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87 学園祭準備期間➂




 僕らの出し物の準備は着々と進められていた。


 芸術室に隠されていた物資はすごく役に立っている。

 綺麗なカーテンで教室を囲い、肌触りの良いテーブルクロスは勉強机をお洒落なテーブルへと変える。もう誰も学校の教室とは思わない、立派なカフェに仕上がっていた。


 撮影回りで他の模擬店のクオリティに驚かされたけど、うちもやればできるものだな…


 カフェのメニューは紅茶がメインで、紅茶に合うクッキーやスコーンなどを作ることになった。そこで名乗り出たのが久留宮さんという女子だ。


「私は食べるのも好きだけど、料理も得意だよ~」


 この華岡学校で“得意”と発言するということは、その方面で天才だということだ。自信のある人には安心して任せられる。


「おーいみんな~」


 すると猫宮さんが教室の入口から現れた。

 その足元には、猫がいる。


「今日は顔合わせとして、二匹だけ連れて来たにゃ」


 二匹の猫は僕らに警戒することなく教室内で寛ぎ始めた。

 猫の登場にクラスみんなの表情が和らぐ。


「おお…人懐っこいな」

「やっぱり猫はかわいいね」

「これだけでかなりの客が来るんじゃないか?」


 みんなは作業の手を止め、猫に癒されに行った。

 やっぱり猫は大人気だ。


「…」


 僕と一緒に飾り付けを作っていた出雲さんが猫を見てそわそわしている。


「猫、好きなんですか?」


「…!そんなことはない」


 無理をしているのが丸わかりだ…可愛いものが好きなんだな、出雲さん。


「うちの猫は多芸にゃ…整列!」


 猫宮さんがそう指示すると、二匹の猫は猫宮さんの前に整列する。


「お座り!」


「にゃ―」


「お手!」


「にゃー」


「バク転!」


「にゃー」


 二匹の猫は猫宮さんの指示通りに動く。

 こんな従順な猫、初めて見た。さしずめ猫宮さんは猫と仲良くなる天才ということか。


「ねえねえ猫宮ちゃん、こんなのを用意したよ~」


 すると朝香さんが花の入った小さな瓶を取り出した。あれは朝香さんお得意のいい匂いがするポプリかな。


「マタタビのポプリ~」


 瓶の蓋を開けると、仄かな香りが教室内に充満した。

 その匂いを嗅いだ猫の表情が穏やかになった気がする。


「おお、これがあればうちの猫たちもリラックスできるにゃ!」


 猫宮さんは嬉しそうにポプリを受け取る。

 個性の強い者同士でも、相性が合うこともあるんだな。


「おーい」


 すると今度は西木野さんが段ボールを持って登場する。


「手芸部の知り合いから人数分の猫耳を借りれたから、みんな好きなのを選んでね」


 もう猫耳の用意が出来たのか…流石だ。西木野さんの人望はクラスの外にも通用するんだな。


「本番で恥ずかしくならないよう、今の内から装着して慣らしておこう」


 そう言って躊躇いなく猫耳を装着する西木野さん。

 …意外と似合ってるな。


「猫耳、私には似合わないよね…」

「そんなことないよ~」

「猫耳かぁ…最近付けたばっかりだな」


 木蔭さん、朝香さん、星野さんも似合っている。

 女子がつけるとそれなりに可愛く見えるものだ。


 まあ…男子が似合うものではないけどね。


「あはは、男子たちは可愛くないねぇ」


 向こうの男子陣営が微妙な顔で猫耳を装着し、女子陣営がからかっている。この流れになることは覚悟していたけど…


「はい、園田の猫耳」


 西木野さんが僕に黒い猫耳を投げ渡す。

 つけたくない…


「…」

「…」

「……」


 五十鈴さんグループの三人が僕に期待の眼差しを送ってくる。

 …僕はしぶしぶ猫耳を装着した。


「…あれ?似合ってんじゃん」


 西木野さんは意外そうな反応をしている。


「かわい~」

「可愛い…」

「かわいい……」


 そして三人も僕を褒めてくれた。

 こんな賛辞、嬉しくないぞ…


「じゃあ本命の五十鈴さん、猫耳つけてみようか」


 次に西木野さんは五十鈴さんの頭に猫耳を装着させる。


 ………


 そして猫や猫耳で賑わっていた教室内が一気に静寂した。


 …これはやばいぞ。


 金髪碧眼の五十鈴さんに猫耳が似合いすぎる。

 まるでファンタジーに登場する亜人に会ったような、なんとも現実味のない神秘的な美少女が完成していた。僕らはファンタジーの世界にでも迷い込んだのか?


 ………


 ……


 …


 クラスのみんなが五十鈴さんに見惚れ、五分くらい教室内の時間が止まっていただろうか。


 まず僕が我に返った。


「い、五十鈴さんは本番だけでいいんじゃないですか?みんなの作業の手を止めてしまいますし」


 僕の言葉でクラス全員が正気に戻り、現実に帰ってきた。


「………そうだな、まさかここまでとは思ってなかった」


 西木野さんは五十鈴さんの猫耳を取り外す。


「……?」


 五十鈴さんは今のやり取りを見てきょとんとしていた。

 これが天然美少女か…凄まじいな。

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