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魔王によって彩る世界  作者: 伊草 推
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第3節 ~想定外~

 村から少し離れたところで周りを見渡し人がいないことを確認してから「ふーっ、疲れた~」と少し大きな声を漏らした。

 違う言語を喋っても殺されるような雰囲気はなかったが無事、生き延びることができた。

 生きているという喜びを噛みしめながら次の街へと向かおう。そうしよう。

 そんな一人芝居を考えながら歩いていると、いきなり分岐路にあたった。

 片方は、覚めた場所から村に向かうまでの間を歩いた道、もう一方の未だに足を踏み入れていない道。

 どちらかと言われれば決まっている。未だに足を踏み入れていない方だ。

 元居た道は十数分間歩いても何もないことが確定している。そっちに行くメリットもないと言ってもいい。

 そこからは、野生の生き物に遭遇しないことを祈りながら先の見えない林道を進んだ。

 五分、十分、十五分歩いたところで風景は何も変わらない。片方が少し高台になっている道をただひたすら歩く。人に合わなければ、鳥のさえずりさえ聞こえない。

 出来ることと言えば『鹿なら出てきても余裕だな』や『もし猪や野犬が出てきても、相手の攻撃を避けて短剣で華麗に退治する』とか『熊やゴブリンが出てきたら持ってる食料を投げたり、周りのモノを使って最大限利用して、速攻逃げよう』などシミュレーションという名の妄想ぐらいだ。

 だが、それももうじき尽きる。その後はどうする?二周目が始まるだけだな。

 自然に囲まれた景色は良いものかもしれないが、転生した場所と大して代わり映えしない林道は既に見飽きている。

 現代の都会の喧騒から離れ、傷心旅行をしているのであれば一時間でも二時間でも大自然というだけで暇を潰せるだろう。

 だが、今はそうじゃない。

 話し相手がいない上に、音楽などを聴いて暇を潰すこともできないというのは本当に辛いものだな。

 そんなことを考えていると、高台の森の方から物音が聞こえて身構えた。

 鹿か、猪か、野犬か、それとも熊か。

 心拍数が一気に上がり、音源の方向を向いて警戒しながら耳を澄ませる。

 すると、物音と共に喋り声が聞こえる。

 どうやら野生の動物ではなく、人だったらしい。

 それならば、口を開かない限り問題ないな。と緊張が解れる。

 人がいるならば、思いつくことはただ一つ、言語が違うという面倒ごとに巻き込まれる前にここを去ろう。

 そう思い歩き始めようとすると、更に声が聞こえる。

「だって、全然見つからないじゃん。もう諦めて帰ろうぜ。」

「お前そんな大声出すなよ。」

「お前だっ・・・」

 その声は、どこか疲れを帯びた耳馴染みのあるような声だった。

 何と言っているか理解できる。もしかしたら、通じる人間がいるのかもしれない。

 そう思ってからは早かった。高台に登れそうな場所がないかを探し、林道から外れて森に一歩足を踏み入れる。

 少しの高揚と聞き間違いじゃないかという懐疑心はあったものの可能性という名の希望を逃すことはできなかった。

「やっぱりこれ以上ないし、探しても出てこないから帰ろーぜ。」

「仕方ないなぁ、、、じゃあ帰るか、、、」

 どこからか今にも消えてしまいそうな声が聞こえる。

 帰るということはこの林道に出るのかと思い、木と木の間を縫うように目を凝らし、体を動かしても誰も出てくる気配は全くない。

 むしろ、聞こえていた雑談の声が聞き取れないほどに遠くなり、次第に聞こえなくなってしまった。

 お願いだ。もう一度、声を聞かせてくれ。

 早歩きで声の聞こえていた位置を辿り、声の主を追う。

 すると願いが届いたのか再び声が聞こえ始める。

 そこからは、慎重さを保ちながらできる限り急いで音源へと向かった。

 声の直線距離は近くとも、朽木などで回り道が必要なこともあり、少し近づいただけで中々追いつくことはできないのがもどかしい。

 次第に声が聞こえなくなり、しばらく歩くと森を抜けた先に岩壁が見えた。

 この岩壁に沿って歩けば、声の主に出会えるんじゃないか。

 そんなことを考えながら森を出ようとすると木の根に躓き、転びそうな前傾姿勢で森を抜け、岩壁の寸前で持ち直す。

「あぶねー」

 と思わず声が出た瞬間、背後でズサッというものが落としたかのような音が聞こえる。

 何か落としたかと振り向くと緑色のゴブリンが二匹いた。一匹は森を抜けた時の木の近くに位置し、もう一匹は少し遠くで倒れこみ見ている内に立ち上がった。

 二匹とも木の棒を装備し、こちらに向け臨戦態勢を取っている。

 ここからは、この世界に来て初の戦闘。

 ゴブリンと遭遇した時は逃げることを想定していたが、後ろは岩壁。横に逃げても逃げ切れるとは限らないだろう。

 逃げることは諦めて、短剣に手を掛け抜こうとするも安全対策の紐が掛かっていて抜くことが出来ない。

 急いで外そうと剣を見るも、一度も紐を解いておらず、解き方もわからない。

 解き方を探る中、ゴブリンの様子を見ると一度集まり、体勢を立て直そうとしていた。

「おい、何外してんだよ馬鹿。相手は短剣持ってるし、二人で勝てるかどうかもわからねーぞ。」

「仕方ないじゃん。まさかあそこでコケると思わなかったんだよ。高さもタイミングもズレたし、あんなんで当たるわけないよ。」

「まぁ仕方ないとして、これからどうする。あいつは短剣出すのに手間取ってるみたいだし、やるなら今か?」

「でもアレがフリな可能性もあるし、他の武器もあるかもしれないから下手には近づけないよ。」

 ゴブリンたちの会話が手に取るようにわかる。

 さっきの声の主は、人間ではなく、このゴブリンだったのか。

 身長は一二〇センチメートル程度、少し離れてたら肌の色も相まって、森の中では自然に溶け込んでしまう。道理で見つからないわけだ。

 そこの部分が納得できたのは嬉しいが、ここからどう切り抜ければいい。

 逃げるにしても道がない。短剣も依然として抜ける気配がない。かと言って、他に武器となるものもない。素手で勝てる自信なんて毛頭ない。

 和解・・・和解しかない。

 こっちが喋ったとしても通じない可能性もある。だが、これ以上考えていたら向こうの作戦会議が終わって殺される。

 先手を打つなら今しかない。

「ちょっと待ってくれ、俺の喋ってる言葉がわかるか?」

 咄嗟に出た言葉がこれだった。ゴブリンたちは呆気にとられたような雰囲気でこちらを見て明らかに反応を示している。

 そこから少しの間が生まれ、返答を待ったが反応を示さない。

「もう一度聞く、俺の喋ってる言葉がわかるか?戦う意思はない。」

 そうもう一度、言葉を話すと、我に返ったかのようにゴブリンが反応を示す。

「なぜ、お前が俺らの言葉を使える。油断を誘って、俺らを貶めるための知恵でこの返答も理解できてないんじゃないか?」

 ゴブリンが想定以上に知的なことを言ってるということに驚いた。

 頭が良いわけではなく、卑怯で狡賢い。それがゴブリンだと思っていたがまるで違う。

 相手の狡賢い策を読んでいるという点では、似る面もあるが想像とは違うものだ。

「そんなことはない。正真正銘、通じている。お前らが奇襲をしようとして外した結果揉めていた内容も聞こえていたし、理解もできている。」

 それを聞くと、二匹とも顔を合わせ、驚いたような表情を見せた。

「こちらが戦う意思がないのを示すにはどうすればいいか教えてくれ。」

「まずは武器とバッグを離れたところに置いて、今の位置に戻ってこい。」

「わかった。そうしよう。」

 ゴブリンたちの言うことに従い、離れたところにバッグを置き、短剣はベルトごと外して地面に置いた。

「これで信用してもらえたか?戦う意思はない。あと、短剣は紐の解き方がわからなかったからベルトについた状態で置いた。」

 信用度合いのチェックと戦意の無さの再主張、補足説明をしながら定位置に戻る。

「遅延魔法類の設置とかはしてないだろうな。」

「魔法があること自体知らなかった。当然どうやって使うかもわからない。」

 そういうと、ゴブリンは目を合わせ小声で打ち合わせをし、一匹が臨戦態勢を取り、もう一匹がバッグと短剣を確認しに行った。

「お前は膝立ち状態で手を上にあげろ。怪しい動きをしたら攻撃する。」

「わかった。そうする。」

 言われた通りに膝立ち状態で手を挙げる。傍から見れば滑稽な姿だろう。

 それにしても随分と慎重な奴だ。今、バッグと短剣が確認されているが、片方がトラップに引っかかっても良い様に確認作業は一匹だけにやらせ、もう一匹は威嚇する。

 更に膝立ち状態にさせ手を上げさせることでほぼほぼ無力化する。ここまでやる必要が果たしてあるのだろうか。

 あぁ今確認されてる短剣は、まだ一度もまともに使っていないにも関わらず、いとも簡単に紐をほどかれ抜かれてしまった。

 そして、短剣を抜いたゴブリンはもう一匹と目を合わせ、こちらに短剣を向けながら迫ってくる。

 短剣に名前は付けていないが、お前の初めての仕事がご主人様に刃を向けることというのは何とも物悲しいものだ。

 短剣を持ったゴブリンは少し離れた位置で止まり、木の棒を持ち威嚇していたもう一匹が近づいてきた。

「今からお前の身体検査をやる。今のうちに隠し持っているものはないか言え。」

 ゴブリンは声を少し震わせながらそう忠告する。

「持ってるものは何もない。あそこにおいてある、食料品と金ぐらいだ。」

「わかった。じゃあそのまま膝立ちになって、手を挙げてろ。」

 言われた通りに膝立ちになり手を挙げた状態を維持する。

 その体制を確認後、最初は木の棒で体を小突き確認をされた。その後も手でも危険物が有無を確認され「よし」という言葉が聞こえた。

「お前の戦意の無さと危険物を持っていないことを確認した。これから俺らの村に連れて行く。処遇はその後決める。」

「ありがとう。理解してもらえて嬉しいよ。」

「もう立ってもいいぞ。お前の短剣については俺らが預からせてもらう。それと、バッグは自分で持て。」

 許可を貰えたので、立って膝を払う。そしてバッグを取りに行き、少し荒らされた中身を整理する。

 一切反乱の意思はないが、バッグを取りに行くという短い間でも短剣を持ったゴブリンは常に一定間隔を保って警戒している。凄く偉い。そして怖い。

 バッグを持つとゴブリンの村とやらを目指し、木の棒を持ったゴブリンに付いて行った。


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