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60 夏祭り①




 華岡の夏祭りには特質した良さがある。


 まず規模の広さだ。

 華岡駅を中心に数多くの屋台が展開され、どれだけ人が集まってもごった返すことはない。広さに比例して屋台の種類も充実していて、珍しい食べ物や遊び屋台などが数多く並んでいる。


 そして華岡夏祭り最大の魅力、それは花火大会だ。

 夏祭りが行われる三日間、夜になると必ず巨大な花火が打ち上げられる。その完成度と美しさは、直接目にした人にしか分からないだろう。

 噂ではその花火はかの有名な玉屋と鍵屋の子孫である天才花火師が手掛けており、その天才はまだ学生で華岡学校の生徒だとか。その話題性もあり、華岡の花火大会は毎年テレビで紹介されるくらい人気だ。


「いや~楽しみだねぇ」


 妹は紅葉柄の浴衣姿で浮かれている。

 僕と妹は華岡駅で五十鈴さんたちと待ち合わせることになった。


「何回も行ったことあるし、代わり映えしないだろ」


 華岡市民である僕や妹は、何度も夏祭りに足を運び花火大会も見てきた。行けばそれなりに楽しめるけど、そんなテンションの上がるものでもない。


「お兄ちゃんは分かってないな~」


「何が?」


「前とは違って、今回は五十鈴さんたちが浴衣で来るんだよ?」


「…」


 何を期待してるのかと思ったら…

 でももし五十鈴さんの浴衣姿を拝めたら、至福だな。星野さんと木蔭さんもどんな浴衣をチョイスしたのか興味は尽きない。


「いや…浴衣で来るとは限らないだろ」


「絶対浴衣だね、賭けてもいい」


「我が家では賭け事禁止だろ」


「つまらないこと言ってないで、お兄ちゃんは男として浴衣姿のみんなを褒める準備はしときなよ」


 妹が肘で突っついてくる。

 またこの流れか…プールの時といい、黒一点だと苦労するな。


「おーい」


 しばらく待っていると、星野さんの声が聞こえた。

 因みに待ち合わせ時間よりもまだ三十分早い。時間を決めて集まっても、みんな早めに来るタイプのようだ。


「おまたせ~」

「久しぶり、楓ちゃん…」

「……」


 星野さん、木蔭さん、五十鈴さん。

 みんな浴衣姿で現れた。


 星野さんの浴衣は黒の星柄だ。

 よく運勢を気にする星野さんのミステリアスなイメージに似合っていた。普段は下ろしている長い髪を束ねているからか、ちょっと大人っぽい印象を受ける。手に持っているカメラは…今日のラッキーアイテムかな?


 木蔭さんの浴衣は紫色の朝顔柄か。

 寡黙で物静かな木蔭さんの印象にマッチしている。長い前髪は横に流していて、いつもより表情がよく見える。それでも残念ながら大人っぽくは見えないな…小動物的な愛嬌はあるけど。


 そして五十鈴さんは、白と水色の鈴蘭柄。

 何というか…五十鈴さん専用の完璧を超えることわざを誰か発案してくれないだろうか。ハーフの特徴が魅力的な五十鈴さんなのに、日本の着物が似合うのはどういうことか。着物が似合うのは大和撫子だけにあらず、異国のお姫様のような五十鈴さんにも見事に適合している。その美しさを例えるなら…


「お兄ちゃん、無言で考察してないで褒めなきゃ」


「…!?」


 妹に背中を叩かれ我に返る。

 褒めろと言われてもな…


「…三人共、すごく似合ってて綺麗ですよ」


 プールでは順番通り褒めたけど、今回は三人同時に褒めてみた。


「そりゃどうも~」

「ど、どうも…」

「……」


 星野さんには適当に流され、木蔭さんは困ったように俯いていた。五十鈴さんは褒められて普通に嬉しそうだ。


「褒め方が雑だよ~」


 その様子を見て落胆する妹。


「もっと一人一人、懇切丁寧に褒めなよ」


「無茶言うな…男の俺が口に出して褒めてもキモいだけだろ。心の中だけでさせてくれ」


「それはそれでキモいけど…まあいいや。さぁー夏祭りを楽しもう!」


 瞬時に気持ちを切り替えた妹が先陣を切った。


「楽しみだね~」

「うん…!」

「……!」


 妹の後に集まった女子三人が続く。

 あ、そうだ。


「…五十鈴さん」


「……?」


 僕は小声で五十鈴さんを呼び止める。


「夏祭りに行くって、やりたいことノートに書いてありました?」


「うん……書いてある……」


「行きたい所があったら遠慮なく言ってくださいね、僕が上手く誘導しますので」


 今日の夏祭りを五十鈴さんの思い出に残るものにしたい。ノートにチェックを入れられるよう、僕が全力でサポートしなければ。


「……ううん」


 しかし五十鈴さんは首を横に振る。


「行きたい所があったら……ちゃんとみんなに言うよ。自分の力で……みんなと仲良くなる……!」


「おお…」


 五十鈴さんが成長しようとしている。

 前の電話の時もそうだったんだろう。自身の自主性を鍛えようとしているなら、野暮なことはせず見守るべきだ。


「わかりました、がんばってください!」


「うん……!」


 五十鈴さんは拳を握りしめた。

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