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69 アメ先輩




 夏休み最後の日、五十鈴さんはアメ先輩と対面した。


「やあ、蘭ちゃん」


 アメ先輩とは五十鈴さんが入院時代に知り合った人物で、やりたいことノートを作り五十鈴さんに夢と勇気を与えてくれた恩人だ。


 それ以外の詳細は一切不明。

 因みに女性だ。 


「……!」


 久しぶりの再会に五十鈴さんは興奮していた。

 退院してから今日まで、いろいろな出来事が起きた。アメ先輩に伝えたいことが山のようにある。


「あの……えっと……」


「まあ落ち着いて、ゆっくり話そうよ。学校生活は順調?」


 慌てる五十鈴さんを落ち着かせるように、アメ先輩は優しく微笑んだ。


「はい……学校生活、楽しい……!」


 落ち着きを取り戻した五十鈴さんは、心からの感想を述べる。


「そりゃ何よりだ。ならノートの進捗は順調かな?」


「こんな感じです……」


 五十鈴さんはやりたいことノートをアメ先輩に渡した。


「おお、もう二十も達成してるんだ!」


 学校生活が始まって半年、ノートに書かれた目標の五分の一を達成したのだ。順調に達成できていると言ってもよいだろう。

 アメ先輩に褒められ五十鈴さんはご満悦だ。


「でもまだまだ油断できないよ」


 浮かれる五十鈴さんにアメ先輩から厳しい一言。


「ノートの前半は調子をつけるために、簡単なものばかりにしたでしょ?ノート後半は一人だと達成は難しいから、友達の力も借りるんだよ」


 二人で書いたやりたいことノートは入念に作り込まれている。

 序盤は身近なイベントや季節の楽しみなど無理のない夢を書き並べた。だがノート終盤に書かれた目標には本当の夢が書かれている。その難易度は五十鈴さん一人の力で達成できないものが多い。


「蘭ちゃん…いい友達には出会えた?」


 アメ先輩は一番心配していたことを五十鈴さんに尋ねる。

 高貴なオーラを放つ超絶美人の五十鈴さん。しかも緊張すると人相が悪くなる性質も持っているので、友達作りが最初の壁になると予想していた。


「はい……!優しくて頼りになる西木野さんに、掃除仲間の木蔭ちゃん!それから……!」


 だが五十鈴さんはもう独りぼっちではない。

 一緒に遊んでくれる友達に囲まれ、退屈することのない毎日を送っている。


 それを知ってアメ先輩は安堵した。


「…ごめんね、一緒に学校生活すごせなくて」


「……」


「私が先輩になってリードしようと思ったんだけどな~」


「大丈夫です……」


「え?」


「アメ先輩には、もう十分すぎるほどの勇気を貰いました……だから、大丈夫です」


 五十鈴さんは成長した。

 もう病室の中で絶望するだけの病弱少女ではない。それに今の五十鈴さんにはアメ先輩の代わりになる頼もしい友達、園田くんがいる。


「それはそれで寂しいぞー!」


「……!」


 感極まったアメ先輩は五十鈴さんに飛びかかる。

 しばらく二人は楽しい時間を過ごした。





「さて、そろそろ帰らないと」


 アメ先輩は腕時計を確認する。

 

「学校生活が順調みたいで安心した。もう私がいなくても平気だね」


「……」


 五十鈴さんは寂し気に目を伏せる。

 大丈夫と言っても寂しいものは寂しい。


「そんな顔しなくてもまた会いに来るよ」


 俯く五十鈴さんの頭を撫でるアメ先輩。


「友達を大切にして、楽しい学校生活を送るんだよ」


「……!」


 アメ先輩の言葉に五十鈴さんは迷いなく頷く。


「それじゃまたね~」


「はい、また……!」


 五十鈴さんは手を振ってアメ先輩を見送った。

 次に会う時は、もう十個くらいやりたいことを達成させてアメ先輩を驚かせたい。五十鈴さんは明日の学校が待ち遠しくて仕方がなかった。

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