86 学園祭準備期間②
学校内はもう学園祭準備ムードだ。
生徒たちはお祭りのテンションで賑わい、そこかしこでは模擬店を作る作業音が鳴り、いつもの日常風景は少しずつ学園祭の景色に変わっていく。
パシャ
そんな準備風景を写真に残すのも僕らの役割だ。
総務委員として写真撮影を任された僕、五十鈴さん、西木野さんの三人はカメラを手に、校内を撮影しながら歩き回っている。
今は中等部校舎の中庭を歩いているけど…
「五十鈴さん、写真係なのか。なんか緊張するな」
「何故一番撮られるべき本人が撮影を…?」
「猫の仮装はしてくれるのかな…」
いつもの通り、五十鈴さんが歩くと周囲の人の視線を集めてしまう。
もうこの流れにも慣れたな…五十鈴さんが写真を撮ると、みんなカメラ目線になるから便利だよね。
「それにしても、すごい規模ですよね」
僕は周囲を見回す。
まだ準備中の状態だけど、模擬店の数もクオリティも学生レベルじゃないぞ。
「出し物の数、毎年百は超えてるらしいよ」
そう言いながら西木野さんは中庭の風景を写真に収める。
やりたいことノートに書かれた“全ての模擬店を回る”は、達成にかなりの労力が必要になりそうだ。
「しかも大勢の天才児が全力で思い出作りに励んでるから、学園祭は毎年トラブルが起きるってさ」
「楽しみですけど、なんか怖いですね」
「五十鈴さんが変なことに巻き込まれないよう、気を付けないとね」
「ですね…」
五十鈴さんの友達として、僕らが責任もって五十鈴さんを守らなければ。
「……」
そんな守護対象の五十鈴さんは中庭に設置された掲示板の前で足を止めていた。
「どうしました?五十鈴さん」
「これ……」
五十鈴さんが指さすポスターには、可愛らしいうさぎの絵が描かれていた。
「うさぎ喫茶ですか…」
どうやらこの出し物は本物のうさぎを用意する喫茶店のようだ。“心をぴょんぴょんさせたい人は是非お越しください”という魅力的なキャッチコピーが書かれている。
「うちと被ってますね、生き物を取り扱うという点で」
「どっちが客を多くとるかね~」
不敵な笑みを浮かべながら腕を組む西木野さん。
華岡では模擬店の売り上、客数などがランキング形式で発表される。中には華岡学校のトップを目指し全力で模擬店を開く人もいる。
僕としてはランキングに興味はないけど…ねこVSうさぎか。
どっちの方が人気でるかな。
「そういやうちって馬術部もあるんだよね。それを合わせるなら生き物系は三つだな」
西木野さんが掲示板に貼られた模擬店リストを指でなぞる。どの出し物も普通の学校にはないものばかりだ。
「猫カフェ…面白い案だと思いましたけど、そこまで特異性はないのかもしれませんね」
「まあでも、うちの優位は揺るがないんじゃない?」
「どうしてです?」
「なんたってうちには五十鈴さんがいるんだから」
「ああー…」
確かに…五十鈴さんの存在は大きい。
ねこと同様、五十鈴さんの魅力も老若男女問わず魅了する絶対的な真実。総務委員として校内を歩き回るだけでも宣伝としての効果は絶大だ。
「ねことうさぎ……楽しみ」
そんなことになるとは想像もしていない五十鈴さんは、無表情で目を輝かせていた。五十鈴さんは学園祭での勝敗に興味がなさそうだ。
「よし!ちゃっちゃと写真撮って、クラスに戻ろうか」
でも西木野さんからはすごいやる気が伝わってくる。どうやら西木野さんはランキング上位を狙っているようだ。
「はい!」
「うん……!」
僕と五十鈴さんはランキングに興味がなくても、出し物で手を抜くつもりはない。悔いを残さないよう全力で取り組もう。




