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怠惰なるモノ、世界に降り立つ

誰しもが幸福を実感する世界よりもまあまあ上の。けれど、天井には少し届かない。そんな場所。

天界という括りではあるが、名前の無いここに敢えて名前を付けるのならば〈停滞と休息の領域〉とそれっぽく呼ばせて頂きましょうかね。

何が停滞なのか、知らんけどな。

俺はここで休息を取っている。人の感覚で言うと千年程度だろう。

取り過ぎ?足りませんけど。

皆頑張り過ぎだって。余裕も足りてませんね。

しかし最近、こんな場所に謙虚で真面目で頑張り屋な人たちが偵察に来ているという噂があった。そして、ここの先輩に寄れば何やら俺に関しての情報を聞いて回っているとの事。

これ程悲しい噂は無い。

まさか、怠惰・・・・・・じゃなかった。休憩中の俺を労働させようと考えている訳では無かろうな。

とか言って、別に良いんだけどね。皆の頑張りを見て俺も努力する気になってるし。でもあと百年くらい良いじゃん。前世での疲労がまだ残ってんだから。

「な-」

「はい」

「最近調子どう?」

なんだそのそんなに仲の良くない友達に久しぶり会った会話の切り口。

千年くらい毎日喋っていれば逆にこうなるのか?・・・・・・逆にって何だ。

「調子良いっすね」

様々な色のふかふかクッションに囲まれながら、幸せそうにボーッと寝転がっている俺がどう考えても調子を崩している訳がない。

「先輩もどうすか」

「良いに決まってるぜ」

おお、寝転ぶ俺の視界からグッジョブが見える。

俺と同じ態勢の奴に聞き返す事じゃなかった。

毎日毎日同じ空間で似たようなやり取りをしている相手は俺と一番親しい感覚にある先輩だ。

先輩曰く、ここは沼だぜ。俺なんてもうすぐに二千年記念日。盛大に祝ってくれや!俺、その日はめっちゃ怠惰に過ごすんだ!とのこと。

働けや。って、どう考えても祝うもんじゃねえし、いつもと変わらない日常じゃねえか。

幸せか?

「あ、そういえばさぁ」

「どうしたんすか-」

思い出したかのように話し出す先輩の話を聞こうと声のする方を向いたが、クッションが邪魔で何も見えなかった。

「上で天使さん達が集まって話したんだけどねぇ」

「はい」

「寝転がったまま見ようか」

「最高」

先輩は天使さん会議の様子を天井にそのまま映し出す。

イチゴの生クリームの様な淡いピンクとも赤とも捉えられるメルヘンチックな空にいくつも浮遊する綿菓子のような雲。

その中の一つ。どでかいそれはもう可愛い雲に、ローテーブルとそれはそれはふわふわな座椅子が8脚が置いてある。

そしてそこに八つの魂が居た。

すんごいくつろいでるわ。厳しい面持ちなんて程遠いくらいゆったりまったりと。

「それで、どーする?」

「あー、あの神のギフトがどうのこうの、なんのそのっていう」

「僕らなんかしたっけ?????」

「私達は関係ないわ。どこかの誰かさんの陰謀よ?」

「誰なんだろうね」

「それよりも問題は化物でもないのに化物呼ばわりされる子達が肩身狭くして、精神不安定で生かされている事だ」

「でも現実では力が物を言っているのね。あっちの世界ではそれが固定概念になっているから、あの子達の得意である精神での考察や言葉が否定され、間違いだとされているのね。自分の考えが社会に否定される世の中なのね」

天使さん達はどこかにある世界の現状について語っているようだ。

その態度で真剣に話し合いできる天使さん流石だわ。

「どする?」

「まあ、偵察と守護を兼ねて誰かに任せるのも手かもしれないわね」

「手、と言えば休息の領域に空いた子居なかったっけ?」

まずい。手空いてるわ。

「大々的にじゃなくひっそりと上手く世の中に溶け込めるよ子よね」

「そうだね、目立たないように少しずつ世界の常識を変えられるような」

うんうん。当てはまるなぁ。

「いたいた!」

「二千年の休息を得ている子!」

先輩ぃぃいいいいい!!!!


「先輩」

「はい?」

「いったん、映像止めて貰って良いっすか」

「うん」

天井には天使達が変な顔で一時停止されている。

おもろ。

笑ってる場合じゃねえって。

「先輩」

「何?」

「白羽の矢が立っているのって先輩じゃ無い?」

「そうだよ」

「俺はどこから現れたの?」

「まあまあ、続きを見てみなよ」

「それで分かるの?」

「うん」

この後に一悶着でもあったのだろうか。

面白い静止画が動き出してしまったのは少し残念だ。


「連れてきたよ」

早。止めてゼロ秒でかよ。

「この子で良いよね!」

「「「「「「「異議なし!」」」」」」」」

「何のご用でしょうか?」

先輩白々しっ。

「君さ、この世界に行ってくれないかな?」

机の上に広げられている和紙の中に宇宙が広がっている。

天使さんはその和紙の中にある宇宙を親指と人差し指で拡大し、一つの惑星に指を差した。

すると指を差した辺りから『地球』と文字が浮かび上がる。

「えー?ここですかぁ?」

天使さんを見ながら和紙を貫通し、机を貫通し、雲を貫通した場所を指した先輩。どうやら現実は見えていないようだ。

「うん、それは君の巣だね。違うよ、ここ、ここ」

しっかり指が地図に乗っている。

「あー、この世界ですか。どうかしたんですか?」

馬鹿を演じるのは辞めたようだ。

うん、それは正解だ。だっておもんないもん。

「君にね?皆の成長と、変化、経過の見届け、肩身の狭い子達の守護をして欲しくてさ」

「そう、ですか-」

明らかに肩を落とす先輩。帰りたい、休みたい、お布団と添い寝したい、と相変わらず内心は怠け者であった。

「あ」

「どうしたんだい」

先輩が何か思いついた時は大抵良からぬ方向へと物事が進むのは、皆さんご存じの通り。

しかし、天使さん達はそんなことを知らない。更に、純粋故に疑う余地も無い為、興味心身に先輩の意見を聞く。

「とてもやる気のある後輩がいてですね」

「ほう!それは是非ともお話を!」

「もちろんです!」

弾む声。


「はい、とめてぇ」

「ん?」

「止めてぇ」

急いで先輩に映像を止めて貰った。

「なあ、先輩。おい、先輩。どう見たらこの俺のヤル気を感じられるんだい」

「えぇ?いやぁ!ヤル気…あると思ったんだけどなぁあ!!おかしいなぁ!」

こいつ、やってやがる。

「くっ、他の魂よりも自分が上か!」

「今はまだ休息中なの!傷が癒えたら働くって!」

何年経ったと思っているんだ。

「まあ、良いですけどね」

先程言った通り俺は乗り気である。まだまだ休みたい気持ちは無きにしも非ず。だが、傷はまあ癒えているし、動けるのなら、下の子達を救いたいという気持ちも強くあるからな。

「しかし先輩」

「なんだよ。まだ文句か」

「俺が先輩よりも天井に近づいたとしても、文句は言わないでくださいね?」

「・・・・・・それどういう意味?」

意気揚々としていた先輩が少し深刻に真剣になった。

「君が後輩になると言うことだよ、はーはっはっはっはー」

「えぇ?笑い方悪役っぽ。ねえ、本当にどういう意味?」

「君が低脳というわけだ」

「急にめっちゃ嫌な奴じゃん」

「ま、冗談はさておき、続き見ましょうよ」

「ちょ、ちょま!?気になるって!」

目先のクッションが動いている。俺の言っている事が気になってこちらに寄ってきているのか先輩。

「お、丁度良いタイミングだった!?」

珍しく行動力あるじゃん。五メートル進むなんて先輩、偉業だよ。と思っていたら全くの別人だった。

いや、顔近。がち恋距離超えて、千年の恋も冷めそうだよ逆に。

「天使さんじゃないですか」

「そうだよ!」

うるさっ!

唐突などアップに震えた。天使さんがその距離を保ったまま話し出すのには更に震えた。

「どうされました」

「行くよ!」

「え?」

「今から!行くよ!君のヤル気が凄いって聞いてさ!」

続きの映像は必要ない、と。いやいや、待って。

手を差し伸べ満面の笑みで連れ出そうとする天使さんの行動が理解できない。

「・・・・・・今?今って何ですか?」

「今は今だよ!」

「あと十年欲しいです!」

急過ぎる。クッションとの唐突なお別れに涙が出そうだ。

「十年もあったら世界は大幅に変わっちゃう。だから今だよ!」

「今!!!!!」

「そう今!」

本当に余裕は無い様だ。余裕が足らないとか言ってごめんなさい。

「・・・・・・一年!!」

「ううん!今だよ!」

どうしても・・・・・・無い・・・・・・様、だ・・・・・・。

「はい!行きます!」

覚悟を決め、勢いよく手を上げてやった。これで満足か先輩!

「おっけ!良い覚悟だよ!じゃ!!!!」

じゃ・・・・・・?

さようならの、じゃ?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・ん?」

クッションとも先輩とも別れの挨拶はなし。唐突な決別を迎えた、今日。

ここはどこ。何ここ。天使さん。

ふと気づけば、目の前は海。後ろはきれいな砂浜と岩肌の絶壁。周りを見渡しても天使さんが天空に上っていく姿が見えるだけ。

うん?天使さん?

説明は?現状は?状況は?フォローは?

「なぁ」

声を発してもザザーと海が寄ってくるだけ。

「なあて」

何で無人島サバイバルやらなきゃいけねえんだよ。

「急ッッッッッッッッ!!」

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