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8 西木野さん




 西木野優子(にしきのゆうこ)は優しくて真面目なお姉さんだ。

 園田くんと親しく話していたが、彼女は誰にだって同じように接してくれる。面倒見もいいので、クラスでは頼れる女子代表として周りから信頼されていた。


 五十鈴蘭子ともクラスメイトとして差別なく接するつもりだったのだが…


 言葉が通じないのだから仕方がない。


 流石の西木野さんもクラスメイト一人のために言語を習得するような労力もなく、五十鈴さんとはコミュニケーションは諦めるしかなかった。


 しかし五十鈴さんは全学年が注目する美少女。

 噂話は嫌でも西木野さんの耳に入ってくる。


 五十鈴蘭子は冷徹なお嬢様で、園田庭人を下僕にして犬のようにコキ使っていると。





 放課後、私は黒板掃除をしていた。

 まだ委員会も決まってないから、細々とした雑務は私が率先して引き受けてる。部活とかやってないし、これといった用もないからね。


 それに頼られるのは好きだから。


「………うーんっ」


 黒板の上まで手が届かない…

 もうちょっと伸びないかな、身長。


「西木野さん、僕が手伝いますよ」


 そこで加勢してくれるのが園田くんだ。

 園田くんなら楽々と黒板の上まで手が届く。


 男子は身長が高くて羨ましいな。


「悪いね園田くん」


「いえいえ、お互い様ですよ」


 園田くんは良い奴だ。

 席が後ろだからよく話すんだけど、その辺の男子と違ってがさつじゃないし細かいところで配慮ができる。ちょっと気が弱くて遠慮がちなのが欠点かな。


 ………うーん。


 例の噂は本当なのかな…


「ねぇ園田くん」


「なんです?」


「もしかして園田くんって…五十鈴さんに弱みとか握られてる?」


「………え?」


 私は思い切って園田くんに聞いてみた。


「別にそんなことはないですけど…」


「じゃあなんで五十鈴さんを気にかけてるの?やっぱり可愛いから?」


「うーん…」


 園田くんは言いにくそうにしている。

 やはり弱みでも握られてるのかな。園田くんは良い奴だし、私の後ろの席で陰湿なことが起きてるのなら見過ごしたくない。


「…気が向いたらでもいいので、五十鈴さんを観察してみてください」


「え?」


「西木野さんなら気付くと思うんです。五十鈴さんが何を考えてるのか」


「…」


 私は背後を振り向く。

 五十鈴さんはまだ帰宅していないようで、私と目が合うと慌てて目を逸らしていた。





 園田くんはああ言ってたけど…

 観察ならそれなりにしてきたつもり。五十鈴さんは女の私ですら目を奪われるほどの美貌だからね。


 そして観察した結論、五十鈴さんは謎だ。


 喋らないし大人しいし目立った行動はしないし、無表情だから感情を読み取ることができない。外見のせいで一つ一つの仕草に気品があるから、見てて飽きないと評価する周りの感想には同意できる。


「………」


 そして最近気付いたんだけど…どういうわけか五十鈴さんは私を観察することがある。前に黒板を消してた時もそうだけど、やたらと背後から視線を感じるんだよね。


「?」


「……!」


 振り返って目を合わせてみても五十鈴さんは目を逸らす。

 …もしかして、園田くんと話したことがバレて私を敵視しているとか?


 やっぱり関わったらヤバイ系の女王様なのかな…


「西木野さん。悪いんだけど、このプリントが集まったら職員室に届けてくれない?先生これから打ち合わせがあるんだ」


「はーい」


 先生に頼られた。

 頼られるのは嬉しいんだけど…ちょっとプリント多いな。


「僕も手伝いますよ」


 そこで園田くんが協力を申し出てくれた。


「お、悪いね」


「流石にこの量は女の子一人じゃ大変ですからね」


 そう言って園田くんは多めにプリントを持ち上げる。


「う…重い」


 園田くん、格好つけすぎたな。


「……」


 その時、五十鈴さんが立ち上がってこちらに近づいてきた。


 五十鈴さんの真顔が怖い…

 まさか園田くんをコキ使った私へ制裁!?


「五十鈴さん?」


「……」


「………手伝ってくれるんですか?」


「……!」


 園田くんがそう言うと、五十鈴さんは頷いた。

 そうなの!?


「じゃあ、少しお願いします」


「……」


「持ちすぎ!持ちすぎです五十鈴さん!」


「……!」


 しかし五十鈴さん、信じられないほど力弱い。


 ………


 もしかして五十鈴さんって…


 …少し試してみようかな。

 その際、五十鈴さんの前評判は取り払ってみよう。


「そうだ五十鈴さん」


「!?」


「このあと教室を掃除しようと思うんだけど、手伝ってくれる?」


 もし噂通りのお嬢様なら、掃除なんて雑用はプライドが許さない。でももし私の想像が当たっているのなら…


「……」


 西木野さんは頷く。

 その瞳はやる気で輝いていた。


「………プフッ!」


「!?」


 やばい吹き出しちゃった。

 なにこの子、普通に良い子じゃん。


 園田くんの言いたいことが分かったわ。

 五十鈴さんが私を見ている時、それは私が何らかの雑務をしている時。今までずっと手伝うタイミングを窺っていたんだ。


「はいはいそーゆーことね、全て理解したわ」


「……?……?」


 五十鈴さんは不安げにあたふたしている。

 なるほど……無表情だから見た目じゃ分かりずらいけど、中身は誰かと関わりたい臆病な女の子ってところか。


「園田くんも掃除、手伝ってよね」


「え、僕も?」


「か弱い女子に掃除を任せて帰るの?」


「くっ…そう言われたら退路がないじゃないですか」


 園田くんも巻き込んだ。その方が五十鈴さんも安心するだろうし、二人の関係について詳しく聞きたいからね。


「私も黒板の上……届かないから……園田くんが必要……」


「それで前は手伝いに行けなかったんですね」


「うん……自分の弱さが情けない……」


「そんな大げさな…」


 へぇ、園田くん相手なら五十鈴さんも普通に喋るんだ。


 ………あれ?


「日本語喋れんじゃん」


「……!」


 まさかこれも勘違い?

 ならなんで最初の挨拶で外国語使ったの?


「なんで嘘ついた、このこの~」


「わわ……」


「ちょっと西木野さん!プリント零れますよ!」


 本当に私は何も知らないで五十鈴さんの側にいたんだな。噂だけで勝手に五十鈴さんを悪女と誤解するなんて………反省しよう。

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