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53 みんなでプール ①




 ついにやってきたプールの日。

 僕は無料の送迎バスを利用して華宮ショッピングモールに下り、徒歩五分の湖島園前に到着した。待ち合わせ時間の三十分前に着いたから、まだ他のみんなは来ていない。


 それにしても…すごい人の数だな。


 夏休みだから無理もない。

 家族と旅行、カップルとデート、友達と遊びに行くにも湖島園はうってつけだ。それにオープンして日が浅いからだろう、外からここのプール目当てに来る観光客もいる。客足は前に行った花束とは天と地ほどの差があるな。


 五十鈴さん、大丈夫かな。

 こういった人込みにはまだ慣れてないだろうし…


「……!」


 あ、五十鈴さんだ。

 僕に向かって手を振りながら近づいて来る。


 ……あれ?

 五十鈴さんの隣にいる高身長の女子は…


「おはよう、園田くん……」


 五十鈴さんは息を切らして僕に挨拶する。


「おはようございます。今日は楽しみですね」


「う、うん……」


「……」


「……」


「緊張しますね」


「うん……緊張する……」


 緊張で五十鈴さんの表情はいつも以上に強張っていた。

 複数人の友達と集まって大型プールへ遊びに行く。そんなイベント、僕だって緊張する。五十鈴さんの感じる緊張は僕の比ではないだろう。


 それはそれとして…


「えっと…確か出雲さんですよね?」


「…」


 五十鈴さんと一緒に付いてきた女子は、確か出雲さんだ。

 同じクラスメイトで一番背の高い女子だから印象に残っている。でも、なんで出雲さんが一緒に?


「いつ知り合ったんですか?」


「ショッピングの時に偶然知り合ったんだよ」


 僕が疑問を口にすると、背後から答えが返ってきた。

 振り向くと西木野さんが来ていた。


「そうだったんですね」


「ふ…園田は五十鈴さんのことを何でも知ってると思わないことね」


「いや別に思ってないですよ…」


 五十鈴さんは僕の見ないところでたくさん努力している。こうして友達が増えていくのも必然だと思う。


「お~い」


 そうこう話していると、葵たちも合流してきた。

 朝香さん、星野さん、木蔭さんも一緒だ。


「これで全員ね」


 集まった面々を見回す西木野さん。

 まさか女子が一人追加されるとは。


「…改めて見ると、僕の場違い感が凄まじいですね」


 女子七人に囲まれるこの状況。

 居づらいなんてレベルじゃないぞ。


「男子なら誰もが羨むシチュだろ、喜べよ」


 西木野さんが僕を見て嘲笑っている。

 そんなこと言われてもな…


「なんだあの美少女…芸能人?」

「他の女子たちもただ者ではないオーラがあるね」

「…なんであの集団に男子が一人混じってるんだ?」


 聞こえる聞こえる…群衆の声が。

 個性豊かな女子たちに囲まれると、平凡な僕の異物感がひときわ目立つ。


「……」


 とはいえ一番目立つのは五十鈴さんだ。

 絶え間なく視線を浴び続け、今日一日楽しめるのだろうか。


「周囲の雑音なんて気にしない、楽しむことだけに集中しな」


 西木野さんがおどおどしている僕と五十鈴さんの背中を叩く。

 頼もしい姉御だ…





 湖島園のプールには多彩な水のアトラクションがある。

 ウォータースライダーだけでも四種類。他にも流れるプール、海水の混じった波のプール、ものすごい高さの飛び込み台、大きなアクアボール……他にも遊ぶところはより取り見取りだ。


 言い換えるならここは水の遊園地、プールを満喫するに十分な物が揃っている。


 普通のプールならどんなアトラクションにも行列が並ぶけど、ここではロッカーのカギに書かれたID番号を受付に伝えることで予約が出来る。その間は列に並ばなくても、遠目から見える電光掲示板を確認して自分の番号が近づいたら向かえばいい。凄まじい人込みだが、この広大なプールに無駄のない配慮が合わさり快適に遊ぶことが出来る。


「そりゃ世間の話題にもなるよね」


 僕は水着に着替え女子組が来るのを待っている。


 男子組は僕一人…なんか寂しい。

 僕も勇気を出して男友達を増やしてみようかな。

 

「お待たせ~園田」


 西木野さんの声。

 いよいよ五十鈴さんの水着姿のお披露目だ。


「……」


 五十鈴さんの水着は白のシンプルなビキニだった。

 ビキニだけど二の腕の辺りがフリルになっている、あの水着はフリルショルダーっていうんだっけ?そのフリフリが五十鈴さんの魅力的な肌が見えそうで見えない絶妙なラインで隠している。それにしても白の水着が似合い過ぎるな。異国のお姫様イメージを崩さず…


「園田、黙って考察してないで五十鈴さんに気の利いたこと言いなさいよ」


「はっ!」


 西木野さんに言われ我に返る。

 あまりの美しさに無言で熟考してしまった。


「えっと…」


「……」


 気の利いた言葉か…こんな衆人観視の中、五十鈴さんを口説くようなセリフを吐いていいのだろうか。


 ………


「…可愛い水着ですね、星野さん」


「え、私を褒めるの?」


 星野さんの着ている黄色のタンキニ水着は、活発な星野さんのイメージにピッタリ合っている。


「西木野さんと朝香さんも似合ってますよ」


 西木野さんはオレンジ色、朝香さんは水色のワンピース水着か。色合いが二人の個性にマッチしていてグッド。


「五十鈴さんもとてもよく似合ってます!」


「……!」


 そして五十鈴さんを褒める。


「ほう、先に私らを褒めて()()()()を出しながら五十鈴さんを褒めるとは…いい度胸してんじゃん」


 怖い笑みを浮かべながら僕を睨む西木野さん。


「う…」


 魂胆を見透かされた…

 五十鈴さんだけ褒めたら変な感じになるけど、みんなを褒めれば変に意識することはない。とはいえ気を紛らわせる理由で女子の水着姿を褒めるのは失礼だよね。


 でも似合っているのは事実だ。


「木蔭さんは落ち着いた水着でいいんですね」


「…私は褒めなくていいから」


 木蔭さんは恥ずかしそうに水着姿を隠そうとする。ミントグリーンのワンピース水着は木蔭さんの大人しい印象を崩さず馴染んでいる。


 後は出雲さんの水着姿だが…


「何も言うな」


「あ、はい」


 目を合わせた瞬間、出雲さんに感想を拒否された。

 出雲さんが着ているのは黒のバンドゥ水着。けっこう大胆で大人っぽい水着だけど、高身長の出雲さんは見事に着こなしている。だが着慣れていないのか顔を赤く染めながら周囲の目を気にしていた。


「庭人くん、私の水着姿はどう?」


 最後に葵がアピールしてくる。


「…いつもの」


「そんだけ!?」


「そんだけって…前と同じスクール水着だろ。感想なんて出ないよ」


 練習の時に葵は散々目立ったから今回はスルー。


 それにしてもみんなの水着姿は見事の一言に尽きる。だがやはり周囲の目を惹くのは五十鈴さんだ。


「…」

「…」

「…」


 道行く人の誰しもが歩く足を止め、僕と同じく無言で見惚れている。五十鈴さんを中心に人の円が出来ていた。


「立ち止まらないでくださーい!」


 プールの監視員が交通整理に入るくらい人で混みあっている。芸能人がアポなしで遊園地に来ると、こんな感じで運営側を困らせるんだろうな。


「さてさて、私らも立ち止まってないで行こうか」


 気を取り直して西木野さんが僕らを先導してくれる。

 

 ついに始まったこの夏最初のイベント。

 果たして五十鈴さんは素敵な思い出を作れるだろうか。

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