~プロローグ~
ここは我が城の書斎。
現在この城には勇者と呼ばれる一行が侵攻してきているという。
情勢はこちらの圧倒的な劣勢。
勇者は相当に強く、我が軍の主力たちをも退け、徐々に削がれていったと聞く。
この城に残る戦力では到底太刀打ちすることはできないだろう。
奴らがここまで辿り着いた場合、いくら手を尽くしても勝ち目はなく、逃げることなども叶うはずもない。
故に、悠然と、と言うよりは呆然として勇者たちの到着を待つ。
「世界征服の野望もここで終わり・・・いつか希望は見える。必ず道は見える。か・・・」
空を仰ぎ、そう口ずさんだとき書斎のドアがゆっくりと開いた。
目の前には現れたのは勇者一行。
疲れからか一行には靄が掛かり上手く認識することができない。
「お前が魔王だな。」
「魔王か・・・そうだな。この俺に何か用でもあるのか。」
「お前を倒して、この戦争に終止符を打つ。」
勇者は剣を抜き、こちらを向けてきた。
「そうか。ならば受けて立とう。」
精一杯の虚勢を張り、魔法書を手に取り立ち上がる。
勇者たちも体制を整え戦闘モードへと移行する。
「来ないならば、こちらから行くぞ」
そう言って、魔法書の力を使い目の前の机を一行にぶつけた。
しかし勇者たちは一切動じることなくその机を焼き払う。
その後も書斎にあるあらゆるものを使い攻勢をかけたが、相手の防御魔法を抜けたものはあるものの深刻なダメージを与えることはなかった。
そして次の攻撃を考え攻勢を少し緩めた瞬間、勇者はすかさず間合いを詰め攻撃を仕掛けてきた。
こちらも防御魔法を使い勇者たちの攻撃を防ぐ。
一度、二度、三度と防御し、攻撃する機会をうかがった。
しかしながら攻防は完全に逆転し、勇者たちは攻勢を緩めることはない。
猛攻に完全に押し込まれ、防御魔法も限界に近い。
もう終わりか。
そう思っていると勇者は剣を平行に構え剣を突き刺した。
剣は防御魔法を易々と破り、腹部をいとも簡単に貫いた。
その勢いは衰えることなく、俺は背後にあった椅子に張り付けにされた。
痛い。物凄く痛い。次の算段などが考えられない程の痛み。
痛みからか、意識は朦朧とし、終焉というものを察した。すると、勇者は顔を近づけ耳元で呟いた。
「お前は・・・・は・な・った。だが、・・・・だ。」
他にも何か、言っているような気もしたが、殆ど擦れて聞こえない。
何らかの言葉を言い終えた勇者は剣を抜き、首を飛ばすためか剣を立て構えた。
その姿をマジマジと見れるほどの図太さはなく、優しくまぶたを落とす。
目の前が暗くなり、何も見えなくなると、目を開けていた時には見えなかった光景が目の前に広がった。
これが走馬灯というのだろうか。
思っていた光景とはまるで違っていたが、その光景を眺めていると世界征服の野望などどうでもよく感じてきた。もう後悔はない。
そう感じた次の瞬間「シュッ」という風を切る音が部屋中に響き渡り、意識を失った。