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61 夏祭り②




 夏祭りが開催されれば、必ず人で溢れかえる。

 華岡の夏祭りも例外ではなく、花火大会の話題性もあり大勢の人で賑わっている。華岡駅は道幅が広いから人で詰まることはないけど、なかなか前には進めない………はずだったのだが。


「すごい混んでるはずなのに道が広いね」


「五十鈴さんのおかげだね…」


 星野さんと木蔭さんは目の前の光景を見て五十鈴さんに感服する。

 近寄りがたい美しさを持つ五十鈴さんが歩けば、通行人の誰しもが五十鈴さんに見惚れ無意識に道を譲ってくれる。まるでモーセが海を割るがごとく、群衆は五十鈴さんに道を開けた。


「……!」


 そんな常軌を逸した事態だが、五十鈴さんは無表情のまま未知の屋台に目移りしていた。


 確認するまでもないが、五十鈴さんは夏祭り初体験だ。

 テレビの中でしか見ることが出来なかった華岡夏祭りの舞台にこうして立っていられるんだ。プール同様、きっと感無量だろう。


「もしかして五十鈴さんって、夏祭りに来るの初めて…?」


 そんな五十鈴さんの様子に気付いた木蔭さん。


「うん……」


「へぇ、五十鈴さんって初めてなことだらけだね」


 五十鈴さんの反応を見て星野さんも楽し気だ。未知の体験に興奮する五十鈴さんは見てて飽きないよね。


「じゃあ…どこに行きましょうか」


 僕が行く先をどうするかみんなに尋ねてみた。

 遊ぶ物だったら射的、金魚すくい、輪投げ、くじ引き、型抜き。食べ物だったらりんご飴、綿あめ、やきそば、たこ焼き。他にもより取り見取りだ。


 さあどこに行きたいんだ、五十鈴さん。


「……」


 五十鈴さんは悩んでいた。


 そりゃそうなるか…

 普通の夏祭りですら遊ぶところ満天のイベント、しかもここは華岡の夏祭りだ。選択肢が多すぎて決められないよね。


「はい!りんご飴が食べたいです!」


 そんな中、妹がマイペースに提案する。


「いいね、じゃあ行こうか」


 星野さんが採用し、行く先が決まってしまった。

 こんなあっさり決めていいのだろうか。


「……!」


 でも五十鈴さんはわくわくした面持ちだ。

 夏祭り初体験の五十鈴さんなら、変に悩むより片っ端から遊んだ方がいいのかな。歩き回っていれば興味の魅かれる屋台が見つかるだろうし。





「あ、あの……!」


 しばらく屋台を見て回っていると、五十鈴さんが足を止め僕らを呼び止めた。


「これ……」


 五十鈴さんが立ち止まった屋台は、よくある紐を引っ張るタイプのくじ引きだ。


「五十鈴さん、これやりたいの?」


「……!」


 星野さんの問いに五十鈴さんは頷く。


 よりにもよってくじ引きか…

 知っての通りくじ引きには豪華賞品が目白押し。だが僕はそれらが当たっているのを見たことがない、相当運が強くないと当たらない恐ろしい屋台だ。


「これっていつも気になるけど…本当に当たるの?」


 木蔭さんも僕と同じ疑問を呟く。


「安心しな、少年少女」


 そうこう話し合っていると、くじのおじさんが話しかけてきた。


「華岡夏祭りにズルするような輩はいないよ。当たりなら確実に潜んでる、それを引き当てられるのかは君たち次第だがね」


 おじさんは良い笑顔を僕らに向けた。


「じゃあやる!」


 そこで妹が手を上げた。

 自ら進んで人柱になってくれるとは、ありがたい。


 クイッ


 妹が紐を引っ張る。

 引いた景品は…安物のお面だ。


「ぐ…」


 外れを引いて悔しがる妹。


「ならもう一回…!」


「熱くなるな、挑戦は一回だけにしておけ」


 妹にブレーキをかけるのが僕の役目だ。

 こいつはすぐ熱くなるからな。


「……!」


 次は五十鈴さんが前に出た。

 妹の敗北を見ても挑戦を辞さないか…


「お、こりゃべっぴんさんだな。だが運試しなんで美人でも加減は出来ないぞ」


 くじのおじさんは挑戦的な笑みを浮かべる。


「………………」


 真剣な目で紐の束を見つめる五十鈴さん。

 そして一本の紐を手に取り、引っ張った。


「……!」


 持ち上がった賞品は…最新ゲーム機だ!


「おお…大当たりだ!」


 くじのおじさんがベルを鳴らす。

 これは僕の家にあるゲーム機よりも最新機、まさしく大当たりの景品だ。


「すげー…流石は美少女!」

「これが天賦の才と運ってやつか」

「最初から恵まれている人は違うな」


 周囲に集まっていたギャラリーも歓声を上げていた。


 最初から恵まれているね…


「良かったですね、五十鈴さん」


「……!」


 かなり嬉しそうな様子の五十鈴さん。

 もしかして、これがお目当ての品だったのかな?


 とはいえ重たいゲーム機を持ってお祭りを回るのは辛いだろう。


「荷物、持ちますよ」


「え……でも……」


「荷物持ちは男の僕に任せてください」


「う、うん……」


 五十鈴さんは景品を僕に託してくれた。

 こんな時くらいは男を見せないとね。


「なんか本当に従者みたいだね…園田くん」


 木蔭さんが僕を褒めてくれる。

 男じゃなくて従者か………別にいいけど。

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