54 みんなでプール ②
湖島園のプールはとにかく広い。
僕らは八人も集まったから、どこに行って何がしたいか意見はそれぞれだ。だから二手に別れて遊ぶことになった。
まずアトラクションエリアに向かう組。
初めての大型プールに興奮する五十鈴さんはもちろんこっち組だ。
他にも葵と星野さん、西木野さんも同行した。出雲さんは五十鈴さんの護衛と言ってついて行ったけど…ちゃんと楽しめているのだろうか。
そしてのんびりしたい組。
僕はこっちだ。
五十鈴さんと一緒にプール行っといて別行動はないだろう………と思われるだろうが、僕は泳ぎの練習の時に五十鈴さんと散々一緒に遊んだ。今回は他の女子友達と遊んで親睦を深めるべきだと思った。
「ふぅ…」
僕は浮き輪を使って流れるプールにぷかぷかと流されている。前はざんざん泳いだし、今回はのんびりしよう。
「水が気持ちいいね~」
「そだね…」
隣には僕と同じくのんびり組、朝香さんと木蔭さんも浮き輪を使って流されている。
「園田くんも私と同じのんびりタイプなんだね~」
朝香さんが僕の浮き輪にぶつかってくる。
思い返せば朝香さんとちゃんと話したことなかったな。
「そうですね。朝香さんは根っからののんびりタイプですよね」
「うん。ゆーちゃんにはしっかりしろ―ってよく怒られるよ」
「あはは…目に浮かびます」
ゆーちゃんとは西木野優子さんのことだ。
二人は幼馴染なんだよな。
「でも園田くんってゆーちゃんに似てるよね」
「そうですか?」
「五十鈴さんと一緒にいる時の園田くんはしっかり者だよ。二人を見てると私とゆーちゃんの関係に似てるなって思えた~」
外からだとそう見えるのか、それとも朝香さんだからそう見えるのか。
朝香さんはのんびり屋で、よく西木野さんに叱られる姿を目撃している。五十鈴さんは世間知らずの天然記念物だから、僕が面倒を見ないと危なっかしい時がある。この関係性…似てると言えば似てるのかな。
「五十鈴さんって入院してたよね、もう大丈夫なの~?」
「え…!」
なんで五十鈴さんが入院してたこと、朝香さんが知ってるんだ?五十鈴さんは入院していた頃の思い出をまだ誰にも話していないはず。
「どうしてそれを?」
「あの綺麗な髪には、薬品の匂いと冷たい涙の匂いが染みついてた…嗅ぐだけで辛い過去が伝わってきたよ~」
「…」
西木野さんから、朝香さんの嗅覚は警察犬並みに鋭いと聞いていた。まさかそんなことまで匂いで分かっちゃうとは。
「そういえば楓ちゃんが言ってたよね…五十鈴さんが病院にいた儚い美少女だって」
話を聞いていた木蔭さんも、前に僕の家で集まった時にした不可解な会話を持ち出す。やっぱり妹の失言を忘れてなかったか。
「あー…えっと」
どう説明したものか。
五十鈴さんは入院生活が長かったことで同情されたくない、普通の女子として友達と接したいと考えている。その意思をなるべく尊重したかったが…
「もしかして詮索したらダメなタイプの案件だった…?」
煮え切らない僕の様子を見て、木蔭さんが慌てる。
「そんな大げさなものじゃないですよ。でも、もし話す時が来るなら五十鈴さんの口からかなと思って」
「…そっか」
「僕から言えることは、五十鈴さんはもう元気で今を全力で生きている。それだけです」
五十鈴さんは順調に交友関係を深めている、いずれ自分から全てを話せる時が来るだろう。それまで出来るかぎり見守りたい。
「ふへへ…やっぱりゆーちゃんに似てるね~園田くん」
朝香さんはまるで僕の気遣いを見透かしているかのように微笑む。
※
「あれ?朝香さんだ」
「あ、園田くんだ」
僕らが流れるプールに流されていると、見覚えのある二人が声をかけてきた。
「えっと、野田さんと池永くんですよね」
小柄で可愛らしい女子、野田さん。
明るく爽やかなイケメン、池永くん。
どちらも華岡学校のクラスメイトだ。
「おお、名前を覚えているとは感心なのだ」
「こんにちは、園田くんと朝香さん」
野田さんと池永くんは気さくに応じてくれる。
僕とはたいして面識はないけど、クラスに一人はいる中心人物のような立場にある二人だ。西木野さんが指名されてなかったら、この二人が学級委員になっていたかも。
やはりクラスメイトと遭遇してしまった…
「二人でプールに来たんですか?」
「ううん、池永くんと会ったのは偶然なのだ。猫宮ちゃんと久留宮さんと一緒に来たのだ」
「俺は鈴木三兄弟と一緒に来たよ、はぐれたけど」
みんな仲のいいクラスメイトと来てたんだ。
華岡の生徒が夏休みに過ごす場所と言ったら、華宮ショッピングモールか湖島園くらいなものだ。こうして偶然会うのも不思議ではないよね…
「それにしても園田くん、五十鈴さんというものがありながら朝香さんと逢い引き?」
野田さんがにやけ顔で茶化してくる。
「違いますから!あと木蔭さんがここにいますよ」
僕は隣にいる木蔭さんをアピールする。
なんで隣にいるのに目に入らないんだ。
「あ、ごめんなのだ!」
「いいんです…慣れてるから」
悪気のない野田さんは焦って謝罪しているが、木蔭さんは気にしてない様子。
「他にも五十鈴さんと西木野さん、星野さんと出雲さんも一緒ですよ」
ついでに今回集まったメンバーを二人に伝えた。秘密にしてても五十鈴さんの存在は目立つからいずれバレる。
「すごいね園田くん。クラス中の男子…いや、学校中の生徒が羨むだろうね」
池永くんが引きつった笑みを浮かべる。
五十鈴さんと一緒にプールで遊べるとか、学校中どころか世界中の同年代から羨ましがられるだろうな。こんな集まりに参加してるから僕はクラスの男子に嫌われるんだ。
「出雲さんも一緒なの?」
すると意外そうな反応を見せる野田さん。
「はい。いつ五十鈴さんと知り合ったのかは知らないですけど」
「むぅ、あんなことを言っておきながら………先手を打たれたのだ」
「先手…?」
野田さんは何と戦っているのだろう。
「それはそうとして五十鈴さんの水着姿…見に行かない手はないのだ」
「俺も見に行こう、五十鈴さんの水着姿が見られるなんて今日はツイてる」
「あまつさえ接点を得るチャンス…!」
「偶然を装って行ってみようかな…!」
二人はそう言い残してこの場から去っていった。
大丈夫かな、五十鈴さん…急に接点のないクラスメイトが複数人で押し掛けてくると緊張してしまうかも。ついて行った方がいいかな。
「僕、様子を見てきます」
「まあ落ち着こうよ~園田くん」
朝香さんが僕の浮き輪を掴んで離さない。
「園田くんが間に入ったら、変に拗れちゃうかもよ~」
「う…」
「ゆーちゃんと出雲さんがいれば大丈夫だよ~」
…確かにそうか。
行ったとして、僕はどんな立ち位置で間に入るつもりだったのか。
僕は五十鈴さんの従者でもなければ、独占する権利もない。ここは同じ女子で頼りになる西木野さんと出雲さんを信じて任せた方が穏便に済む。
「園田くんは五十鈴さんが心配で仕方がないんだね…」
何故か木蔭さんは楽しそうに僕を見る。
「愛ってやつだね…!」
「その表現は誤解を生むのでやめましょう…」




