76 みんなで訓練②
本日はリレーの練習日。
集まったのは僕、五十鈴さん、葵、涼月くんの幼馴染四人組だ。
「さあ今日も張り切って練習頑張ろう!」
葵は元気よく声を出している。
「………(気が乗らない)」
でも涼月くんはあからさまにやる気がない。
省エネ主義の涼月くんは基本的に張り切らない、エネルギーを使う時は必要最低限を心情にしている。だからリレーに参加することや、こうして休みの日に学校へ集まることは彼の流儀に反する。
だが…申し訳ない涼月くん、今回は五十鈴さんのためにもやる気になってもらうぞ。
「おおーここが華岡学校か~」
妹が楽しそうに華岡学校を見回す。
そう…今日は妹を学校に連れて来ている。
「………」
涼月くんは妹を見て顔色を変えた。
嫌そうというよりは、仕方なさそうだ。
「練習がんばれ隼人くん!体育祭も応援に行くよ~」
妹は他意のない応援を涼月くんに送る。
「………(はぁ)」
涼月くんは心の中でため息を吐きながら、バトンを手に立ち上がる。
この通り、涼月くんは妹に逆らえない。
「……」
そのやりとりを五十鈴さんが不思議そうに眺めていた。
「大丈夫ですよ五十鈴さん、涼月くんは全力で協力してくれるので」
「……どうして、涼月くんは楓ちゃんのことになると優しいの?」
五十鈴さんが首を傾げて僕に問いかける。
…同じ幼馴染だし、五十鈴さんには話してもいいかな。
「妹が事故に遭ったことは覚えてます?」
「うん……涼月くんが、楓ちゃんの事故現場に居合わせてたんだよね……」
「そこまで知ってたんですか?」
「園田くんが風邪を引いた時……向日ちゃんから少しだけ聞いた」
葵が話したのか…このことは他人に話すなと釘を刺したんだが。
相手が五十鈴さんだから別にいいけど。
「妹と涼月くんは二人で球技大会の練習をしてたんです。その時僕と葵は学校の用事で行けなかったんですが」
「うん……」
「その球技大会が小学生最後のイベントだからと妹は張り切ってたんですよ。それで何度か集まって練習してました」
当時の僕らは小学六年、妹は五年。
上級生と合同で行われる球技大会は、僕らの小学校生活を締めくくる最後のイベントだった。妹は最後を勝利で終わらせたいと、いつも以上に張り切っていた。
「その練習中、涼月くんがボールのパスミスをしたらしくて…ボールを取りに行った妹が道路に出て…」
「……」
ここまで話せば五十鈴さんでも察することが出来るだろう。
妹はそこで交通事故に遭い、足を痛めた。
「球技大会には勝ちましたが、妹は怪我で大会に出られませんでした。この事故は涼月くんにとってかなり堪えたようで…」
この事故をきっかけに涼月くんは積極的に妹を気遣かうようになった。妹はそのことに気付いていないようだけど。
「そうだったんだ……」
五十鈴さんは重たい過去話を聞いてしょんぼりしている。
「でもこの事故で妹が入院したから、五十鈴さんと出会えたんです」
「……!」
「それに僕と涼月くんの距離も縮まりましたし、要するに悪いことばかりじゃなかったということです」
嫌な思い出もたくさんあったけど、それが巡り巡って五十鈴さんとの出会いに繋がった。いろんな偶然と奇跡が重なったからこそ、こうしてみんなで仲良く体育祭練習が出来ているんだ。
「ほら庭人くん、五十鈴さん。バトン渡しの練習しよう!」
僕と五十鈴さんで話し込んでいると、葵から呼び出しがかかる。
「………(やるからには良い結果を出そう)」
涼月くんも覚悟を決めたようで協力的だ。
僕らも頑張らないとな。
「行きますか」
「うん……!」
※
バトンリレーの練習はバトン渡しが基本だ。
どんなに速く走れてもバトンの受け渡しで失敗してしまったら、大幅のタイムロスとなってしまう。受け取る手の親指を下に向けて、大きく手を広げる。僕らはとにかくバトンを受け渡す練習を入念に繰り返した。
「家に帰ってもバトンを手に持って慣れておくように。バトンの受け渡しがしっかり出来ていれば負けることはないから!」
葵はそう断言しているが、勝負はそんな単純に済むだろうか。そろそろ聞いておきたい…葵にどんな秘策があるのか。
「おい、葵」
「ん?」
「本当に大丈夫なのか?五十鈴さんは体力がないし、体力測定の時も…」
「大丈夫だって、少しは五十鈴さんの努力を信じなよ~」
「………」
葵の言うことはごもっともだ。
僕が心配しすぎなのかな…
「園田くん……」
「は、はい」
すると五十鈴さんが僕の側に寄って来る。
話を聞かれてしまったか?
「本番、がんばろう……!」
五十鈴さんはやる気満々で意気込んでいる。
今の五十鈴さんには、病弱だった頃の面影はない。
「…はい、頑張りましょう!」
もううだうだ考えるのはやめだ。
努力している五十鈴さんを信じて、僕は五十鈴さんの期待に答えられるよう全力でサポートすればいい。
体育祭本番はもうすぐだ。




