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55 みんなでプール ➂




 お昼の時間。


 このプールには海の家がある。

 プールだからプールの家なのかな。


 木造の白い装飾が目立つ大きくておしゃれな家だ。

 中では海の家なら定番のラーメンやらかき氷などが販売されてて、他にも珍しい食べ物が目白押し。周辺でも屋台が展開されていて、どれを食べようか悩んでしまう充実ぶり。飲食可能なスペースも広く大抵の席は空いている。


 広いと言っても今日はすごい混んでいた。

 八人がまとまって食事をとるのは難しいから、また二組に分かれることになった。向こうの席で五十鈴さん、星野さん、木蔭さん、朝香さん、葵の五人が食事をとっている。


 僕は別の組。


「こんな大きなプールに来ておいて流れるプールで流されるだけって…園田はそれでいいの?」


 正面の西木野さんは呆れながらホットドックを頬張っている。

 僕はやきそばを選んだ。


「もっといろいろ遊べばいいのに」


「今日は流されていきたい気分なんですよ~」


「そういうところは希に似てるよね、園田は」


 朝香さんから西木野さんに似てると言われ、西木野さんからは朝香さんに似てると言われた。僕は何なんだろうか。


「五十鈴さんの方はどうでした?楽しんでます?」


「うん、楽しんではいたけど…」


 何か気にかかることがある様子の西木野さん。


「どうかしました?」


「…いや、何でもない」


「?」


 なんだろう…あ、そうだ。


「そっちに野田さんと池永くんが行きませんでした?」


 あれからあの二人は五十鈴さんと話せたのだろうか。


「五十鈴さんの周囲で不審な動きをしていたので、私が成敗しておいた」


 僕の疑問を西木野さんの隣に座る出雲さんが答えてくれた。因みに出雲さんが選んだ料理はきつねうどんだ。


「五十鈴さんには今日という日を楽しんでもらいたい。だが新しい交友関係を増やすことは五十鈴さんにとって楽しみを妨げるものでしかない」


「まあ…一理あったから、私からも説得したよ」


 出雲さんの意見に頷く西木野さん。

 その判断は正しいと思う。


「そうなりましたか…」


 成敗したと言いつつ出雲さんと西木野さんは穏便に済ませてくれたようだ。流石は五十鈴さん親衛隊の出雲さん、頼りになる。


 …そういえば、僕は親衛隊に所属してる出雲さんに聞きたいことがあったんだ。


「唐突ですが出雲さん、質問いいですか?」


「なんだ?」


「親衛隊で僕ってどんな扱いにされてるんですか?五十鈴さんの身を案じた組織なのに、僕がそばにいても文句ないのかなって」


「…」


 出雲さんは腕を組む。


「実は私も親衛隊について分からないことがある」


「と言いますと?」


「まず、親衛隊が結成されたのは今から約一年前だ」


「…え、一年前って去年の夏ですか?じゃあ五十鈴さんが入学する前から親衛隊が存在してたんですか!?」


「そうらしい」


 一年前となると、五十鈴さんはまだ入院中だったはず。そんな前から学校内で五十鈴さんの親衛隊が結成されてたなんて…どういうことだ?


「そして園田。お前は特例だ」


「特例?」


「私が入隊する前から、園田には手を出すなと決められていた」


「…?」


 ますます分からない。

 五十鈴さんはともかく僕なんて大した取り柄のない平凡な一般生徒だぞ。


「なんか聞いてると、きな臭い組織ね…五十鈴親衛隊」


 西木野さんの言う通り、確かに謎の多い集団だ…

 そんな得体の知れない集団が僕と五十鈴さんを気にかけているなんて、正直言って不気味。いったいどんな理由で活動しているのか。


 その組織を結成させた人物に直接話を聞いてみたいな。


「親衛隊のリーダーって誰ですか?」


「高等部一年の白詰飾利(しろつめかざり)という人だ」


「今度会いに行って話を聞いてみようかな」


「…話してくれるかは疑問だがな」


「え、どうしてです?」


「親衛隊を立ち上げた理由や、どうして園田を警戒しないのか、どうやって五十鈴さんの危機を察知しているのか。私もいろいろ聞いたが教えてはくれなかった」


「…」


 白詰飾利…何者だろう。

 一年前から気にかけているってことは、前から五十鈴さんと面識のあった人なのかも。入院中の五十鈴さんの人間関係は僕も知らないし。


「私からも質問したい」


 今度は出雲さんが僕に質問を返してくる。


「園田はいつ、どんな形で五十鈴さんと知り合った?」


「お、それは私も気になるな」


 西木野さんも便乗してきた。


 僕と五十鈴さんが出会うきっかけとなった出来事。これを話すと五十鈴さんの隠し事まで話さなければならないが…


「…その経緯を知ってる人、僕と五十鈴さんのお母さんだけなんですよ」


「…」


「…」


「それとけっこう重めな話になるのですが、本当に聞きますか?」


 少し大げさな言い方をしているが、別に嘘はついていない。

 五十鈴さんの入院時代の思い出はかなり重い話だし、この事情を知ってる人は僕が知る限り三人だけ。西木野さんと出雲さんは、そんな根が深そうな事情を聞き出そうとしているんだ。


「…聞くのはまたの機会にする」


「そうね、今日は遊びに来たんだし」


 思った通り、出雲さんと西木野さんは引き下がってくれた。二人は特質した慎重派だ、人のデリケートな部分に土足で踏み込まない。


「園田が羨ましいよ…五十鈴さんと秘密を共有して、信頼されてて」


 苦笑いを浮かべる西木野さん。


「信頼…されてるんですかね?」


 僕がそう言うと、西木野さんはため息を吐く。


「はぁ…園田って鋭い時と鈍い時があるよね。今日の五十鈴さんの様子を見て違和感に気付いてないでしょ」


「今日の五十鈴さんの…違和感?」


 僕は遠くの席の五十鈴さんを見た。

 みんなで楽しそうに食事をとっている。朝も調子は良さそうだったし、いつもより元気そうに見えるけど…


「分からない…今日の五十鈴さん、様子がおかしかったんですか?」


「さーてね」


 西木野さんはそっぽを向いてしまった。

 もしかして…試されてる?


「何にせよ五十鈴さんが一番信頼しているのは園田だ。お前が五十鈴さんを守護ってやれ」


 出雲さんは真っ直ぐな目で僕を見つめる。

 僕にとって五十鈴さんは特別だ、幸せになって欲しいと願う気持ちは親衛隊にも負けない。


「はい!出雲さんも五十鈴さんの友達として、一緒にがんばりましょう」


「いや…私はまだ友達では…」


 友達という単語に動揺する出雲さん。

 まだ距離感があるようだ。


「出雲さんがどう思おうが、きっと五十鈴さんはもう出雲さんを友達だと思ってますよ」


「…」


 出雲さんは五十鈴さんのいる方向を見ながら顔を歪めている。


 僕が通った道を出雲さんが通ろうとしているんだ…頑張れ。

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