第10節 ~未知との意思疎通~
その後は、数人が自分の持ち場に戻ったり、料理の手伝いに戻った。
残りは、村長と袋の中身を見たいという数人が残った。
「それじゃあ袋を開けますよ。」
袋を開け、手伝ってもらいながら丁寧に中身を出すと中からは女の子が出てきた。
女の子の大きさは身長一四〇センチメートル程度で、重さは担いだ感覚からして三〇キログラムぐらいだろう。
そして、背丈から見るに一桁年齢とは考えられず、雰囲気からして年齢幅は十歳から十二歳のだろうと予想した。
髪型はショートカットでまとまりがないというよりは少しはねたくせっけと言った感じの印象を受けた。
「中にいたのは女の子だったんだな。」
村長が少し驚きを見せる。
「そうですね。女の子の方が儲かるでしょうしね。」
「そうなのか?入ってるのはてっきり男だと思っていた。」
「女の子、というよりも女性の方が高く売れると思います。綺麗だったり可愛かったりすれば更に高くと言った感じですね。」
「働き手よりも女か。ゲスな奴もいるもんだな。」
そういうと、村長は縄を切るために刃物を渡してくれた。
ありがたく刃物を借り、体を傷つけないよう腕と足に縛られた縄を切り、口に当ててあった布を外した。
腕と足には縄の跡があり、治るにはしばらくの時間が掛かるだろう。
「それで聞きたいんだが、この女の子は中人基準で可愛かったり、綺麗に見えるものなのか?」
「村長にはどう見えますか?」
「顔は整ってるようにも見えるし、綺麗な子なんじゃないか?」
「見る人にもよるかと思いますが、たぶん綺麗というよりは可愛い方だと思います。これだけ可愛ければ十分高値で売れると思いますよ。」
ゴブリンにとってはどうでもいいであろう知識を披露すると、そこにいる全員が初めて知ったと言わんばかりの表情を浮かべた。
「それに知っているかとは思いますが、中人はこの大きさでもまだ大人ではありません。まだまだ大きくなりますし、顔つきも変わるでしょうね。」
「これからどうなるかもわからない奴を売って金になるのか?」
「成長していない方が好きという人もいるのです。」
少し困惑した表情を浮かべていたが、隣と顔を合わせ、人攫いの下衆さを理解してもらえた気がした。
見ていた内の一人が小壺を渡してくれた。
「手首とと足の傷を治すためにも、俺らの村に伝わる秘薬を使うと良い。このぐらいの傷なら二日もすれば治るとだろう。」
中には塗り薬が入っていた。少しでも早く治るならうれしいだろう。
その塗り薬を塗ったあたりで、夕飯が出来たと呼ばれた。
女の子を担ぎ、洞窟の外へと向かった。
外に出ると日も暮れ、ゴブリンと過ごした一日が終わろうとしていることを実感させられた。
配膳も手伝おうと思っていたが既に配膳は済んでおり、女の子の分の食器も用意されていた。
既に情報は行き届いているということだろう。
女の子は目の届く範囲、自分の真後ろに寝かせてあげた。
村長は、全員が席に着いたことを確認すると儀式を行い皆の夕食が始まった。
夕食を食べ、しばらくすると女の子の話題が持ち上がる。
「本当に子供を攫って売ろうとした下衆野郎を殺さなくていいのか?」
袋の開封を見ていた一人に尋ねられた。
「この問題の重さを決めるのはあの村であって、俺らじゃないと思うんだ。だから村に盗賊たちもつれていく予定だ。」
「本当にそれでいいのか?」
「あぁ。それに、俺らが殺さなくても、人攫いをしたんだ。相当に重い罪が待っているはずだ。最悪は死罪かもしれない。だから、俺らが手を出す必要もない。それにいくら他人種でも人間の肉は食べないだろ。」
それもそうかと、そこで話題を切ってくれた。
その直後、目の前に位置するゴブリンが「おっ」と何か珍しいものを見たような声を出す。
後ろを見ると、女の子が目を覚まし、スッと上体を起こした。
すると、自然と歓声が上がり、まるで誰かが何かを成し遂げたお祝いかのような雰囲気に包まれた。
それを見聞きしてか、起きた女の子はこちらを向くと驚き、怯えた様な表情を見せて後ずさり、後ろの岩壁にぶつかった。
大きな声を出すかとも思ったが、驚きのあまり声が出ないといったようにも見えた。
「驚いてるじゃないか。可愛い。」
「そりゃこんな状況じゃ驚くよな。」
「後ずさって少し頭ぶつけてたけど、大丈夫かな?」
「驚いてるわけだしもっと驚かせてやろうぜ。」
一方のゴブリンたちは、楽しそうに雑談していた。
ここからどうするべきか。何とかすると言ったが何も考えてはいなかった。
腕や足に縄の跡が付いていたことから考えるに結構な時間、拘束されてたはずだ。それならば、きっとお腹も空いているんじゃないか?
精一杯、解決策を探す中で見つけた答えがこれ。
食事中なこともあってか、食事の他に考えが廻らなかった。だが、よく考えれば言葉は通じない。
食べる?美味しいよ?
この一言を掛けることができない。何かを食べさせるのは難しいのでは?
その時、一つの方法を思いつく。
持ってきていたバッグを抱えたまま、女の子に近づき、少し離れた位置で座る。
当然女の子は警戒をして委縮している。
だが幸い、こちらをチラチラ見ながら確認してくれている。
バッグの中からリンゴを出す。
そして、リンゴを持ちながら言葉交じりで一動作一動作ゆっくりとジェスチャーする。
「リンゴ。食べる。」
まずリンゴを指さし、食べるで、実際にかぶりついた。
それを二回繰り返した。
その後女の子を指さし、新しいリンゴを出し、
「リンゴ。食べる?」
と少し首をかしげながら聞いた。
反応がなかったため、もう一度同じ動作を繰り返し、リンゴを食べるか尋ねてみた。
二回目を終えた後、言葉が通じたのか、女の子は首を横に振った。
人種間、世界観、国による大きな違いがなければ、首を横に振るのは否定をすると言うことだろう。
それを見ただけで言葉が通じたと少し感動する。それ以上に感動していたのはゴブリンたちだ。
「うおおおおおおぉぉおお」
後ろのゴブリンたちも言葉が通じなくとも、意思が通じることに感動して大きな喝采が起きた。
雄叫びが上がっただけではなく、その中からは、凄い通じたぞ。と言ったことや、他の人にも通じるんじゃない。と言った明るい希望を見出す人もいた。
それらを見聞き女の子はビクッとし、またもや縮こまってしまった。
自分も雄叫びにはビクッとしたため、女の子が驚くのも当然だろう。
再度、委縮してしまったのは残念だが、言いたいことが通じたのは大きな成果だ。
なぜ女の子が、首を振ったのかを考える。
もしかしたら、女の子はリンゴが好きじゃないのかもしれない。それか、しっかりしたものが食べたいのかもしれない。
その前に、後ろにいるみんなに忠告をする。
「次、言葉が通じたとしても叫ばないでくれよ。またビックリして委縮させちゃったら、子の子も心を閉ざしちゃうかもしれないだろ。」
後ろを向いてそう忠告すると、はーい。という反省なさげで、微妙にヤル気のなさそうな声が帰ってきた。
次は、しっかりしたものを出してみよう。いきなり、ゴブリンの作った料理を食べさせるというのは難しいだろう。
だから、村で売っていた既製品である干し肉を出して、思い思いのジェスチャーをする。
「肉。肉。食べる?」
流石にかぶりつくわけにもいかないので肉で肉を指した後に、食べるで口を指し最後に親指と他の指でパクパクとジェスチャーした。
肉も首を横に振られてしまった。肉が食べたいわけでもないようだ。
後ろにいるみんなはさっきのような大歓声はなかったが小さく地味に湧いていた。おかげで女の子もビックリしていないようだ。
だが、もう残っているものがみかんなのか、オレンジなのか、それとも全くの別物なのか、よくわからない柑橘類しか残っていない。
正式名称が何かはわからないが、とりあえず出して、この場を乗り切るしかない。
柑橘類をバッグから出す。
すると、女の子の目の色が、少し変わったように見えた。
一応、さっきと同じような確認をする。
「オレンジ。オレンジ。食べる?」
これは食べるだろうと、少し自信ありげにジェスチャーを行った。
しかし、予想に反し、首を大きく横に振られてしまった。
あんなに自信満々でジェスチャーをしたばっかりに、少しというよりもだいぶ気恥ずかしさが残る。
だが、女の子が食べたいものは、オレンジで合っているはずだ。オレンジを出した時の反応は、明らかにリンゴや肉とは違う反応をしている。
だから、間違えかもしれないが、無理矢理にでもオレンジを食べさせたい。そう思ってしまった。
「誰でもいいからさ。包丁持ってきてくれる?お願い。」
後ろを見てお願いをする。
「方付けちゃったから少し待っててくれる。」
その返答を、快く受け入れ。待ち時間は、かじった残りのリンゴを食べることにする。
食べてる最中に、さっき注意した後ろの皆を思い出した。注意した後は基本的にコソコソと喋り、静かにしてくれている。
「さっきから、静かにしてくれてありがとう。女の子が肉とオレンジの時だけだけど、驚かなくなったような気がするよ。」
後ろを向いてお礼をすると、少し照れてたり、気にすんなと手を振ったり、多種多様な返答が来た。
女の子が驚かなくなったように感じるし、何よりも自分もビックリしなくても済む。本当にありがたい限りだ。
丁度、リンゴを食べきったところで、包丁が来た。
包丁は何の保護もなく、抜身の状態で、しかも歩くときに手を振っているせいか少し怖い状態で到着した。
火の光の加減も相まって最低最悪の登場になっていたかもしれない。
女の子にとっては包丁が来るだけでも怖いだろう。
それに、ゴブリンに慣れてきた自分でも怖かった。
だが、女の子の様子を見ると平然としている。驚かないなんて肝が据わった子だ。
「持ってきてくれて、ありがとう。」
包丁を受け取ると、ゴブリンと女の子に手を振って、自分の位置に戻っていった。
女の子はごく普通の顔をしているが、同人種であったとしても言葉の通じない人が包丁を持っていたら怖いものではないのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていたが、結局まぁいいかと済ませてバッグの中からオレンジを取り出し、オレンジを四等分にする。
そして包丁を横に置き、距離まで近づき、女の子に食べているところを見せつける。
少し羨ましそうにこちらを見ているようにも見える。
すると、女の子のお腹が鳴る。
恥ずかしそうに隠すものの、隠してお腹の鳴りが消えるわけではない。
オレンジをもって、手を差し出した。
最初は嫌がっていたが、オレンジを口に近づけると手に取って自分で食べた。
少しすっぱそうな顔をしてはいるが、どこか満足げな表情に見える。
それを見た後ろの観客は、再び大喜びをした。
一人種だけ言語が違う中人という名の異常種とコミュニケーションをとるというのは、ゴブリンたちにとって夢だったのかもしれないと感じ、その場に立ちえたことに改めて感動を覚えた。
その後は、女の子も徐々に警戒を解いてくれて干し肉、リンゴ、そしてゴブリンの作ったご飯を食べるというところまで進展した。
また、ゴブリンの作ったご飯を食べるか尋ねた際は「食べる」とはっきりと言い。この子の好奇心の高さ好奇心の高さを実感した。
流石に、食べる以外の言葉は使わなかったが、ゴブリンに対する恐怖感も最初に比べれば、だいぶマシというよりも、ないと言っても過言ではない程に距離が近づいた。
そこにいる誰もが、その光景を楽しみ、笑いあう。
だが、その時間も長くは続かない。
女の子は突然、電池が切れたかのように眠りについた。
攫われた末に目が覚めると敵視していただろうゴブリンに囲まれ、恐怖し、同じ人間も居たが意味不明な言語を喋り掛けられる。
誰も想像することもできないほどの負担があったことには間違いない。
皆も意識が飛んだ時は心配していたが、寝ただけだとわかると笑いが起こり、仕方ないと言いつつ、夕食という名の宴は終了した。
食器などを方付けた後、俺は女の子を洞窟の中に運び、しっかりと監視が出来そうな場所に寝かせる。
当の自分は、少し離れた位置で、熟睡しないよう座って寝ることした。




