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84 学園祭の出し物決め




 こうして僕らのクラスの出し物決めが始まる。


「じゃあまず部活とかで出し物がある人の数を確認しよう」


「人数がわかったらクラスの出し物を決めよう!」


 学園祭実行委員として黒板の前に立つのは二人。背が高くて男前の池永くんと、小柄で活発な野田さんだ。


 話し合いはまずクラスの出し物を優先できない人、つまり部活などで他の出し物に参加する人が何人いるのかの確認だ。クラスの出し物を優先してくれる人数によって、出し物のクオリティは大きく変わる。


「あの…私はライブに出ることになったので…」

「俺はアニメ制作部の声優役を担うことになった」

「僕も新聞部の取材で多忙になりそう…」


 やはりうちのクラスにも部活とかで仕事を抱える人がたくさんいる。約半数以上の人が手を上げた…つまりクラスの出し物に集中できる人は半数以下となる。


「私も別クラスの友達と出し物やるから、あまり力になれないかも」


 葵までもが手を上げていた。

 いつの間にそんな親しい友達を作ったんだ?


「あ、そうだ。私らクラス委員は総務委員の仕事があるから、当日は力になれないよ」


 西木野さんも手を上げて学園祭会議での結果を報告する。僕らは総務委員としての仕事があり、それが今回の学園祭で五十鈴さんのやりたいことだ。





「あのね……私は……まず学園祭が何なのか知りたい」


 芸術室で話し合った日、五十鈴さんはそう言った。


「私は学園祭について……知らないことが多すぎる。だから、まずノートに書かれたことはせず、いろいろ体験したい……何も知らないのに実行委員とか、模擬店を全て回るのも無謀だと思う」


「なるほど…今年は準備に使うんですね」


「……!」


 五十鈴さんは力強く頷く。

 今年の一年はやりたいこと達成を保留にして、学園祭がどのようなものなのかを観察する準備期間にしたいようだ。学園祭に関しては僕だって未知のイベント、やりたいことへの挑戦は一度学園祭を経験してからの方が堅実だ。


「そういえば総務委員の雑務に写真撮影がありましたよね。それを引き受けるなんてどうでしょう」


 学校のホームページなどに使われる写真撮影、それは五十鈴さんが学園祭を知るのにうってつけの役職だと思う。


「それ……やりたい……!」


 これで五十鈴さんの活動方針は決まった。

 今回はやりたいことには挑まず、総務委員の撮影班として働く。様々な学園祭の光景を写真と共に目に焼き付け、学園祭を深く知るところからスタートだ。





「そうか…五十鈴さん抜きかぁ」


「うーん…大きな戦力を失うね」


 池永くんと野田さんはあからさまに落ち込んでいる。

 それも当然、このクラス最大の特徴は超絶美少女の五十鈴さんだ。二人は五十鈴さんの魅力をどう生かすかで出し物を決めるつもりだったはず。


「ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに俯く五十鈴さん。


「だ、大丈夫ですよ!?」


「そうそう!忙しいのはみんな同じだから!」


 池永くんと野田さんは慌てて五十鈴さんを気遣う。五十鈴さんに頭を下げられたら、もう何も言えなくなっちゃうよね。


 …ふと思ったんだけど。


 五十鈴さんがクラス内でしっかり発言したのって、ノルウェー語での挨拶以来だよな。多少だけど、五十鈴さんがクラスメイトに心を開けるようになったってことか。


「五十鈴さんはうちのクラスの花だから」

「存在だけで客を集める…」

「それだけで貢献は十分だよね」


 クラス内での会話が聞こえた。


 何だかみんなの五十鈴さんを見る目も変わったような気がする。

 体育祭で頑張っている姿を見たからだろうか、前期みたいに怖いお嬢様みたいな扱いではなくなっていた。この調子で五十鈴さんの誤解が解ければいいけど…


「じゃあ早速、出し物を決めようか」


「じゃんじゃん提案してね~」


 池永くんと野田さんが話し合いを次のステップに移行させる。クラスの出し物に集中できる人が半数以下だということが分かった。

 この人数で行える出し物か…どんなものがいいかな。


「香水喫茶!」

「幕末喫茶!」

「筋肉喫茶!」


「どれもニッチすぎぃ!」


 僕は無言で傍観してるけど…実行委員の二人は大変そうだ。

 個性の強い天才が集まるクラスで出し物を開いても、内容がちぐはぐになりやすい…その意味が分かった気がする。やはりクラスの出し物は無謀なのか…




「猫カフェなんてどうかにゃ?」




 その時、ある案が教室内を沈黙させた。

 この案はいつも陽気な猫宮さんの案だ。


「人員が少ないのなら猫の手を借りればいいのにゃ」


「えっと…どうやって猫を集めるの?」


「うちの家族には猫がたくさんいるにゃ。人に慣れてるから、報酬にカリカリが貰えればみんな協力してくれるにゃ」


「………」


 野田さんは予想外の案に面食らっていたが、悪くなさそうな反応を見せる。


 他のみんなも否定的になる様子はない。

 猫カフェは猫宮さんらしいかなり個性的な案だけど、猫の可愛いは万国にも共通する揺るがない事実。猫が嫌いな人は少数派だろうし、アレルギーでもない限り否定する人はいない。


 これは…有りなんじゃないか?


「それでみんなも猫耳をつけてくれれば完璧にゃ!」


 さらに案を出し続ける猫宮さん。


「音無さんもライブの時は猫耳をつけて演奏するにゃ」


「ふえ!?」


「バラバラに活動しても、猫耳をつけていれば宣伝活動になるにゃ」


 部活の出し物を優先してクラスの手伝いが出来ないみんなも、猫の装いで活動すれば宣伝役としてクラスに貢献できる。

 実に理に適った作戦だ。


 でも…猫耳は恥ずかしいぞ。

 イベントホールでライブする予定の音無さんが顔を赤くして慌てている。


「全員、問答無用で猫耳装着するにゃ!」


 その案にはクラス内でどよめきが生まれる。

 僕もだけど、五十鈴さんまで猫耳を付けることになるのか…


 …五十鈴さんの猫耳姿か。


(猫耳を付けた五十鈴さん…)

(猫と絡む五十鈴さん…)

(猫真似をする五十鈴さん…)


 なんでだろ…今、クラス全員の意思が一つになった気がする。


「よし、猫宮さんの案を採用しよう」


「じゃあ猫カフェ決定でいいかな?」


 池永くんと野田さんが最終確認すると、クラス全員が同意。

 こうして僕らの出し物は猫カフェに決定した。


 結局、決め手になるのは五十鈴さんの存在だった。

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