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75 みんなで訓練①




 準備が終わると次は競技の練習が始まる。

 芸術に運動…華岡は忙しいな。


 平日の授業でも練習は行われるが、それは本番の予行練習が中心だから個人で出場する競技の練習時間はなかなか取れない。だからこうして休みの日に学校に集まって練習することになった。

 部活でもないのに休みの日に何度も学校に行くなんて、華岡入学前は考えられなかったな。


 今日集まったメンバーは僕、葵、五十鈴さん、出雲さんの四人。

 練習する競技は二人三脚だ。


「さあ練習しよう!」


 この場で一番やる気になっているのは葵だ。こいつは体育祭の準備期間に入ってからずっと浮かれている。休み明けテストは散々だったから、その反動ではしゃいでいるのだろう。


「……!」


 次にテンションが高いのは五十鈴さんだ。どんなことでも楽しめる五十鈴さんがちょっと羨ましく思えてきた今日この頃。


「頑張ってください」


 僕のテンションはまぁ…そこそこだ。そもそも今日は二人三脚の練習なのに、なんでやらない僕まで呼ばれたのか。


「…」


 そして一番テンションが低いのは出雲さんだ。低いというか、これが出雲さんのデフォルトなんだろうけど。


「…二人三脚など未経験だが」


 出雲さんが厳しい顔で腕を組む。


「だから練習が必要なんだよ!」


 出雲さんの三倍くらいの声量で答える葵。


「二人が力を合わせればオリンピックだって夢じゃない!」


「オリンピックに二人三脚の種目はない…」


「なんでないんだろうね?」


「知らん」


 葵の絡みを適当に返す出雲さん。

 出雲さんはまだ五十鈴さんグループと関わって日が浅いし、性格も葵とは正反対だからやりづらそうだ。


「がんばろう……!」


 その間に五十鈴さんは臆することなく割って入る。

 五十鈴さんは初対面相手だと臆病になるけど、友達になってしまえばグイグイ距離を縮めてくるんだよね。


「う、うむ…」


 五十鈴さんには反発しない出雲さん。

 親衛隊として五十鈴さんには逆らえないのかな。


「じゃあまず足を結ぼう」


 早速、二人三脚の練習を始める。

 葵が紐で五十鈴さんと出雲さんの足を結んだ。


「…」


 …出雲さん、顔が赤いけど大丈夫かな。


「ほらもっと密着して、肩も組もう」


 足を結んでも距離のある二人をくっつけようとする葵。


「……」


 五十鈴さんは指示に従い出雲さんと肩を組んで密着する。


「………ぐふ」


 すると出雲さんが鼻血を出して倒れた。


「出雲さん!?」


 まさか熱中症!?

 まだ練習も始まってないのに…


「大丈夫?出雲さん」


 葵は慌てて紐を解き出雲さんの体調を気遣う。


「ああ…問題ない」


 そう強がっているが、今の出雲さんは顔が真っ赤だし足元もフラフラしている。この調子では練習続行は無理そうだな。


「…私は、雑念を取り払う必要があるようだ」


 そう言い残して出雲さんは葵の肩を借りて日陰に避難した。

 雑念…?





「じゃあ代わりに庭人くんが五十鈴さんと組んで練習しよう」


「なんでだよ、お前がやれよ」


「私は遠くからレクチャーしたいから」


「…そもそも男女だぞ」


「この学校にはないけど二人三脚で男女が組むなんて普通だよ」


 練習を中断している間、僕と葵で口論が勃発する。

 もし僕が五十鈴さんと肩を組んで密着したら、出雲さん以上の体調不良を起こしそうだ。


「やっほー二人共」


 そうこう争っていると、二組の女子がこちらに声をかけてくる。


「野田さんと…東堂さん?」


 同じクラスの女子、野田咲さんと東堂静香さんだった。

 この二人は二人三脚に出場する二組目のペアだ。


「私が呼んだんだよ。同じ競技だし一緒に練習しようと思って」


 葵が誘ってたのか。

 また女子が複数、男子が僕一人という不利な状況になってしまった。


「あれ?出雲さんはどうかしたのだ?」


 野田さんは日陰で横たわっている出雲さんを指さす。


「体調がすぐれないらしくて今は休んでます」


 僕が事情を説明した。

 出雲さんは日陰で休み、五十鈴さんが団扇を扇ぎながら看病している。


「…あの二人、いつから知り合ったのだ?」


 野田さんは羨ましそうに出雲さんと五十鈴さんを眺めていた。


「夏休みの時に偶然会って、それから仲良くなったそうですよ」


 出雲さんについては五十鈴さんから聞いている。

 なんでも五十鈴さんの私服を一緒に選んでくれたとか。あれは素晴らしいセンスだった…出雲さん、案外可愛い物好きだったりするのかな。


「まさか出雲さんに抜け駆けされるとは思わなかったのだ」


「わかる…」


 野田さんの言葉に東堂さんが頷く。


 抜け駆け?

 うちのクラスは何かの競争でもしているのかな。


「こうなったら仕方ない、三人でローテーションしながら二人三脚の練習しようか」


 葵がそう提案すると、五十鈴さんは葵の大きな声が聞こえていたようでこちらに近づいて来た。


「そ、園田くん。五十鈴さんの通訳を頼むのだ」


「…!」


 野田さんと東堂さんは慌てて僕の服を引っ張る。


「いや…通訳なんて必要ないですよ」


 学校中どころかクラスメイトですら、未だに五十鈴さんが日本語不自由な外国のお嬢様だと思い込んでいる。五十鈴さんが人の多い所で話せないのも誤解を生む要因になっているんだけど。


「……」


 五十鈴さんは接し慣れていないクラスメイトを前に表情を強張らせている。そんな五十鈴さんのプレッシャーを前に、野田さんと東堂さんも尻込みしていた。


 だが相手はたったの二人、がんばれ五十鈴さん。


「……よろしく」


 そう一言呟き、五十鈴さんは頭を下げた。

 セリフは短いけれど怖いお嬢様という誤解を解くには十分だ。


「よ、よろしくなのだ!」


「よろしく…」


 そんな五十鈴さんの姿を見て、二人の緊張の糸が切れた。


「ついに…ようやく五十鈴さんと関われたのだ…!」


「わかる…!」


 野田さんと東堂さんは嬉しそうだ。

 こんな感じで少しずつ五十鈴さんの交友関係が広まっていければいいな。


「じゃあ僕は出雲さんの看病をしてるので、三人は練習しててください」


 二人三脚に出ない僕は練習する必要ないし、出雲さんの看病でもしながら五十鈴さんたちの練習風景を眺めてよう。


「はい、団扇……」


 五十鈴さんは団扇を僕に渡す。


 …団扇を受け取って思い出したけど、明日はバトンリレーの練習をやるんだよな。きっと涼月くんは面倒くさがるだろうから、何か手を考えておこう。

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