第9節 ~不和の兆し~
村に着くと、洞窟前ではやはり、子供たちが遊んでいた。
村長に事情を事細かに話すとリーダー格を洞窟の奥に呼び出し、重役会議が始まった。
昨日この村に来たばっかりではあったが、中人であるということからその会議に参加することができ、末席についた。
各部門のリーダー格が集まり、員数は自分も含め八人。
ほとんどの名前も顔もわからなかったが村長リビン、農業部門リーダーのデタ、狩り部門リーダーのイロンぐらいはわかる。
気負いし過ぎないように、会議に参加しよう。
盗賊二人については、会議が始まって直ぐに「殺すべきだ。」という主張もあったが「対応は後で考えてしばらくは更に厳重な拘束をして洞窟の最奥で放置するべきでは。」と主張したところ、それがすんなり認められた。
一方の袋の中の人に関しては揉めた。
選択できる選択肢は実質的に二択。
拘束を解除して少し離れた森の中に放置するか、目を覚ますのを待ってその後、中人の住む村へと帰す。
と言っても、ここに残すべきと強く主張しているのは他所者の俺だけ。他のゴブリンたちはリビンを除いて森に放置を採っていた。
リビンは森に放置することは気乗りしないが、というどっち付かずな印象だった。
「袋から出し、拘束を解いてから森に放置するのが一番だ。ここを知られるのが一番不味い。」
「そうだ。それに暴れられた上に逃げられても困る。」
この二つが主な主張であった。
何とか捕らわれている人を安全に村に帰せないだろうか。
取り合えず、反論して反応を見よう。
「森に放置するということは、また人攫いにあって同じようなことが起こる可能性もあるはずです。それを受け入れるんですか?」
反論をすると「それもそうかもな。」という雰囲気は流れたが、意見を買えるほどの力はなかったらしく、反論された。
「目を覚まし、そのまま中人の村に帰るかもしれないじゃないか。それに、また人攫いに合う可能性は極めて低い。」
その意見を聞くと、他のゴブリンたちは大きく頷いた。
「確かにそうかもしれない。でも、森の中で放置した場合、野生の動物に襲われる可能性もある。気絶している間もそうだ。放置をしたせいで人が死ぬ。後味の悪いことはお前らも望んでいないでしょう?」
相手に負い目を感じさせる作戦。
これは一定の賛同を得ることができた。だが、まだまだ足りない。
次を考えている内にまたしても反論される。
「それも可能性としては低いはずだ。中人の命を守るのが俺らの役目じゃない。俺らは俺らの村を守るための行動をすべきだ。シュウヤお前もこの村の住人ならわかるだろ。」
洞窟の場所がバレること。それだけは絶対に避けなければいけない。
ここで住民として暮らしていくのであれば、なおさらだ。
バレて応援を呼ばれる前に殺す。
これは村の全員を守るために作戦の一つだ。村長からも教えてもらった。
他に手はないのか・・・
人が入った袋を見つめて良く考える。そうか。
「ここがバレるのが一番不味い。それはわかってます。だけど、小人と中人のサイズ感の違いから分からないかもしれないが、この袋の中に入っているのは十中八九子供です。子供を野ざらしにして捨てるんですか。」
たぶん、これが最後の手だろう。同情を買う作戦。
この問いかけにはみな堪えたらしく、より一層意思決定を難しくした。
そして村長のリビンがようやく口を開く。
「みんなも薄々わかっていただろ。入っているのは間違いなく子供だ。俺は子供ならここに置く、大人なら森に放置する。それで問題ないと思ってる。」
リビンが考えを述べてもなお、全員が全員納得しているというわけではない。
もう一押し。もう一押しが足りない。
無い知識を振り絞り、結局思いついたのは、責任だった。
やらずに後悔するよりもやって後悔したほうが良いに決まってる。
何か起きても、失敗しても、お得意の『まぁいいか』と事後的に容認すればいいじゃないか。
腹は決まった。
「暴れないように何とかするし、逃げ出されないようにもする。あの盗賊2人にしての対処しっかりと考えておく。だから、ここに置いてあげてくれませんか。」
静寂な時が流れた。
渋い顔をするものもいたが、村長の威光もあってか賛同してくれる人の方が多かった。
そして、渋い顔をしていたゴブリンが喋り始める。
「わかった。中人同士、言葉が通じずとも分かり合えることもあるかもしれない。お前に一任する。だが、袋の中身が子供だった場合だけだ。それがこちらとしての最大の譲歩だ。」
大人であった場合は、森に放置。
それもできれば避けたいところだが、これ以上粘っても良いことはない。諦めよう。
「ありがとうございます。最善を尽くします。」
それを聞くと会議はまとまり、その後、反対意見を募ったが出ることはなかった。
「中人の対応はお前に一任する。だが、どうする予定なのか教えてくれ。そうでもなくては、こちらも心配でならない。」
リビンは少し心配そうに、聞いてきた。
「盗賊については、拘束を強化するから逃げる問題はないでしょう。」
こちらに関しては、だれも異論はないようだ。
「袋の中人に関しては、完全に拘束を外して、起きるまでずっと監視します。起きた後も、皆が寝てる間もしっかりと見張ります。たぶんそれ以外にできることはないです。」
「わざわざ拘束を外す必要はないんじゃないか?拘束を外さなきゃ暴れることも逃げることもないはずだろ。」
今度は、森に放置派だったイロンに突っ込みを入れる。
意見を押し込んだのは自分だ。丁寧に説明する必要があるな。
「拘束された状態で目を覚ましても相手のことを信用できないだろうから拘束を外した状態で、目を覚ましてほしいんです。まずは信頼を稼ぎたい。そう思っています。」
「そうか。そんなものか。」
完全に納得したというわけではなさそうだが、一定の理解は得られたようだ。
だが、他のゴブリンを見ると少し納得していなさそうな人もいた。
「刃物とかで脅せば、暴れられることもないと思いますし、それにここの場所もバラスこともないと思います。だけど、人攫いに合うような子供です。戦意も敵意も強くないはず。だからこそ、信頼を稼ぎたいんです。」
思い思いの言葉で、一部の不信感を払しょくすることはできただろう。
だが、完全に納得というところまではいっていない。
「それに、みんなも戦意の無い俺を受け入れてくれでしょ?」
つい昨日の出来事ではあるが赤の他人、全くの別人種を受け入れてくれたことをだし、再び情に訴え、納得感を誘う。
「わかった。それでいい。だが、そいつが逃げ出したときはお前が責任を取れ。俺らは一切手伝わない。」
イロンは一応納得してくれたものの突き放してきた。
当然の結果だ。
こんな穴だらけの感情論を許してくれるなんて、むしろ温情すら感じる。
「ありがとうございます。」
このやり取りを見て、みな一応、納得してくれた。
「それじゃあ、この会議は終了。中人の扱いはシュウヤに一任するということで決定する。これ以上の異議はないか?」
異議は出ず、会議は閉会した。




