91 学園祭②
学園祭二日目。
今日の猫カフェは昨日よりも人で賑わっている。猫耳を付けた五十鈴さんが学園祭を回ったおかげかな?
お客さんが増えたからって、僕ら従業員が忙しくなったりはしない。僕らがすることなんて受付と、作り置きしている紅茶やスコーンを出すだけ。そして猫たちも自由気ままに寛ぐだけだから、うちの出し物はずっと平和だ。
僕は総務委員の写真撮影があるけど、今日のノルマは達成した。五十鈴さんはクラスメイトやギャラリーに囲まれて忙しそうだけど…僕はどうしようかな。
「園田くん…」
「はい?」
やることを探していると、背後から服を引っ張られる。
木蔭さんだ。
「木蔭さん、どうしました?」
「その…えっと…」
「?」
木蔭さんは少し頬を赤らめながら、学園祭のパンフレットを開いて僕に見せる。
「実は………一緒に行ってほしい模擬店があるの…」
「…」
…もしかしてデートのお誘い?
いやいやまさか、男手が必要なだけだろう。
「いいですよ。どの模擬店ですか?」
「この…カップル喫茶…」
カップル喫茶。
その名の通り、カップルだけが入れる喫茶店のことだ。
「あ、ご…誤解しないでね…!」
木蔭さんは顔を真っ赤にして慌てふためく。
「実は…このパンフレットに書いてある謎解きに挑戦してるんだ…」
「謎解き?」
「ほら…パンフレットの最後のページに書いてあるの。あらゆる難事件を解決させた探偵の息子が考えた謎解き…」
「探偵の息子…」
そんな生徒もいるって、いつしか城井くんが言ってたっけ。本当にこの学校は何でもありだな。
「それで…私の推理が正しければ、この模擬店に謎解きの鍵があるはずなんだ。でもここ、男女ペアじゃないと入れなくて…」
「そういうことですか」
ビックリした…何を期待してるんだ僕は。
「じゃあ一緒に行ってみましょう」
「うん…ありがとう」
僕は木蔭さんと一緒にカップル喫茶へ行くことになった。
※
カップル喫茶。
店内は予想通り桃色一色、校内や外部から来たカップルが人目も憚らずイチャイチャしている。メニューにある食べ物は二人専用のものしかなく、飲み物にはテレビとかでしか見たことないハートストローが刺さっていた。
「…」
「…」
ハッキリ言ってこの空間は僕も、恐らく木蔭さんも苦手とするものだ。
「そ、それで謎解きってどんな内容なんです?」
気まずい空気をどうにかするべく話題を出す。
「あ、えっと…こんなのだよ」
木蔭さんはパンフレットを開いて僕に見せてくれる。
――――――――――――――――――――
これは呪われた絵師の物語だ。
絵師はサンドイッチを片手に肖像画を描くのが趣味だった。
しかしある日、絵師のモデルになった人が次々と亡くなっていたことが発覚する。死因は様々だが、どれも悲惨な末路だったと語り継がれている。絵師はその後“筆の魔女”と呼ばれ、深い森の中に追放されてしまった。
だがある日、こんな噂が流れる。
深い霧と森に囲まれた絵師は、描く物のないこの風景に嫌気がさして脱走してしまったのだ。噂ではある学園の生徒に紛れて、思い思いに筆を振るっているらしい。
君はその“筆の魔女”を見つけることが出来るか?
――――――――――――――――――――
「…雰囲気ある謎解きですね」
要するに、この“筆の魔女”と呼ばれる人物を見つければいいんだな。でもこの文章だけだととっかかりが掴めないな…
「最初に見た時は分からなかったんだけど…今日、高等部の広場に一枚の絵が飾られてたの」
「絵?」
「大食い喫茶で大食いに挑む人の絵…」
広場に飾られた模擬店にいる人の絵、もしその絵がこのシナリオに関連しているのなら…
「まさか、その絵に描かれた人が?」
「ち、違う違う。そしたら学園祭続いてないもの…」
「まあ…ですよね」
「でもね、その大食い喫茶…今日見に行ったら閉店してたの」
「え、閉店?」
「大食いの天才が料理を全部食べちゃって、在庫がなくなったんだって。それで営業が続けられなくなったみたい」
「それは…ご愁傷様」
大食い喫茶も面白い発想だけど、予算的にこの学校で開くのは悪手だったな。
「つまり、あの絵に描かれた大食い喫茶は…亡くなったの」
「…なるほど」
木蔭さんの推理はこうだ。
この“筆の魔女”は学園祭に紛れて模擬店の絵を描いている。そして描かれた模擬店は何らかの問題を起こして次の日に閉店、営業不能になってしまう。だから何かしらの問題を抱えている模擬店に張り込めば“筆の魔女”に会えるかもしれない。
「それで木蔭さんの推測だと、このカップル喫茶が明日にはなくなっていると?」
「うん…このカップル喫茶、風紀を乱す出し物だって今でも風紀委員と揉めてるみたい…」
「ああー確かにそんな話もあったような」
僕らは詳しく知らないけど、模擬店の出店申請は毎年かなり揉めると聞いている。カップル喫茶なんてまだ優しい方だ。中には牡蠣とかのナマモノを取り扱いたいとか、巨大なオブジェクトを建設したいとか…天才からの無茶苦茶な申請に総務委員や生徒会が頭を抱えているとか。
「ここも閉店する可能性は十分考えられるから…誰か絵を描いてると思ったんだけど」
「なるほど…」
周囲には“筆の魔女”と思われるお客はいない。
うーん…このミステリー、かなり奥が深そうだ。
サンドイッチを片手にっていうのも鍵だろう。飲食可能な模擬店で、多分だけどお昼ごろにだけ現れるはずだ。今の時間帯でここに絵を描いている人がいないということは…ここは閉店しないのか、それとも次の日なのか。
他にもこの文に何かヒントが隠されているかも…
「これは…気になりますね」
「気になるでしょ…!」
僕と木蔭さんはこのミステリーの虜になっていた。
こういった気軽に参加できるイベントは、僕や木蔭さんみたいな表舞台に立てないタイプの人にはもってこいだ。
「写真撮影をしている中で、怪しい模擬店を見つけたら木蔭さんに報告しますね」
「うん…明日も広場に絵が飾られると思うから、一緒に見に行こう…」
一つの謎を前に、僕と木蔭さんは意気投合する。
「仲良しお似合いカップルには、特製コースターをお配りしていま~す」
するとカップル喫茶の人が僕らの様子を見て、可愛らしいコースターをプレゼントしてくれた。
「………」
「………」
「出ましょうか…」
「うん…」




