表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王によって彩る世界  作者: 伊草 推
3/23

第1節 ~覚悟~

 歩いて十数分も経つと生い茂る木しかなかった景色が切り拓け、段々と人気を感じ始めた。

 しばらくすると、町というよりは村が見えてきた。

 村は大きいというわけではないが、村の外からパッと見ただけでも十数人程度の人出は確認出来きた。大きさから考えて数十人しか住んでいない小さな村というわけでもないだろう。

 村に入る前には、一度大きく息を吸い深呼吸をする。

 過去には村や町に入れてもらえなかったり、入っただけで捕まったりもした。中には言語の違いからか激昂してその場で集団リンチに合ったことある。

 中でも理不尽だったのは、普通に会話していたらいきなり殺されたことだろうか。

 流石にそのときは殺された後も原因を考えてみたが、原因は一切浮かばなかった。

 そんな理由もわからず殺害されたのは一度だけだったと思うが、様々なことを経験すると一人で村などに入る直前にはどうにも緊張してしまう。

 かと言って、大自然の中一人でサバイバルするだけの知識も根性もない。

 だから結局、村などで人に頼るしかないのだ。

 ただ、安心材料もある。

 転生をするときには昔や前に着ていた現代の服等を着たままというわけではなく、必ず、転生先の世界に合った服装や最低限の装備などが身に着けている。

 物騒な世界に飛ばされたときは剣や銃、棍棒など何らかの武器を装備していたり、鎖帷子などの防具が既に装備していたこともあった。

 そういった意味では、今の装備は極貧相であると言える。

 着ている服はごく普通で柄もない、いかにも庶民が着ているような服だと思う。

 それに戦闘用の装備もなく、強いて言うならお金か何かが入っている袋を持っているぐらいだ。

 こんな貧弱な装備であれば、村を襲いに来たと勘違いして迫害されることはないだろう。

 それでもなお、何らかの迫害を受ける可能性を完全には拭い去ることはできない。

 そんな時は諦めも肝心だ。

 例え迫害され死んだとしてもどうせ次の世界に飛ばされるだけだ。痛みさえも覚えていない。

 でも、今、痛いのは嫌なので迫害されないよう祈りながら最後に大きく息を吐いた。

「俺は主人公じゃない。まぁいいかの精神で。」

 過去の経験に基づいたおまじないを小さく呟き村に入る。

 村に入ると、民家が特に規則性もなく自由な場所に点在していた。

 パッと見た感じでは、やはりこの村は凄く広いという印象は受けなかったが、一軒一軒間隔に余裕をもって建っていて非常に広々として良い村だと感じる。 

 民家の前では洗濯物が広々と干されており、その隣ではトマトの様な作物も育っていた。

 そして、小さな子供と犬がそこらを自由に駆け遊んでいた。

 子供と犬が遊んでいる光景は、この村の平和さと余裕が表れているようだった。

 そんな風景を横目に少し歩くと村の商店が並ぶプチ商店街らしきところに差し掛かる。

 民家周辺とは違い一定の法則性をもって並んでいて、点々バラバラな民家と比べると少しすっきりしていた。

 そこには八百屋や肉屋、服飾屋などの生活必需品を取り揃える店から武器屋や何を売っているのかよくわからない店などは色々な店があるようだ。まさに商店街というのにふさわしい品揃えと賑わい方だ。

 遠くから見て既に分かっていたが、やはり民家周辺に比べると人出は多く賑わっている。

 きっと、あの無邪気に遊んでいた子供たちの親たちはここで働いているのだろう。

 商店街の中を歩くと商店にいる人や歩いている人から『見ない顔を見た』や『珍しいものをみた』というような顔をされ周りからも少し視線を感じた。

 だが、これと言って変な目で見られることはないと思う。

 すれ違う人すれ違う人から見つめられ、視線で追われることもあったが村に他所の異物が入ってきたら見つめるのも当然だろう。

 実は監視されてるのではなどと妄想し、途中振り返って見回したりもしたが、いつまでもこちらを見ている人は一人もいなかった。

 それにすれ違う人や商店にいる人の様子から見ても、外敵を見ているような目には見えない。

 やはり、どこにでもいるような格好をしているからこそ、目立たずにいるのだろう。そういった意味では、この転生システムに感謝せねばならない。そう感じた。


 その後しばらく商店街を見て周り色々な情報を得ることができた。

 この世界がどんな世界か。それも概ね理解できたと思う。

 まず、わかったことの一つ目は、この村の規模だ。

 入る前からわかってはいたが、広くはなく大きい村ではないということ。

 そう思った理由は、村に入ってから歩いて数分で村の中心と思しき場所、商店街についたからだ。

 そして、商店街の中心地に行くと井戸が設置されて、その井戸から周りを見渡すと各所の端を見ることができた。

 自分の歩く速度と目測を考えるに、井戸を中心に半径三〇〇メートルから三五〇メートルぐらいの広さだと思う。差して広いというわけでもないだろう。

 そして、家の数を見ても数え切れるほどであり、仮に五十世帯あったとして、その世帯に平均四人住んでいたとしても人口は二百人。

 村人同士が一人一人の名前と顔が一致ぐらいの村の規模だろう。

 小さすぎず、大きすぎずの丁度いいサイズ感であると感じる。

 村の大きさだけじゃこの世界のことはわからないが、旅をするのに必要なものが揃いそう。それが知れただけでも十分だ。

 続いて二つ目は、この世界の科学技術のレベルがあまり高くないということだ。

 村には電線がなく、電灯なども付いている気配が全くない。

 夜に光を得る手段は、店先から見えるランタンや燭台などの蝋燭と火を使った照明器具だけだろう。

 それに、歩いている人々を見ても携帯電話のような通信機器を有しているようには見えない。

 少なくとも村に高度な電気通信技術は有していないと言える。

 工業化の進み具合に関しては、今身に着けているこの衣服や袋に入っていた通貨などからも察しがついた。

 衣服は、縫い目を見てもミシンで縫ったような緻密さや均一的感は感じられなかった。

 通貨を軽く見ても微細な加工は行われておらず、単純なつくりとなっている。

 もし、こんな世界で科学の力によって作られた繊維を機械で大量に縫製した一切のムラすらも許さない服を着ていたら目立っていただろう。

 心の中で、服装などが変わってくれることに改めて感謝する。

 ただし、科学技術が進んでいないというのはこの村、この国が進んでいないというだけな可能性も十分にある。

 大きな町、他の国などに行けば、この世界の最先端科学を知ることができるだろう。

 最後の三つ目。これが一番重要だった。

 この村の人は自分には理解できない言語を喋っていた。

 これに気付いたときからは絶対に喋らないよう気持ちを引き締めた。

 また、商店などが建ち並ぶ中央部を見渡すと文字らしきものを認識できるが、音声と同様、文字も理解することはできない。ただ単に、見たことのない形と既視感のある形が羅列されているだけにしか見えない。

 しかし、良かったことが一つある。

 それは、転生前と同じく数字はアラビア数字が使用されているということだ。

 八百屋や肉屋に並ぶ、果物や野菜、肉の値段などの価格がある程度は理解できる。それに手持ちの通貨をよく見てみると、1や10や100と数字が入っている。

 通貨が何種類あるかはわからないが、手持ち金額は1が五枚、10が三枚、100が七枚入っていた。合計額は735円(仮)。もし、仮に単位が円なら大したものは買えないな。

 この通貨がこの村で使えるのならば買い物をすることもできるだろう。早く買い物を済ませて、この村から出たいところだ。

 確定的に言えることはこの三つ。

 たかが三つだが一言も喋ることなく、これだけのことを知れたは喜ばしいことだ。

 他にも村人の所作や張り紙から「魔法があるっぽい」ということや「ゴブリンなどの魔物が出るらしい」ということもわかったが、何分これは不確定な情報だ。

 これからの旅で判明することだろう。

 それにしても、三つ目の「言語の差異」が判明した時の衝撃は大きかった。

 覚悟はしていたが、いざ遭遇すると残念という他ない。

 過去には、言葉が通じなくとも優しい対応をしてくれた人も確かにいたとは思うが、言語の差異からか排他的に扱われた記憶。嫌に記憶の方が記憶に残りやすいものだ。

 やはり他言語を聞くのはいい気持ちはしない。

 だから、村に入ってから未だに口を開いていない。今後もこの村で開く予定はない。

 そして、危険要因を排除するためにもいち早くこの村を出たい。

 だが、野生で生き残るためには最低限の武器や食料などが絶対的に必要だ。

 この世界で食べても良い植物などがわからない以上、食料に関しては最低でも五日分は欲しい。

 少し立ち止まって、食料なしで次の町を目指すかと迷いはしたが、次の町に食料なしで辿り着けると決まったわけではない。それにサバイバルもできない。

 答えは一つ。ジェスチャーで買い物をし、切り抜けると決意した。


 買い物をするにあたって、作戦を三つ立てた。

 一つ目は、適当なタイミングで頷くということ。

 二つ目は、相手の行動を見逃さないこと。

 三つ目は、相手の表情を見逃さず、適当なタイミングで笑みを見せること。

 ごく単純なこの三つを実行する。

 適当なタイミングで頷く。

 これは現代でも通用する当然のことだ。言語が同じであったとしても、話を聞いている風を装うときにはよく使う。

 相手の行動を見逃さない。

 これもごく当然のことだ。商店で相手が手を出して来たら、代金を支払うよう手を出していると考えるのが自然だ。この時にお手と勘違いして、何も持たずに手を乗せる奴はいない。

 そういった行動や仕草を見逃さなければ、相手の琴線に触れることもないだろう。

 そして三つ目の笑みを見せる。

 これは少し難しいが、言葉はわからずとも喜怒哀楽や嫌がられていること、凄く疑われていることぐらいは表情や体の動きから理解できるはずだ。

 それを見逃さなければ、相手が笑顔になるタイミングに合わせてこちらも笑みを見せるという算段だ。

 笑顔を見せることによって、貼れる疑いもあるだろう。

 しかし微細な表情の変化から相手の考えや話の内容などを読み取ることは難しい・・・

 まぁなるようになれだ。

 言えることは、最悪のタイミングで笑みを浮かべないこと。それをやってしまったら最期であることは目に見えている。

 主に笑みを見せるタイミングは、相手が笑顔になる瞬間と買い物が終わったとき。

 それを見逃さなければなんとかなる。

 しょぼい戦術だが、あるとなしじゃ気の持ちようが違うだろう。

 改めて心を落ち着け、腹をくくって買い物に向かう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ