56 みんなでプール ④
みんなでお昼ご飯を食べ終わった後。午後は二組に分かれず、食後の休憩がてらみんなでプール内を歩き回ることになった。様々な形で吹き出す噴水や水のオブジェクトなど、プール内を見て回るだけでも十分楽しい。
僕はなるべく五十鈴さんから距離を置く。
そばに寄れば五十鈴さんが受ける周囲からの羨望の眼差しが、僕に対する妬みに変わってしまう。それは五十鈴さんにとっても良くないことだ。
「やっほー園田くん。楽しんでる?」
離れて歩いていると、星野さんが僕の元にやってきた。
「楽しんでますよ」
「そっか…」
「?」
「…」
星野さんが話を続けない。
なんか様子が変だぞ。
「…五十鈴さんと一緒に遊ばないの?」
無言になったかと思えば予想外なことを聞いてくる星野さん。
「あー…えっと、僕が五十鈴さんに近付くと周囲の視線が悪いものになってしまいます。なので今回は女子組だけで遊んだ方が良いかと思いまして」
「ふーん…」
「ど、どうかしました?」
「五十鈴さん、たまに落ち着きなくきょろきょろする時があるんだよ」
「…?」
それは、西木野さんの言っていた今日の五十鈴さんの違和感のことだろうか。
「何を探してると思う?」
「…ここは広いですし、行きたいアトラクションを探してるだけじゃないですか?」
「ほう…」
星野さんは意味深な笑みを浮かべる。
西木野さんといい、いったい五十鈴さんの何に気付いたんだ?
「五十鈴さん、ウォータースライダーの上から園田くんを見つけて手を振ってたんだよ」
「え!?」
「気付いてもらえなくて悲しんでたな~」
「う…」
見られてたのか…
そんなの気付けないよ。
「五十鈴さんはもっと園田くんと遊びたいんじゃない?」
「…」
僕は遠くから五十鈴さんの様子を伺う。
楽しそうにしているけど…しばらく目を離さず五十鈴さんを観察してみよう。今日の五十鈴さんは水着姿だから、あまりジロジロ見過ぎないよう意識してたんだよね。
「……」
不意に五十鈴さんがきょろきょろの辺りを見回し始めた。
そして僕と目が合う。
「……!」
五十鈴さんは慌てて視線を逸らした。
もしかして、僕を探してた?
そう思うのは自尊心が強すぎる…と前までの僕なら思っていただろうな。
「ちょっと行ってきます」
「いってら~」
星野さんに見送られ、僕は五十鈴さんの元に駆け寄る。
何だかんだ今日一日、一番話してないのは五十鈴さんだ(葵は例外)。そこまで露骨に遠ざけてしまうのは五十鈴さんに申し訳なかった。
「五十鈴さん」
「……!」
声をかけると、五十鈴さんはびっくりしたように体を強張らせる。
「ど、どうしたの……?」
「その………あ、あっちの流れるプールには行きました?」
「……まだ」
「良かったら行きません?」
「……行く!」
僕の誘いに五十鈴さんは勢いよく頷く。
「そんなら私たちはあっちの方に行ってるから、二人で行ってらっしゃいな」
西木野さんは僕らが行く先とは真逆の方向を指さす。
みんなで行けばいいのに…
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃーい」
他のみんなも息を合わせたように僕と五十鈴さんへ手を振った。なんだこの流れ…打ち合わせでもしてたのか?
「じゃ、じゃあ行きましょうか…二人で」
「うん……!」
流されるまま、僕と五十鈴さんは流れるプールに向かった。
※
流れるプールの途中にある長いトンネル。
中は神秘的な洞窟みたいになっている。薄暗い洞窟内には宝石が光り輝き、水面には光源が当たり青白く発光している。薄暗いから五十鈴さんの魅力が光ることはない、ここなら周囲の視線を気にしなくて済む。
「綺麗……」
「そうですね…」
僕と五十鈴さんは流れるプールに流されながら、洞窟内の背景を見て楽しんだ。五十鈴さんの友達が増えてから、こうして二人きりでゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりな気がする。
「次はどこに行きたいですか?」
僕は何気ない雑談を振ってみる。
「えっと……大きな樽がある所」
「ああ、あの水が落ちてくるやつですね」
「うん……他には……!」
「…行けるとこ全部行きたいですね」
「……うん」
「あはは」
「えへへ……」
暗い洞窟で周囲の視線が気にならなくなったからだろう、五十鈴さんは今日初めての笑顔を見せた。
※
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
僕らはプールを出て、バス停の前で帰りのバスを待っている。
「いやー遊んだ遊んだ!」
西木野さんが満足そうに伸びをする。
「こんなに遊んだの久しぶりだよ!」
「プールは二人よりも大勢の方が楽しいね~」
「…また来たいね」
みんなも大満足といった面持ちだ。
広大な湖島園のプールを余すことなく全力で堪能したから、疲労感も相まってものすごい充実感に浸っている。
「……」
五十鈴さんはバス待ち用のベンチに座ってうつらうつらとしている。僕らですらへとへとなんだから当然か。
「五十鈴さん、大丈夫ですか?」
「う……ん……」
「楽しかったですね」
「楽しかった……!」
五十鈴さんは疲れで緊張することを忘れ、間の抜けた笑みを浮かべる。
「お、五十鈴さんが笑った」
その笑顔を見逃さなかった西木野さん。
他のみんなも五十鈴さんの笑顔を目に焼き付けた。
「五十鈴さんって基本が無表情だから、楽しんでるか不安だったんだよね…でも楽しめてたみたいで良かった」
木蔭さんがそう呟く。
僕目線では終始楽しそうだったけど、他のみんなにはそう見えていないのが悲しい。だから怖いお嬢様という誤解もなかなか解けない。
あの洞窟の中で見せた笑顔を、人前でも自然に出せればいいんだけど…
51 大きなプールに行きたい。×




