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魔王によって彩る世界  作者: 伊草 推
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第5節 ~解氷~

 だいぶ日も落ち、オレンジ色の空も暗くなりつつなった頃にもなると大体の料理が完成したように見える。

 調味料が発達してためか、素材以外の良い匂いがするといったことはなかった。

 強いて言えば、肉が焼けた匂いに多少の獣臭さを感じ多少抵抗を感じる。

 だが、肉の匂いというだけで腹の減りが加速し、例え人間が食すようなものではなかったとしても楽しめそうな気がし始めた。

「料理が完成したよ。」

 洞窟に声をかけると中からはここに住んでいるであろうゴブリン全員が出てきた。

 パッとは数えきれないが三十匹以上いるのは間違いない。

 少し離れた位置に、食器が並べられ、さっき遊んでいた子供たちですら配膳の手伝いをしている。

 配膳が終わるころ、あの偉そうなゴブリンが洞窟から出てきて食事が行き渡ったことを確認し、手を合わせる。

「恵みをくれた自然と、命を落としてもなお、我らの血肉になる野生の動物に感謝をささげるように。」

「はい。感謝します。」

 これはきっと食前の儀式なんだろう。「はい。感謝します。」と他の奴が言うと一拍置いた後、皆食事を食べ始めた。

 因みに、俺の前には未だ食事も食器も来ていない。

 皆が美味しそうに食べているのを横目に、お腹が空いているのに食べ物にあり付けないというのは悲しさを感じる。

 食事の挨拶を終えると、この村に着いたときに話した偉そうなゴブリンが近づいてくる。

 それを見たゴブリンたちは食事をしながらこちらを注視する。

「気になっているとは思うが、この中人は、我らの言葉を話すことのできる今まで出会ったことのない中人だ。まだまだ分からないことも多く、警戒も必要であるが話したいものがいるなら話しかけるように。」

 その言葉を聞いたゴブリンたちは拍手し、歓迎してもらえたのかもしれない。

「それとこの中人にも、食事を分けてあげなさい。」

 そういうと、俺の分の食器と料理が配膳された。やはり警戒されている以上、偉い人の許可が必要なのだろう。

「これ、もう食べても?」

「本当に俺らと同じ言葉をしゃべってるぞ。」

「こんな不思議なこともあるもんだな。」

 一言喋っただけで、ゴブリンたちは湧いた。

「あぁもちろん。」

「はい。感謝します。」

 許可を得た後に、一応儀式の言葉の真似をし、遠慮なくゴブリンの作った料理を食べる。

「美味しいか?」

「はい、おいしいです。」

 正直な味の感想を言えば、淡白で素材そのものといった味で調味料の味に慣れてしまった舌では全く物足りなかった。だが、これ以外に言う言葉はない。

 それを聞くと嬉しそうに、そうかそうかと頷き、遠くにいるゴブリンたちの雰囲気も良くなったように見える。

「私も聞きたいことはいくつもある。あそこに行って一緒に食べようじゃないか。」

「わかりました。そうします。」

 偉そうなゴブリンは、自分の席を指さし提案した。当然、断れるはずもなく、ゴブリンたちの衆目を集める位置に呼び出され、偉そうなゴブリンの真隣に座った。

「まずはお前の名前は何だ?」

「大友修弥と言います。シュウヤとお呼びください。因みにあなたのお名前を聞いてもよろしいでしょうか。」

「そうか名乗ってなかったか。私の名前はリビンだ。この村の村長をやっている。そして隣のこいつはマクそしてその隣にいる奴はレシ、続けて言うとその次がチロンで・・・」

 このままでは四、五十匹はいるであろう村の全員を一気に紹介されかねない。

「すみません。リビン村長。一気に言われても覚えられませんので、ごめんなさい。」

「そうだったな、徐々に慣れると良い。」

「じゃあ次の質問だ。なぜお前は我らの言葉が話せるんだ。中人には中人だけの言葉があるだろう。なぜその言葉を話さない。」

 流れるように次の質問に移ったが、村の入口でも聞いたが、中人とは何なのだろうか。

 今は、対話の時間。さっき誤魔化した手前、少し失礼ではあるが聞いても問題ないだろう。

「すみません、先に一つ聞いても良いですか。」

「なんだいって言みろ。」

「中人というのは何なのでしょうか。」

「お前、中人も知らないのか・・・」

「中人はお前らのような身長が少し高い人種のことを言うんだ。」

 我々人間が、ゴブリンたちにとっては中人という分類なのだな。理解した。だが、そこで疑問が一つ浮かぶ。

「なるほど、因みにリビン村長たちはどのような人種に分類されてるんですか?」

「私たちは、小人だ。他にも巨人や狼人、魚人などの人種も存在している。」

 この世界では、人という種類の中の中人、小人、巨人、狼人、魚人ということか。つまり、ゴブリンは人であるということだな。

「いったい何種類いるか御存知ですか?」

「この中で知ってる奴はいるか?」

 周りを見渡すと、半分が首を横に振り、半分がそんなこと考えたこともなかったとポカンとしている。

「この中で一番冒険してるのは村長ですし、村長以上の知識がある人はいませんよ。」

「それもそうだな。実は俺もどれだけの人種がいるかは知らないんだ。すまんな。それにしても、自分が中人であることも知らんとはな。中人はこんなことも教えないのか。ん?でもお前はこの村に入るときお前は自分で中人だといっただろ。」

「そうでしたね。ごめんなさい。あの時は緊張と焦りで、早く返事をすることに集中してたので・・・それに、あそこで疑問を投げかけたら殺されると思いましたし・・・」

 あの時、思っていたことをそのまま伝えた。

 それを聞いたリビンは少し怒り気味になりこういった。

「話が通じる上に、全く戦意の無い無防備な相手を殺すわけないじゃないか。我らは蛮族ではないぞ。」

 これは不味いと思い咄嗟に「すみません」と謝る。

 謝るだけではなく、理由もしっかり説明しなくては。

「言い訳をすると、既に最初に出会った二人に先制攻撃もされてますし、短剣もこちらに向けられてたので・・・それにリビン村長のような偉い人の前で変な言動をしたら不敬罪で殺されると思ったんです。本当にすみません。」

「確かに、そんな状況に置かれてたらそうなるかもしれないな。こちらも謝らせてくれ。あの二人も殺されると思って必死にやってたんだ。許してほしい。」

「いえいえ、結果的には今もこうして食事をさせて頂いてるんですから問題ありませんよ。」

 このゴブリン・・・小人たちは非常に話が分かる。

 ここまでの短い時間で痛感させられた。話のわからない現代人の何倍も良い。

 それに、今まで廻ってきた世界でもゴブリンに出会ったことはあるが、攻撃的で野蛮な印象が強くあった。だから今の状況が何かの夢なんじゃないかとも疑いたくなる。

 だから今回は大当たりを引いたと言っても過言ではないのかもしれない。

「それでは話を戻しますと、中人の言葉を話さない理由は、聞き取れないからです。他の中人は、私が知っている言語とは違う言語を話しているんです。」

「じゃあお前は今までどうやって生きてきたんだ?どっか遠くの国から来たのか?それとも山の部落出身で中人の言葉を使ってなかったということか?」

「いや、それが、実は、信じてもらえないかもしれませんが私は他の世界から来たんです。」

 話が分かることを見込んで、理解してもらえるかは賭けだが自分の置かれている状況を告白した。

「ほう。それで。」

 だが、返答は空を切るようで感触がなかった。

「あ、って言ってもそれ以上言うことはないのですが。」

「他の世界というのはどういうことだ?とてつもなく遠い国から来たというのとどう違うのだ?どうやってこの地に来たかぐらいは覚えているだろう。」

 思いもよらないような質問が来た、世界とは何か。何と答えればいいかわからない。

「そういうことではないんです。なんと説明すればいいでしょうか。私のいた国はここには存在していないのです。どんなに探し回っても、絶対に見つからないのです。」

「ほうほう。聞きたいことはあるが、後にしよう。お前は、どういう経緯でここに辿り着いたんだ?」

 納得してくれたのか、次の話題に移してくれたので、今まで起こったことの概要だけを喋った。

「まずは森で目を覚まし、人・・・中人がいるところを目指して歩きました。目覚めた場所から適当に歩くと林道があって、その林道に沿って歩くと村に到着。そして、村に入り住民たちの話声を聞いたのですが理解できなかったのです。それでも、旅を送るのに必須な食料や武器をジェスチャーで入手し、村を出てしばらく歩いた所で聞き馴染みのある声が聞こえ追いかけたらここに。」

「なるほど。シュウヤがここに来るまでの流れは概ねわかった。だが、いくつか質問をさせてもらう。まず一つ目は森で目を覚ましたというが、それ以前の記憶、森に着くまでの記憶はないのか?」

 確かに、いきなり森で放置されていました、と言っても信じてもらう方が難しい。

「ないです。全く違う場所から来たので。以前居た世界の記憶ならあるんですがね。」

「また世界か。さっぱり理解できないが保留だ。では、二つ目の質問だ。村に入った後、お前はどうやって食料と武器を手に入れたんだ?中人たちは紋章と数字の付いた金属で取引を行っているのだろ。」

「起きた時に、紋章と数字の付いた金属・・・通貨を既に持っていたんです。それに、村にある文字は読めなかったんですけど、数字は読めたので何とかを購入できました。」

 何とも不思議そうな顔をしているものの、世界の説明よりかは納得いただけたらしい。

「これはお前に対する質問じゃないが、その通貨とやらでなぜ物の交換ができるんだ?物と物を交換したほうが確かなんじゃないのか?」

「えーっと。通貨は、物と物の交換以外でも取引ができるよう金属に共通の価値を持たせて色々なものと交換できるように作られたものなんです。」

 そして、袋から通貨を取り出し、見せて説明をする。

「通貨の価値は、こんな感じに数字が大きくなればなるほどに価値を増します。だから、時によっては物よりも通貨を後生大事に抱えるわけです。」

 仕組みを説明すると、不思議がりながらも多くの人が頷いてくれた。

 すると、一人が手を挙げて質問を飛ばす。

「生活で役に立たない数字付きの金属片の方が食料や剣よりも価値があるって本当なのか?特に剣を作りにはその金属片が数百枚は必要だと思うんだが・・・」

 意外にも真面目な質問が飛んできた。

 数字の付いた金属片と剣だったら剣の方が高価に見えるのは不思議じゃない。

 できる限り、納得してもらえるような説明をしなくては。

「言いたいこともわかります。この通貨で物と交換できる理由は、皆がこの金属片に価値があると共有してるから成り立つんです。だから別の国では使えないし、緊急時には通貨よりも食料の方が価値を持つこともあります。」

「そうか・・・なんだか不便そうだな。」

 通貨の有用性をイマイチ納得してもらえなかったが、自分の知識だとこれ以上の説得できるネタがなかったのが少し悔しかった。

 そして少し気まずい間が流れると、もう一人手を挙げた。

「通貨があれば言葉が通じなくても、欲しいものが手に入ったんだよね。でも、喋り掛けられることもあったでしょ?基本的に無視したってこと?」

「いや、流石に無視するのは反感を買っちゃうと思ったから丁度いいタイミングを見計らって頷きました。そしたら特に何もなく切り抜けることができました。」

 その話をすると、周りがみな笑い出し、リビンも爆笑している。

「ははは。相手が何と言っているかわからないけど頷くだけで切り抜けたのか。それは傑作だな。酒だ。酒を持ってこい。こんな面白い話を聞いて飲まないのは勿体ない。」

 そういうと、何人かが笑いながら洞窟の中へと酒を取り入った。

 リビンは大笑いしていたもののいち早く、立ち直り、質問を続けた。

「それじゃあ、俺からの最後の質問だ。お前は「国が存在せず、探しても絶対にない」と言ったな。だが、話を聞いた限りお前の行動範囲は『目覚めた場所から中人の村まで』と『中人の村からこの村まで』の半日も掛からない範囲でしかないはずだ。それなのになぜ、絶対に存在しないと言い切れるのだ?」

 確かに、絶対に存在していないとは言い切れない。ここが旧人類の慣れの果てで、タイムリープしてきた可能性もある。

 けれども、幾数十回と死んできたからこそ、この世界に元の世界が存在していないと直感で感じ取れる。

 ただ、言語化するのは難しく、見ていないのだからと言われたら真っ向から反論はできない。

「それを言われると、反論し難いですね。世界というものを理解してもらえれば、存在しないということが理解してもらえると思うのですが・・・」

「そうか。なら仕方ないな。」

 言葉を濁すと、納得はなくとも諦めてくれた。最後の質問なのに濁してしまって申し訳ない。

 このまま世界というものを曖昧にするのも良くないと感じ、何か世界をうまく説明できるものはないかと頭を回転させた。

「そうだ、世界というものをもう一度、説明してみたいと思います。」

 そう言うと皆、興味を持ってくれた。

「実は私の世界には魔法というものが確認されてないんです。あの二人から聞きました。この世界には、魔法が存在するんですよね。」

「魔法はある。うちにも魔法を使える奴はいるしな。あそこにいるあいつは魔法を使える優秀な奴だ。だが、魔法がない国から来ただけなんじゃないのか?」

「違うんです。その世界はどこを巡っても魔法なんて存在しないんです。有ったとしても、こちらの魔法とは違い呪術とかおまじないといった類に近いもので直接的に目に見える魔法は確認されてないのです。」

 そんなこともあるのかと、ざわついた。そんな不便な中で生活が送れるのかと。

 そして最後にこの世界と自分のいた世界の決定的な違いを公にする。

「それに私の世界では、あなたたち小人は確認されていません。それに教えていただいた、狼人や魚人などの存在も確認されていないのです。」

 これを打ち明けると魔法がないといったときの数倍ざわついた。みな、自分たち小人がいないということに驚きを隠せないようだ。リビンも同じく驚きを隠せていなかった。

「そうなのか⁉それは恐ろしいというか何というか不思議だな。それに魔法もないなんて考えられない・・・」

 そして周りが静かになった後、悩む様な表情を浮かべていたリビンは再び喋り始めた。

「世界ってものが、表現はできないが何となく理解はできた。お前は本当に違う世界とやらから来たのかもしれないな。」

「何となくでも、理解していただけてありがたいです。」

 頭を下げ、一通りの説明は済んだとホッとした。

 話も大方終わったし、そろそろ酒が来る頃なんじゃないかと斜め後ろを見ると、酒樽を持って凄く気まずそうに立っていた。

 リビンもそれに気づき手招きをした。

「おぉお前ら遅かったじゃないか。早くついでくれ。」

 恐らく、あの重い話の中、待たされていたことを知らないリビンは無邪気にそういうと酒の配給が始まった。

「お前も一杯どうだ?」

「それじゃあいただきます。」

 当然断れるわけもなく、酒を飲んだ。

 飲んだ酒は、おそらく果実酒でワインのような味がした。

「このお酒はどこで手に入れたんですか?」

「輸送途中だった中人の馬車が事故にあったらしくてな。商人自体も息がなかったから酒樽や食料をいただいた。ここにある鍋もその時貰ったものがいくつかあるな。」

 正直意外だった。村や商人を襲いものを強奪するのがゴブリンのやり方だと思っていた。

 世界ごとによって気質が違うのはもちろんだが、ここまで悪事らしい悪事を働いていいのは珍しいんじゃないだろうか。

 何にしても、悪事で手に入れたものではないなら、気兼ねなく飲める。

 バッグから干し肉を出し、飲める奴全員で飲んで楽しんだ。

 そこからは村で買い物をした話やゴブリンたちの間で最近話題の話など、他愛ない話をして時間を潰した。

 二時間ほど経つと皆酔っ払い、帰巣本能を発揮するかのように肩を落としながら洞窟の中に入っていった。

 酔っ払っているのはリビンも例外ではなかった。

 リビンも皆と同じように洞窟に行くのかと思ったとき、振り向いてこう言った。

「俺はお前を認めた。お前が洞窟の中に入ることを許可する。俺らの仲間なんだから遠慮はするなよ。」

 そう言い残して中に入っていった。

 村長というだけあり、自分を律する力を持っているということなのかもしれない。

 とはいえ、無事に?と言っていいのかはわからないが、村長には認めてもらえた。

 でも最低限の生存権は確保されたのかもしれない。

 緊張はほとんど解けていたが、ようやく心の底からホッすることができた。

 だが、まだ納得できていない人もいるかもしれない。

 少しでも好感度を稼ぐために、飲んでいなかった人たちと雑談をしながら後片付けを手伝って、洞窟に入り就寝した。


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