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81 体育祭➄




 ついに最後の種目、リレーの時がやってきた。

 因みに走る順番は葵、涼月くん、僕、五十鈴さんとなっている。


 順番は葵が勝手に決めたのだが…なんでよりにもよって五十鈴さんを最後にしたんだろう。


「ふふ…舞台は整ったわね」


 リレーが行われるまで待機していると、また朽木さんが絡んできた。

 点数は僕らの赤組、朽木さんの青組がほぼ並んでいる。このリレーの勝者が体育祭の優勝になる。確かにこれは朽木さんが望む熱い展開なのだろう。


「運動部に所属してないメンバーで勝てると思うなんて、私らも見くびられたものね!」


 朽木さんのチームには、いかにも運動やってますといった雰囲気の男子が揃っている。


「ふふふ…私の幼馴染たちの力、侮らない方がいいよ」


 葵は自信満々に答える。

 この自信はどこから湧いて出るのか…


「…ていうか、なんでアンタが最後じゃないのよ!」


 僕らの整列する順番を見て文句を垂れてくる朽木さん。どうやら葵がアンカーだと思っていたらしい。ということは…この朽木さんが青組のアンカーなのか。


「五十鈴さんが最後の種目を締めくくるに相応しいと思ったからだよ」


 葵がそう主張している。


「た…確かにこの人は綺麗だけど、競争に美人は関係ないでしょ!」


 朽木さんは釈然としない様子だ。

 そりゃそうだ…僕だって納得してないし。


「……」


 五十鈴さんは面識のない朽木さん相手に緊張し表情を強張らせている。その態度がどことなく威圧している様にも見えた。


「く…や、やる気はあるようね」


 五十鈴さんの威圧に押される朽木さん。


「まあいいわ、勝ちは貰うんだからね」


 そう言い残して朽木さんは持ち場に戻った。

 何というか…熱血な人だな。


「さぁ気を取り直して、私たちは自分の全力を出し切ることだけ考えよう」


 向こうが啖呵を切ってきたにも関わらず、葵はマイペースだ。

 こいつはメンタルが強靭な上、スポーツは楽しむものだと認識している。だから緊張したり怒ったりして自分のペースを乱したりはしない。


「………」


 涼月くんも動じることなくストレッチをしている。

 やっぱり頼もしいな…この二人は。


「……」


 でも五十鈴さんだけはまだ緊張しているようだ。


 …僕はもう弱音を吐かないぞ。五十鈴さんのためにも、心強い一言でみんなを鼓舞しよう。


「では…幼馴染四人組、全力でいきましょうか」


 僕は手を前に差し出した。

 スポーツ漫画とかでよくやる円陣ってやつだ。


「園田くんがそんなことするなんて…なんだか燃えるね!」


「………(やるからには勝つ)」


 葵と涼月くんが差し出した僕の手に重ねる。


「……!」


 そして五十鈴さんも、僕らの手に重ねた。

 その表情にはもう迷いがない。





 こうして始まった最後の競技、リレー。

 一走目は葵だ。


「位置について、よーい…」


 パン!


 スタートの合図が鳴ると同時に、葵がスタートダッシュを切る。


「速い…!」


 客席がざわつくほど、葵のスタートは鮮やかだ。

 あいつは身体能力も同年代の中でズバ抜けているが、真に凄まじいのは反射神経と瞬発力だ。スタートの合図と同時に動き出す聴覚、ゼロから100%の力を出し切るアジリティ。


 こればかりは努力しても得られない、葵が天才たる所以だ。


 一走目は葵が他との差をつけて涼月くんにバトンを渡した。




 涼月くんの身体能力は同年代の中でも頭一つ抜けている。


 そして涼月くんが持つ才能は、その持久力だ。僕は涼月くんが息を切らしている姿を見たことがない。とにかくスタミナの量が無尽蔵なんだ。


 それなのに涼月くんは疲れることを拒む省エネ主義、無尽蔵のスタミナが勿体ない性格だ。でも今回は妹のこともあって全力を出してくれるから頼もしい。


 涼月くんは運動部相手に距離を離しながら、僕にバトンを渡す。




 はい、僕は普通です。

 特質した能力なし、葵や涼月くんみたいな才能はありません。


 僕に出来ることは失敗しないことだ。


 バトンを受け取り、全力で走り、五十鈴さんにバトンを渡す。とにかく丁寧にトラブルを避けることだけに集中しよう。

 平凡な僕にはそれしか出来ない。

 

 だから出場したくなかったんだ…


 葵は“園田くんは失敗が少ないことが長所だよ”とか言っていたが、僕は長所だと思っていない。結果的に他の走者に差を詰められ、せっかく二人が作ってくれた優位がほぼなくなってしまった。


「五十鈴さん、お願いします…!」


「……!」


 僕はバトンを差し出し、五十鈴さんは受け取った。




 朽木さんは運動部のエースで、その人生のほとんどをスポーツに捧げてきたのだろう。対して五十鈴さんは退院して半年と少し、体も弱いし体力もない。

 そんな正反対な二人がリレー対決なんて、勝負になるはずがない。


 そう思っていたんだけど…


「……!」


 五十鈴さんが…速い!?


 朽木さんが五十鈴さんの後を追う形になっているが、五十鈴さんの速さに朽木さんはなかなか距離を縮められないでいる。


 どういうことだ…?

 身体測定の時だってあんなに速く走れてなかったはず。どうして五十鈴さんにあれだけの走力と体力が…?


 でも…やっぱり朽木さんの方が僅かに速い。

 どちらが先にゴールラインを切るかはギリギリだ。


 がんばれ…五十鈴さん!





 リレーが終わり、僕らは木蔭で集まって休憩していた。


「なあ…葵」


「ん?」


「どうして五十鈴さんはあんなに速く走れたんだ?」


 僕はこっそり葵に尋ねてみる。

 葵は五十鈴さんが走れることを知っていたんだ。


「五十鈴さんは頑張って練習してたし、素質はあったからね」


「だからってこんな短期間に速くなるか?」


「短期間?時間は十分あったよ」


「え?」


「夏休みだって一生懸命泳ぐ練習してたし、みんなでいっぱい遊び回ったでしょ。平日はジョギングにバランスボールとちゃんと体力作りしてたらしいし。体育祭が始まる前も、五十鈴さんは私に走り方を教わりに来てたんだよ」


「…」


 そうか…五十鈴さんは()()()()ずっと努力していたんだ。

 しかも僕がいない時に一人で葵に走り方を教わりに行ってたなんて。僕が思っている以上に、五十鈴さんは努力し成長していたんだ。


 結果は赤組が優勝、見事な勝利だ。


「唯一の不安はバトン渡しミスだったけど、そこは園田くんの支援力に任せれば間違いないからね」


 葵は親指を立てて僕を賞賛する。

 なんだろう…褒められても素直に喜べないぞ。


「あ、あの……」


 すると五十鈴さんは立ち上がり、僕らの前に立った。


「ありがとうございました……」


 五十鈴さんは僕らに深々と頭を下げた。


「いえ、五十鈴さんもお疲れ様です」

「えへへ…五十鈴さんに感謝されると照れるね」

「………(運動もたまには悪くない)」


 こうして僕ら幼馴染四人組の共闘は完全勝利で幕を閉じた。

17 運動会で一位になる。×

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