判るほどに顔をしかめ軽口と共に走り去っていったのである。

 その後ろ姿はコールマンの顔に満面の笑みを浮かべさせ、貞元はその笑みに背筋を凍らせた。


「だいぶグロテスクだが生きている」

「怪人なら、数ヶ月で全快だろ。密売ルートに製造プラントの検挙付きだしな」

「時価5億円相当の違法霊薬密造プラントとなれば、大手柄だ」


 自分の直ぐ側で絵画のような美人が笑うことを貞元は良く思える思考がある。

 だが、コールマンの名画のような笑みに浮かぶ鋭いとも冷たい、纏わりつくともいえる独特な視線は貞元に一瞬言葉を詰まらせなんとか会話を続ける程度にさせたのだった。


「"ワガママ"な国民からは叩かれるだろうが……」


 だからこそ、貞本は自分にさえ纏わりつきそうな冷気のような嫌な感覚を前に無理矢理話題を変えつつコールマンから距離を取ろうとしたのである。

 貞本の視線や顎で差す先には、この世の地獄が広がっていた。


「ご覧ください!再び異管対は逃亡する犯人と交戦状態となったのです!街は……」

「……でして、目撃者の証言によると大きなドラゴンのようなものが"住宅街を低空飛行"して、犯人にドロップキックをするも"外した"などと……」

「異管対は過激な取り締まりは市民の生活にも危険を及ぼし……」


 警察の規制線や避難誘導を無視したテレビ局やカメラマンはいつしか現場とその外を隔てる三角コーンの直ぐ側まで歩み寄っていた。そして、"我が物顔"に"当然の権利"という口調でスマートフォンの原稿とレンズ向こうを行ったり来たりするアナウンサーは声に熱を込めて"画面の向こう側だけ盛り上がる"ように中継をするのである。

 貞元は少し前の刑事の男と被害報告を思い出し、アナウンサーから聞こえる原稿との乖離に肩を竦めると彼女達から目を離し近くの歪んた側溝へ唾を吐いた。

 貞元もマスコミの報道は大して信じていなかった。


「明日の朝刊、ネットのニュース記事が荒れるな」

「まぁ、国民は"1週間後の大宴会より明日の清貧"、"明日の危機より今の安全"だからな」

「とはいえど、これで新宿局は"全盛期"とは言わないまでも戦力を取り戻しつつあるわけだ!」

「そう……だな」


 必死に原稿を読み上げるアナウンサーや画角を気にするカメラマン、慌ててやってきた捜査員を押し退けようとして拘束されるディレクター達を眺めるコールマンはただ冷たく彼等を眺めて呟き、貞元もそれに続いた。

 そして、2人はさらに先へ進み、現場検証をする本部テントへとさらに進んだ。


「これからはビシバシ検挙して他の局と張り合いをもたせつつ、より一層に活躍して人を集めてもらわないと!輝け異管対新宿局!我らの未来はまだまだ困難ばかりだ!ハハハ!」

「で、本心は?」

「これで私も本部に戻る"出世ルート"が見えてきたってところさ」


 そして、ひとしきり話して笑いあった貞元とコールマンはテント入口で大きく息を吸うと、落ちていた肩を上げて胸を張り、笑みを押し殺して薄暗い入口へと吸い込まれていったのだった。


「この亡命が終わったら、農家への就職を希望しよっと……」


 そんな激務の絶望が溢れるテントの隣で、ヴァシムは捜査員の渡す書類にサインを書き続けていた。

 まるで授業を受ける学生のように真っ直ぐに狭いスペースで背筋を正すヴァシムは亡命の為に山積みにされる書類の最後の1枚へ名前を書き切り一言呟きながら眠気に手を引かれながら夢の中へと飛び込んだ。薄れゆく意識の間で青い空に流れる白い雲の下で青々とした畑へと還る彼は、幸せであった。

早く帰りたい一歩とサブリナが保護させられた少女、サリア

彼女を傷付けたブラック・バタフライの目的とは何か?

足立とエリアーシュの正義の刃が煌めく!

次回、Hell・After・Man『この一撃で夜を蹴散らせ』お楽しみに

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